第21話
「死ぬウウウウウウウウ!!!」
「暴れると危ないって! 大人しくしろよ!」
「無理無理無理無理!」
「だーもう、うっさい!!」
俺は今、聳え立つ城の壁を登っている。
正確に言うと登ってるのは司で、俺は司の肩に抱えられてる状態なんだけど。
地面がどんどん離れていく程、恐怖が押し寄せそれが絶叫になって口から漏れ出る。あまりの恐怖に気を失いそうになる。というか失ったほうが楽になるはずなのに、ここまで失わずに連れて来られてしまった。
司がスキルを使って俺を抱えたまま城の壁を駆け上がる。かなりのスピードで登っているがこれはスキルだけじゃなく魔力による強化も含まれているのだが、それは俺のお陰でもある。
「ちゃんと俺に流し続けろよ」
「わ、分かってるって……ひいいいいい!! 今ガクッとしたぞ! もっと慎重に上がれ馬鹿!!」
俺のスキルで司に魔力を送り続け、司は受け取った魔力を存分に使い体を強化し続けている。そのおかげで重力に逆らうほどのスピードと慣性で城の壁を俺を抱えて駆け上がれている。
地獄のような時間がようやく終わった。体感は五分ちょっとくらいだが、マジで生きた心地がしなかった。
俺たち二人は文字通り城の一番てっぺんに位置する部屋のバルコニーに立っていた。バルコニーは純白で彩られ汚れ一つ無く、さらに月明かりに照らされてより幻想的に仕上がっている。
風が驚くほどに心地良く、それだけでもここに来た甲斐はあるのかもしれない。
だが間違いなく言えるのは、ここは俺らが足をそう簡単に踏み入れてはいけない場所だって事。
だけど今の俺にそんな事を考える余裕なんて物は無い。
「ハア、ハア……つ、司…テメエ……」
「リュウジってジェットコースターとか苦手?」
「テメエに安全装置なんて組み込まれて無えだろ!」
「まあいいじゃん生きてんだから」
「お前なぁ……」
「それよりさ、ほら! ヤバくね!? この景色!」
司に促されるままにバルコニーの手すりまで近づき、ビクビクしながら外を覗き込む。すると……
「……あ、ああ、スゲェ……な」
地平線の彼方まで広がる夜空とそれを埋め尽くす星々。足元に広がる城下の先は丘が、森が、山が何処までも続く。その景色に感動していると司が急に声を上げる。
「ねえ見て! アレ!」
司が指差す方に目を向けると、遥か彼方に山よりも高く山脈のように連なった強大な滝が今いる大地全体を囲むように鎮座し水が流れ落ちている。
「あ……え、は、はあ?」
「ねえ……ねえちょっと!」
その光景に唖然としていると再び司が声を上げながら結構強めに肩を叩く。振り返ると、なんと遠くの山がズズズっと動いている。
幻覚か、それとも寝不足で頭が正常に働いて無いのか、その光景が信じられず何度も目を擦っても遠くの山が動き続けている。
「リュウジ……これが……異世界、ってこと?」
「多分……な」
二人してその光景に圧倒され暫くその場に立ち尽くしていると、不意にズボンのポケットの重みに気づく。
手をポケットに入れると、入っていたのはただの光るだけの板、スマホがあった。
そのスマホをしばらく眺めていると、ふとある事に気づく。俺はスマホを起動して上から下、右から左へスワイプする。
「リュウジ、何して……あ! カメラか!」
むこうの世界で碌に使って来なかったスマホのカメラを俺はこの世界でようやく起動した。
「まあ、記念に、と思ってな」
「じゃあ早く撮ろうぜ!」
「お、おう」
俺はそう言ってスマホのカメラを景色に向けた、どういう画角で収めればいい写真になるか考えていると、司が文句を垂れる。
「ちょっとちょっと、何で景色だけなんだよ。二人で撮んなきゃ」
そう言うと司は俺を引っ張って立ち位置を調節して俺にスマホのカメラを内カメラに切り替えさせ、画角まであーでも無いこうでも無い言ってくる。
「よし! こんなもんでしょ。ほらほらシャッター押せって」
「わかってるよ、うっせぇな。はいじゃあ撮るぞー……」
「はい、チー……おい! 笑えって!」
「ええ!? いいよ恥ずいし」
「恥ずくねえって!」
「恥ずいって!……!?」
ふとバルコニーから部屋に通じる入り口の方から誰かがこっちに近づいてくる音が聞こえ、俺と司は思わず目を合わせて固まり、恐る恐る入り口の方を見る。幸いカーテンが引いてあって中からこちら側見えてない。しかし。
カチャっというおそらく鍵を開ける音がしてより一層俺たちから焦りが滲み出る。
「早くシャッター押せって……!」
「今はそれどころじゃねえって……!」
「だからパッと押して、サッと逃げればいいだろ……!!」
「いや先に逃げねえと俺たちどうなるか分かんねえだろ……!!」
小声でくだらない言い合いをしていると、とうとう扉がガチャっと開かれ始める。それを見た司が俺を素早く抱え込みバルコニーから飛び降りる。
あまりの一瞬の出来事に声を上げる余裕すら無かった俺は焦ってソレを手放してしまう。
カチャン
純白のバルコニーは、この世界では絶対に有り得ない電子機器が地面に落ちた音だけを残し、やがて静寂に戻った。




