第20話
この世界に来て早一か月、長いような短いようなそんな時間が過ぎようとしていた。
転移してきたばかりの時は暮らしにすぐ慣れた者もいれば、慣れずに夜な夜な涙で枕を濡らすものもいたが、今では殆どの転移者が今の生活に慣れ日常になり始めている。
俺もその一人で毎日朝遅くに起こされては適当に駄弁って、腹が減ったらいつもの酒場に足を運びいつも通りの注文をして飯を食う。それから適当に街を歩いて昼寝して、「金が足りないなぁ~」と思ったらバイトしに行ったりと……なんか改めて思い返すと結構ヤバい生活してるな、俺。
ま、まあその辺は置いといて……
何が言いたいかと言うと、今の生活が変わらない日常になり始めてるってことだ。
「ハァ……」
俺は暗い部屋で一人ため息を吐く。
手元のソレを眺めるだけ眺めて結局何もせずにベッドに横たわる。
ここ最近、今まで何度か……いやたまに、たまにね!! 佐藤が訓練する様子を見ていたわけだが、今ではすっかりそれを見なくなってしまった。
理由は……何て言うか、前々から感じていた事だが所謂……劣等感ってやつだ。
佐藤の境遇を見て俺はあいつを『主人公』と呼んで、凄いと褒めて、その活躍を見て、讃えて……
「いや違うな」
あいつが頑張れば頑張るほど、口では凄いとか偉いとか言ってはいるが、内心では諦めろ、挫折しろと思い俺と同じように諦め、挫折して俺と同じ場所まで落ちて来いと願ってた。
俺は……陰であいつを主人公だと持て囃して結局のところ見えないところでそれを冷笑してるだけの凡人以下のただのクズだった訳だ。
じゃあなんで今は冷笑してないのかと言うと、あいつはマジにスゲェ奴だったって事だ。
毎日毎日剣を振って、知識を詰めて、努力して、遂には真田に勝利して自分の力を証明した。変わって行くあいつを見てるのが段々と辛くなった。
こうして見てる間にあいつはどんどん先に進んで行く。なのに俺と来たら……笑う事すら出来ない。本当に空っぽの存在に成り果ててしまった。
「ハァ……ん?」
物思いに耽っているとこんな時間に扉を叩かれ、俺が何も返事をして無いのに扉が勝手に開かれる。
「よう、起きてるか」
部屋に来たのは言わずもがな司だ。
こんな時間にやって来るのは、俺がこの時間まで起きているのを知っているからだ。
「起きてるよ」
小言すら言わずに司がこの時間に来るのを受け入れてる自分がいる事に最早驚かない。
「今日もこんな時間までグダグダしてんのか」
「まあ、な」
「……そんなんじゃ、ソレもただの板だな」
俺は手に握られたソレを顔の前まで持ってきてその黒い画面を眺める。俺が手に持っているのはスマートフォンだ。
1~2世代ほど前のスマホで親指一本で操作しきるのが結構難しい大きさの物だ。
この世界に転移した時婿から持ってこれたのは基本的に身に付けた衣服だけだった。手に持ってた物だとかポケットに入れてた物までこちらの世界に持ってくる事は出来なかった。
その中で何故か、おそらく俺だけこのスマホを持ち込むことに成功した。
最初はスゲェ興奮した。俺もまだまだチャンスがあると思っていたんだけど……まあ、そんなものは無かったんだけど。
何か特殊な効果だとか機能だとかそう言った特別なものは一切無く、ただの常に圏外のスマホだった。
俺が入れていたアプリなどはそのまま入っていて、起動はもちろんできるが当然電波のいい場所に行けと言われマジに無駄でしかなく、最早ただの光る板でしかなかった。
だが、このスマホ自体に特別な効果は全く無かったが、なんと俺のスキルと組み合わせると面白い使い方が出来るのを発見した。
その方法とは俺の召喚したスケルトンとこのスマホを繋げその視界をスマホの画面に映し出すという技だ。
これを使って今まで暇な時にYou〇ube感覚でスマホをから佐藤を見ていた訳だ。
「じゃあどうすんだよ、これから」
「はあ? 何が?」
「何が……って…なあちょっと、外でも歩こうぜ」
「いやもう寝るから、お前も自分の部屋に……ちょっ!?」
「いいから!!」
いつ鍛えたんだって感じるぐらいの司の膂力で体を無理やり起こされ部屋から半ば引き摺られる勢いで屋敷の中庭に連れ出された。
ここまで来たので仕方なく司の思いつきに付き合うことにした。適当にそこら辺をぶらぶら歩いて見慣れてしまった豪華な中庭を横目に二人で適当な話題で盛り上がりながら歩く。
気分転換という意味では合格だ。だいぶ陰鬱な気持ちも落ち着いてきたと思う。
「なあなあ、せっかくだから普段じゃ絶対行けないとこに行かない?」
「え? 絶対って……例えば?」
「う~ん……あ! あそこは!」
そう言って司が指さしたのは、重機も無いのにどうやって建てたんだと未だに疑問に思えるくらい聳え立つ城の頂上を差していた。
「いやいや! 無理でしょ! てか、どうやって行くんだよ!?」
その言葉を聞いて司が悪戯っぽく笑う。まるでその言葉を待ってましたと言わんばかりに。




