第23話
日が沈んで辺りに夜が広がるとそれに呼応するように、街も夜に合わせた活気が溢れ出し、そこら中から一日の疲れや鬱憤を忘れるように会話や笑い声が聞こえてくる。
そんな活気に包まれた酒場の一角で俺たちは場違いなほどに気持ちを沈めながら席に着いていた。
原因はもちろん昼に王女が俺たち転移者全員を集めた理由だ。
結論から言うと、俺たち二人の予想は見事的中した。
話の内容は昨晩何者かが城に侵入したというもの。城の出入りは朝の決まった時間から夕方までなら俺たち転移者は自由に出入りできる。
したがって日が落ちた夜に城に行っても入ることは出来ない。
だが問題はここから。
夜に城へ入ってしまっただけならソイツを注意してこの話は終わりだ。だが今回はそれだけで終わらない。何と今回起きた事件は、俺たち転移者であっても決して立ち入ってはいけない場所に侵入した者がいる、というものだ。
ハッキリ言って心当たりしかない。
昨日の今日でこれだ。最早自白して楽になった方が良いのでは? と思うくらい俺たち二人の内心は穏やかでは無かった。
だが俺たちが自白を踏みとどまってしまっているのは可能性があったからだ。
バレない……可能性が。
犯人が分かっていれば俺たち全員に話し終えた後、何らかのアクションがあってもおかしくない。もしかしたら泳がせて俺たちが再犯するかどうか確かめてる可能性もあるが……まあその時はその時だ。
バレてるならバレてるでもうどうしようもないが、もしバレてなかったら。
これからバレる可能性があるってことだ。
いやいや何でバレるんだって思うが、その理由は簡単。俺があの場にスマホを落としてきてしまってることだ。
あんなの一目見れば誰だって異世界の道具だと分かってしまう。
しかも最悪なことに、この世界に来た時にバグったの何なのか知らないが俺のスマホはパスワードだとか顔認証だとかそういうセキュリティーの部分が完全に無くなってしまっている。
スマホの操作なんて現代人なら義務教育の前に誰だって習ってる。電波が無くったってこのスマホが誰の物かなんて簡単に分かってしまう。
そうなれば一発でアウトだ。
だけどもし、俺のスマホを回収出来たら今回の事を完全に有耶無耶に出来てしまえる。
もうバレてる、もしくはバレない事を祈ってこのまま何も、リスクを冒すことなく黙って、不安を抱えながら日々を過ごすか。
或いはリスクを冒してでもスマホを回収して、この件を完全に有耶無耶にしてスッキリしてしまうか。
その岐路に俺たちは立っている。
と言っても俺たち二人揃って腹に一物抱えたまま生活するのはゴメンだと思っているからこそ、日が落ちてからこんな酒場に顔を出してる訳なんだが。
「で、どうする?」
「……取り敢えず……何でもいいから二人で適当に案を出そう。もしかしたらその中に良いのがあるかも」
「何でもって言ったてよぉ」
再び俺と司は口を閉じて思いつくはずの無い事を考え始める。
まあ当たり前か。そんな簡単に思いつけば苦労は無い。例えここにもう一人いたところで文殊になるかどうかも怪しい。
ここまで考えが浮かばないのは俺らの馬鹿さ加減もあるが、一応この酒場に来る前、城の様子を窺いに行くと死にゲーのラストダンジョン付近の厳つい見た目の騎士が其処ら中を徘徊していて、単純に前回のように壁を登るのは不可能だったのと、その厳重な光景にたじろいでしまったところが大きい。
結局そのまま時間だけが過ぎて、無駄遣い出来るほど金も無いので仕方なく店を出て気分転換に街をぶらつく。
その間も俺らの間に会話は無く二つの足音だけが耳に入る。
考えすぎでいつの間にかずっと下を向いて歩いているのにふと気づき、何となく気分的にダメだと思って上を向いた。
街中の明かりが多少あるが、日本に居た時では絶対に見れない星空が見え、思わず見とれてしまう。しかし……
「リュウジどうかした? 何かいい案でも思いついたか?」
「ああ、いや。その~何て言うかさ、あの時見た星空に比べると、そんなだなって思って」
そう言うと司も釣られて上を向く。
「まあ、明るさとか、高さとか……色々あんじゃね? あの城すっげぇデカいし……てかそんな事思ってる場合じゃねぇだろ!」
「仕方ねえだろ、偶々目に入……高さ?」
俺はついこの前の記憶を呼び起こす。感動的な星空、広大な自然、山脈のような滝、動く山。その光景を順々に思い出していく。そして……
「ど、どうしたんだよ?」
司が俺の雰囲気を感じ取り声を掛けてくる。
「なあ司、お前のーあのスキル。なんてったっけ?」
「えっ…? ああ『自在走行』?」
「そうそう、何ならここから登って城の上まで行けばいいんじゃね?」
ふとそんな事が頭を過る。こんな当たり前な事が今まで出なかったのは不思議だが多分色々な要素が嚙み合ったせいだ。
例えば城にほど近い屋敷だったり、厳重過ぎる警備だったり、やっぱり中に引きこもるよりは外に出た方が良いのかもしれない。偶には……ね。
「なるほど……確かにこっから上がれば!」
司が上を見上げながらそう言った瞬間、ファンタジー世界でお馴染みの見慣れた見慣れないモノが空を悠々に飛んでいる。
ドラゴン……では無くワイバーンだが、それに跨った騎士、ワイバーン騎士とでも言うのか?が空を哨戒していた。
流石に城と同じ高さでは無いが結構上を飛んでいる。街中の人目の少ない場所を選んで登っても簡単に見つかってしまう。
「リュウジ……やっぱ、やめとくか?」
「いや……場所を変えよう」
「場所?」
「ああ。あそこだ」
そうして俺が指さしたのは街の外。丘を越え山を登り、その先に鎮座する。俺らがこの世界にやって来た時初めて見た場所。
神殿だ。




