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第18話

「クッソがぁ……ちょこまかちょこまかとよぉ、ウゼェんだよ!!」


 試合開始早々の一撃から始まり、その後の連打が悉く格下に躱され、いなされ、挙句の果てには反撃でダメージを負う始末に、真田の自尊心は既にズタズタだ。


 なりふり構わずに攻撃を仕掛けてくる。だけど……


「くっ!」


「おらおら! どうした雑魚が!」


 怒りによって冷静さを失って全体的に攻撃が荒くなった真田だが、今の僕にそういった隙を突く力量は残念ながら無い。

 さっきまで辛うじて防ぎ続けてこれたが、拳を逸らした剣から伝わる反動で防御する手も鈍くなっている。


 もう既に壁際まで追い詰められ、僕のスピードでは左右に逃げたり真田の横を通り抜けるのは難しそうだ。


「追い詰めたぞボケが、舐めた真似しやがって……!」


 真田が拳を振りかぶった瞬間。僕は術(・)を解く。

 僕の目元に薄っすらと僅かに展開されていた術が魔力の供給を絶たれ霧散していく。行き場の無くした魔力を代わりに自分の足に流し、強化された脚力で僕は背後にそびえる壁を蹴って真田を飛び越え後ろに回り込んだ。


「なっ!?」


 標的を失った真田の拳は壁に激突し音を立ててそのまま壁をひび割れさせながらめり込む。


 そしてがら空きになった真田の背中目掛け渾身の斬撃をお見舞いした。


「ハァアアア!!」


 肉を切り裂く少し引っかかったようなズブズブした感触が手元に伝わる。


 剣先は鮮血で少しだけ濡れていて、それを見て思わずたじろいでしまう。


 試合が始まる前、いや真田を本気で斬り付ける前まではそれについて全く考えていなかったけど、いざ生き物を……どういう理由であれ知っている人間を斬り付けたことに戸惑ってしまう。


(僕、本当にコレで……いや! しっかりしろ! これは試合で……)


 そんな悠長な思考を巡らせてる間に真田がこちらに向かってくる。咄嗟に剣を構え防御の姿勢を取るが、剣の影から覗いた真田の表情に思わずギョッとする。


 別に変な顔とか、すこぶる怒っている表情では無い。

 ただ静かに、無表情で、こちらを見据えていた。僕は何となくだが、その貼り付けられた表情からある感情を読み取った。


 本当の殺意。


 冗談とか話が一切通じない事を悟らせる無言の表情。

 頭の中の天秤がこれから起こる事のメリットとデメリットを比べた時、容易くメリット側に傾いている、言わば理性を失った状態。


 それを感じた時にはもう時すでに遅しで、振り抜かれた拳を逸らそうと剣を動かすも真田の狙いはその剣自体で、向かってくる僕の剣を容易に掴んだ。


 焦った僕は真田の指を切り裂く勢いで手から引き抜こうとしたが、ビクともしない。


 そして逆に剣を引っ張られ、それに抵抗できず前屈みになったところに突き抜けるような膝蹴りが僕の腹部に直撃した。


 ドスンっと重い音が鳴り、足から力が抜けていく。食い縛って涎を垂らしながら耐えようとするも、容赦なくもう一撃が炸裂する。


 僕は剣を握った右手を決して放さなかったが、それ以外は全て地面と一体になった。

 僕から剣を取り上げようと引っ張るも中々手を放さない僕に面倒臭くなったのか遂に僕の右手も地面に付いた。


 真田がマリアさんをチラッと見る。

 今にも走り出して試合を中断したいマリアだが、身代わりの指輪が発動しないので苦虫を嚙み潰したような顔でその場に立っている。


 それを見た真田はここに来て笑みを見せた。


 真田もまだまだ高校生。自分より下だと見下した相手を虐めるようなクズでも、流石に自らの手で他者を殺害したいとまでは本来なら思わない。

 しかし、この世界に来て特権階級のような扱いや、周りの反応、自分に対する抑止力の少なさや訓練を通して行われる魔物との戦闘を通して、今回用意された身代わりの指輪というその名の意味するとこから、真田の行動選択肢にそれが過り、選ばれた。


 倒れ伏す僕に向かって見下すように笑いながら足を上げ僕の頭部目掛け踏み下ろす。


 訓練場を囲む観客席から悲鳴が上がり、目を背けたくなる光景がその場に広がる……かに思えた。


 真田の足は空中で制止し佐藤の頭部には到達していなかった。


「あ? 何だこれ?」


 佐藤の体全体を覆うように青色の膜が展開され真田の攻撃を受け止めていた。


 真田が再び足に力を込めスキルを起動し、膜を破ろうとしたその時、青色の膜が内側から外側に向かって弾け真田を後ろに飛ばした。


 真田は僅かに姿勢を崩すだけで距離を少しだけ離すだけだったが、目の前には少しだけ息を切らした佐藤が立っていた。


「……どうなって……!?」


 佐藤の胸辺りが少しだけ青く光っている。よく見ると佐藤の首から銀のロザリオが首に掛かっていてそれが光を発しているようだ。


 真田はそれを一目見て何らかの魔道具、おそらく傷を治す類の物だと確信した。


「おい! 魔道具の持ち込みなんてありなのかよ!」


 真田がマリアに向かって不満を露わにしながらそう叫ぶ。しかしマリアはその場から一歩も動かず何の反応も示さない。暗にこの試合において何の問題も無いと示していた。


「チッ……」


 マリアに抗議するため一瞬、自分から視線を外したその隙を佐藤は見逃さなかった。


 無言で飛び掛かり真田に向かって剣を振る。

 辛うじて気づいた真田は態勢を崩しつつ躱して反撃するが、佐藤にギリギリのところで躱される。


 態勢を立て直すため真田は素早い動きで後方に飛び退く。


 しかし、目の前には剣の切っ先が既に自分目掛け迫っていた。


(何!? どうなってんだ!? あいつが俺に追いつく筈が……まさか)


 佐藤はその場から真田が飛び退くのを知(・)っ(・)て(・)い(・)て(・)剣を投げていたのだ。


 魔力の籠った剣が真田に迫り……真田の横を通り過ぎた。


「なっ!?」


 真田はギリギリのところで直撃を免れた。流石に無傷とは言えず脇腹を切り裂かれ指輪の術が発動する一歩手前だ。


 このまま動かなければ失血によって指輪の術が発動してしまうことに気づいた真田は焦って佐藤に向かって走り出した。


「このゴミクズの分際で!!!」


 スキルによって超強化された拳が佐藤に迫る。しかし佐藤はそれを見越し躱し始める。だが体が完全に癒えた訳では無かったため、地面に倒れ込むように躱した。


 その瞬間真田が下卑た笑いを零す。


 真田の拳は囮だった。


 倒れ込む自分の顔面目掛け真田の足が迫る。打って変わって絶体絶命。

 言ってしまえばこれは自分の未熟さ、至らなさがこの事態を招いていた。もう魔力は少なくガードも間に合わなければロザリオを使う事も出来ない。


(ここ、まで……)


 目を瞑り衝撃に備える。


(結局、自分は最初から最後までダメで、何も出来ない、無力な存在なんだ)


 ブン! という空気を押し退ける轟音が迫り、そして……佐藤は地面に何(・)事(・)も(・)無(・)く(・)倒(・)れ(・)た(・)。


「え」


 それはどっちが言った声か分からないくらい間の抜けた声だった。


 真田の蹴りは外れていた。蹴り上げた足は何も捉えず、ただ空気を押し退けただけだった。


「今だ!!!」


 観客席の方から薄っすら声が聞こえた。そしてほとんど無意識の中、佐藤は立ち上がり完全に態勢を崩した真田の顔面目掛け渾身のストレートをお見舞いした。

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