第26話
あの事件から何日かが過ぎ、それなら事件の熱りが多少は冷めたかと思えば、全くと言っていいほどそんな事は無かった。
監視の目は無くならず、城の警備は相変わらず厳しいままだ。城の周りをワイバーンが飛び回り、フルプレートで身を包んだ表情が一切見えないヤバめの騎士がそこら中を徘徊して、初めてこの城を訪れた時とは比べ物にならないくらい厳重で怖い雰囲気だ。
だがそんな城の中に一か所だけ異様な雰囲気を漂わせる場所がある。
城の遥か上、頂上付近の一室。城の一部であるにも関わらず、どこか隔離されたような地続きの閉鎖空間に思える一室。
その一室は外から見ればいつも通り孤立して、ただただその役割を全うし続ける空間でしか無い。
しかし、その中身はこれまでと違い、僅かに漏れだす気配は他とは一線を画して異様だった。
・・・
「でっ、そいつがその威張り散らしてる奴の顔面をドオンッ!! 最後の最後で、そいつが一発決めて、その勝負に勝ったんだよ」
「す……凄い! スキルが無いのに勝負に勝つなんて……凄い人なんですね」
「まあ、色々俺らもそいつに協力したんだよ、な!」
「そうそう。まっ、そのせいで地獄のバイト三昧になったんだけど……な!」
「それはもういいだろ!! しつこいぞ!」
「しつこくねぇよ!! リュウジなんて魔力をダラダラ垂れ流してるだけだったじゃねえか!! 俺なんかなあ……」
「ぷっ……アハハハ!!」
二日後俺たちは約束通りジョエルの元を訪れた。何となくジョエルから漏れ出る雰囲気を感じ取っていた俺は薄々こうなるとは思っていた。
約束通りに訪れると、照れながらも内側から溢れる嬉しさを抑えきれていないジョエルが俺らを出迎えた。部屋の中に案内されると机の上にはその日ジョエルの元に届けられた手を付けられていない晩の食事が残っており、ぜひ俺たちに食べて欲しいと促された。
その後もやけに何か欲しい物はあるかとか、して欲しい事は無いかとジョエルは俺たちに聞いてきた。
俺と司は顔を見合わせ、お互いため息を吐く。
それを見て困惑するジョエルの前に俺が出ると、何も言わずにジョエルの綺麗なおでこにデコピンを喰らさせた。
「あでっ!? な、何を」
「何を? じゃ、無ぇよ! いるんだよ、お前みたいに友情を売り物か何かと勘違いしてる奴」
ポカンとするジョエルに俺はさらに捲し立てる。
「よく聞けジョエル。友達っつうのはそもそも……」
その日はほとんどが俺の説教で時間が過ぎた。
俺も長い事人生を経験したわけじゃないし、異世界転移を除けば普通の高校生だった訳で、後世に名を残す偉人のように深い事を言える人間じゃ無いが、ジョエルがやっている事が気持ちの良くない事だってのは分かる。
まあお互い、まだまだギコチナイっつうか、慣れてないっていうかで気を遣ってるのは事実だから仕方ないっちゃないんだが。
だけどそれはあくまで最初の内だけだ。
ジョエルの元々の人の良さもあるのだろうが、割とすぐに俺たちは本当の意味での友達になっていた。
食べたことが無いって言うから街中で適当に買った飯を持っていってジョエルの王族専用の晩飯と交換したり。
逆に俺は本に興味があったから何冊か貸してもらったり、司と二人でチェスに似たボードゲームでジョエルと対戦したり、様々な時間を過ごした。
そしてもう一つ朗報なのが、どうやら城の不法侵入はどうやら俺たちでは無さそう、という事だ。
いやまあ、入っていいか悪いかで言えば、ここは悪いよりの場所ではあるのだが、ここ数年城の上空を哨戒する部隊は出払っていて、俺たちがバレた可能性は低いみたいだ。
ただ、今回の事件をきっかけに戻って来たみたいだが。
「じゃあさ、あの日俺とリュウジみたいに城に行った奴が他にも居るって事?」
「まあそうなるよな。なあジョエル、これって聞いていい質問かわかんねぇんだけど……あー、この城には、要はそんなヤバい場所があんの?」
「そ、うですね……」
明らかに地雷な質問をして俺は見事に踏み抜いてしまった。世間を知らない、箱入り中の箱入りのジョエルですら言い淀む質問になんだか怖くなってきた。
「あ、いや! 言いたくなかったら全然! 大丈夫だから」
俺は咄嗟に質問を打ち切り別の話題に変えようとすると、しばらく難しい顔をしたジョエルが口を開いた。
「えーっと、この城は今でこそ、いわゆる王族の権威や国の象徴のような役割を果たしていますが、本来は別の目的の為に建てられた物なんです」
「城が城以外の目的で建てられたのか?」
「ええ。この城は言ってしまうと、とあるスキルで建てられた物なんですよ」
「はあ!? このバカでかい城がスキル!? じ、じゃあこれも過去の転移者が建てたものなのか?」
「あ、いえ、これは何代も前の王族の一人が建てたものと言われています。歴史書にそう言った記述が残されているんですよ」
俺は今自分が立っている床や壁、天井を見やり驚愕する。
スキル一つでこれだけの建造物を建ててしまえる事に改めてこの世界の異常さを突きつけられる。
それと同時に、世界の危機とやらに本当に俺たち転移者の力が必要なのかと疑問になる。
(いや、ソシャゲの10連ガチャ的な意味合いが強いのか……)
「それにしてもスゲェな。こんな城がいつまで経っても残ってるなんて」
司が何気なく口にした言葉に俺も同意する。しかしジョエルの表情はまたもや暗く、落ち込んでいた。
「……この城はさっきも言った通り、城としての役割以外の為に建てられたもので、その役割というのが……『楔』なんです」
「楔?」
「はい。この世界には幾度となく世界の危機が訪れているのですが、その歴史はこのレオデルシア王国の歴史を持ってしても到底遡りきれないほど、悠久に続いているのです」
「それが、お前の話の楔と何が関係すんだよ?」
「世界の危機への対抗手段としてこの国では勇者召喚が行われていますが、その歴史は1000年ほどで、まだまだ若い方法なんですよ」
「え? つまりどういう……」
「つまり、ジョエルが言いたいのは、この城は勇者召喚をする以前に使われていた対抗手段、そして『楔』っつう言葉から察するに、この城は過去に現れたヤベェ奴を上から打ち付けるように建ってるって事だ」
「その通りです。リュウジさん」
ジョエルの話を聞いて俺は納得した。
おそらくどこぞの勇者が無断で立ち入ったのは、紛れも無くこの城の地下だ。
そりゃあ警備も厳重になる筈だ。かつての化け物共が未だにこの城の地下に燻っているんだ。変に刺激して封印が解けでもしたら、大騒ぎどころでは無い。
下手したらそれこそ、世界の危機だ。
「なるほどな。アレ? それじゃあ何でお前は暗い顔のままなんだ?」
ドゴォンッ!!!
こいつは少し足元を見る癖をつけて歩き出すと言うか、話し始める方がいいかもしれない。
それに……アニメ、ゲーム、マンガに触れてれば大体想像つくだろ!
「この城は強力な封じ込めの力を持つ一方で、それに応じたデメリットも持っていまして。簡単に言うと、楔を維持する為に僕はこの部屋とバルコニーまでの範囲から出られないんですよ……」
「あ、えっとー、その……無理やり連れ出すとか!」
「お気持ちは嬉しいのですが、それも……」
ジョエルが城を維持するのでは無く、城が機能を維持する為にジョエルを対価としてこの場所に閉じ込める。
最早呪いと言っても過言では無いその束縛された運命にジョエルの表情はさらに沈む。
この先何個地雷が埋めてあるか上がらないが、これ以上ない事を期待するしか無い。




