第25話
「あ……えっと…」
(ど、どうしよう)
久々という言葉が霞む程の長い間、というか最後に喋った言葉すら思い出せない程、他人と会話なんてして来なかったから、この後なんて言えばいいのか分からずその場で固まってしまった。
僕と彼らの間に微妙な空気が流れ始める。
向こうの、僕より背が低い彼もどうしていいか分からず困っている様子だ。
(ダメだダメだ! ここは僕から話しかけないと……)
「あ、あの……」
「ちょっといいか!」
「は、はい!」
急に四つん這いになって苦しそうな人が急に話しかけてくるから驚いて声が裏返ってしまった。
それと久々に大きな声を出した。まだ僕にそんな声が残っていることに驚くと同時に若干の喜びが溢れる。
「お前、ハア……アレ……持ってるか?」
「あ、アレ……ですか?」
息を切らしながら未だ苦しそうに話しかけてくる。
「そう。こうなんて言うか……光る小さい板みたいなやつ」
「あ、それなら拾いました。部屋の小物入の中に仕舞って……」
「そうか、よし」
男は立ち上がるとズンズン歩いてきて中に入ろうとする。僕は驚いてそれを反射的に止めてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「あ?」
「いや、えっと……その」
「……ああそうか。悪いな勝手に入ろうとして。ちょっと焦って忘れてたわ。ん……っん! えっとーあの板は俺の大事なものなんだ、だから返してくれないか?」
彼はそう言うと、そっと手を出してくる。
だけどあまりにも他人と関わる時間が無かった僕は咄嗟に返事をすることが出来なかった。
僕の反応見て彼も困ったように頭を掻き始めどうするか悩んでいる。
このままだと強硬な手段を取られる恐れがあると思い、何か言い返さないとと必死になって言葉を探っていると。近くの方から翼がはためく音が聞こえる。
おそらくこの国の空を守る『翼竜機兵隊』の哨戒が飛び回ってるのだろうが、どうしてなのか心当たりは思いつかない。
しかし目の前に居る二人は何やら心当たりでもあるのか非常に慌てた様子で僕に話しかけてくる。
「ヤバいぞリュウジ!」
「と、取り敢えず中に入れてくれ! 頼む!!」
「え、そんな急に言われ……」
「頼むって!!」
頼んでいる割には僕を無理やり押しながら彼らはそのまま僕の部屋に入ってきた。というより押し入ってきた。
中に入ってしばらくすると外にワイバーンに乗った騎士が現れ、しばらく周りの様子を確認して何処かへ飛び去って行った。
「危なかったー」
「だな」
二人はどうやら何か後ろめたい事でもあるようだ。もしかして相当ヤバい奴らを部屋に入れてしまったのでは!? と思い彼らに対する警戒を高める。
しかしその警戒とは裏腹に彼らは気さくに話しかけてくる。
「それよりもお前、どうしてそんなに中に入れたくなかったんだ? いやいきなり知らん奴らを入れたくないってのも分かるんだけどよ、俺たちこれでも転移者で、異界の勇者ってやつなんだよ」
「異界の……勇者。あなた達が」
「そうそう。ま、見えねえか」
「いや! そんな訳じゃ」
「いいって気にすんな。な、司」
「まあ、あの情けない姿じゃなぁ」
「んだとテメェ、あんなん誰だってビビるだろうが!」
「だから情けねぇっつってんだろうが!」
「……ぷっ…! くっ…ふふっ、アハハハ!」
二人の互いに慣れたような言い合いをしばらく眺めていると突然笑いが零れる。何年もの間忘れ去られ外に出ることなく溜まりに溜まったその感情は間欠泉のように一気に噴き出し濁流のように感情を押し出す。
彼らは何事かと固まって僕を見るが、久々の笑いをどうやって止めたらいいか僕にも分からずそのまましばらく笑い続けてしまった。
・・・
「落ち着いたか?」
「は、はい。すみません……久々に笑ったもので」
急に笑い出したと思ったらそのまましばらく笑い続けるツボのおかしい美少年を待つ事数分、ようやく落ち着いたようだ。
だが、言葉の端から伝わる雰囲気や言い回し、それと少年自体から発せられる何か陰鬱とした気配を僅かに感じる。
「久々って。なあお前は一体……いや、その前に自己紹介か。俺の名前は緒方龍二。で、このちっこいのが司薫」
「リュウジ、テメェ!」
「いいだろホントの事なんだから」
「アハハッ! あ、すみません。えっと、僕の名前は『ジョエル』この国の……一応王子、なのかな?」
自己紹介をしつつ、ダチをイジって場を和ませようとするが、少年……ジョエルが喋れば喋るほど気になる点が新たに浮上する。
「?……おいおい余計わかんねぇぞ。……結構訳ありって感じだな」
「まあ、見た感じそんな気はしてた」
「アハハ……あっ、すみません。あの板を取りに来たんですよね、今取ってきます」
「おい、司が失礼なこと言うから……!」
「俺の所為かよ……!」
「どうかしたんですか?」
「ああいや、何でも!!」
「そう….ですか」
どこか残念そうにするジョエルの背中を見て、司を小声で叱責しそれに応戦してきた司と言い合っているとジョエルが不思議そうに尋ねてくる。
それをどうにか無理やり誤魔化すと再びジョエルは残念そうな雰囲気を醸し出す。
「どっ、どうぞ」
「ああ、どうも」
ジョエルの手から渡されたのは紛れも無く俺のスマホだった。
しかしその時、受け取ろうとジョエルが握るスマホを取ろうとするとほんの一瞬、僅かだが抵抗を感じた。
俺はそのままスマホを受け取り礼を言って司とその場を後にしようとする。
「あっ、えっと。今日は……その」
「……」
「リュウジ?」
「ハァ……仕方ない」
俺は振り返り、戻ってジョエルの目の前まで歩み寄る。
「えっ、ど、どうしたんで……」
「なるほど!!」
俺が急に大声を出した事でジョエルは驚きビクッと体が跳ねさせる。
「お前の要求は最もだ! なら、その要求を言ってみろ!」
「え!? なっ、何のことで……」
「お前はこの板をタダで俺に返す気は無いみたいだ」
「いや! そんな事は!」
「それに、俺も一応異界の勇者だ。借りた恩は必ず返す。だからジョエル。言いたい事があるならハッキリ言え」
俺の言葉にジョエルは何も言い返さず固まる。
何か言いたい事でもあるのだろうが、どういう訳かそれを吐き出すことが出来ずにいるようだ。
ジョエルには俺らが想像も出来ないような過去があるのかもしれない。だがそんな事俺の知ったこっちゃ無い。
「そうか……何も無いか」
そう言って俺は踵を返す。
「まっ、待って!」
俺は振り返り、再びジョエルの目を見る。
するとジョエルの目に確かな意思が宿り始める。俺はこの目を、この顔を前にも見たことがある。
「えっと……その、あの… 僕と……僕と友達になって下さい!!!」
俺はジョエルの言葉を聞いてそのまま歩みを進める。
「あ……」
「二日後」
「え……?」
「二日後にまた来る。今日はそろそろ帰らないとバレた時ヤベェからよ。じゃ、またな」
「またなージョエル」
「はっ、はい!!」
涙目になりながらジョエルは俺たちに力強く言葉を返した。




