第17話
「お~結構やるじゃん、彼」
「確、かに」
今日の対戦のことはもちろん知っていた俺たちは暇つぶしも兼ねて訓練場に足を運んでいた。
意外にも観客は少なく、当事者の秋山、今井、もう1人は居ないが、勇者パーティの面々と後は顔は見た事あるような無いような面識の無い奴らがちらほら。
それと多分だけど真田の取り巻きとかその辺の奴らも数人って感じだ。
真田の性格上もっと言いふらして半ば公開処刑のように佐藤を血祭りに上げるのかと思っていたんだけど。
まあこの際そんな事はどうでもいい。
真に驚くべき物は今目の前で繰り広げられる光景だ。真田の掛け値無しのバケモンみたいな威力の拳や蹴りを紙一重に躱し、いなし、受け流す佐藤。
下がりながら守るだけで反撃する事は一切無く防戦一方に感じるが、ハッキリ言ってスキルの無い佐藤が真田相手にこんな芸当を披露してる時点でかなり異常だ。
「どうしたんだよ?」
「いやさー正直……何でこんな強くなったん?」
「え? そんなんお前が……『一号』を使って鍛えたからじゃねえの?」
「いやそうなんだけどさー」
そう何を隠そうこの一週間、佐藤と共に訓練していたスケルトンは他でもないこの俺がスキルで生み出したものだ。
訓練場で一人動かない案山子を叩くよりは俺のスケルトンを相手にした方がマシだと思って俺が密かに送り込んだってわけだ。
最初は佐藤も相当ビビってたが、こちらの思惑通りに一緒に訓練する流れになった。あいつもなりふり構ってられない状況だったからな案外簡単に誘導出来た。
まあ、その。俺が召喚したスケルトン『一号』って俺は呼んでるが、せっかく訓練するならと一号をかなり強く、何なら真田が束になっても敵わないくらいにして送り込んだのだが……うん。見てられないくらいの惨状になっちゃって……
一度強化して送った一号が次の日に弱くなるのも、なんだか相手を馬鹿にしてるような気もして、それならと王宮の錬金部から高価なポーションを譲ってもらってそれを一号にありったけ持たせ続けた。
大変なバイトだった……
司なんて俺の事を作業中ずーっとジトーっと睨みつけて来て、俺の良心というかそのー……まあこれ以上は止めておこう。
飯をこの一週間奢り続けたから多分大丈夫だと思いたい。
ただポーションが潤沢に有ると言っても人の顔面がリアルに陥没するさまを見ていられる程俺の心臓は強く無かったので、佐藤の訓練期間中は見るのを止めた。
故にその間、何が起きていたのか俺は一切知らない。わかる事と言えば毎日毎日大量のポーションが消費され続けたという事だけ。
俺はこの一週間、ただひたすらに死人が出ない事を願った。
そして見なくなったおかげで、佐藤のこの劇的な成長の理由が分からず今まさに混乱しているってわけだ。
「でもそのためにリュウジが訓練してやったんだろ?」
「いや俺じゃなくて一号がな。それはいいとして何であんなに強くなったんだ? マジで」
「だから、それは一号をメッチャ強くしたからだろ? てかそのせいであんなバイトする羽目になったんだぞ! 忘れてねぇよな?」
うわヤッバ。
「お、落ち着けよ。それはもうチャラだろ、頼むぜ。それよりおかしいだろ見ろ、一週間であんな様変わりするか? 普通」
佐藤は壁際に徐々に追いつめられるも真田の猛攻をいなし続け、なんと後ろに迫った壁を蹴ってそのまま真田の後ろに回り込み一撃叩き込むという芸当を披露し始めた。
「じゃあ直接聞きゃあいいだろめんどいなぁ」
「そ、れは、さあ……違うじゃん」
「はぁ~」
そんな呆れなくたっていいじゃん。
あんまりそういうのに干渉したくないというか、実は俺が陰で支えてましたーってスゲェ押しつけがましい感じがするし、そういうのをひけらかしたく無いっていうか……とにかくそんなんだから俺が直接、佐藤に話しかけるのは出来るだけ避けたかった。
司もそれが分かってるから、わざと俺にその話題をぶつけて来る。ほんとその身長も相まってみみっちい奴だ。全く。
「リュウジー?」
「い、いや! 何も思ってないって! ん?」
と、そんなやり取りをしてると誰かが俺たちに向かって歩いてくる。振り返るとそこに居たのは、この試合の発端者の秋山だった。
まだ何も喋ってないが明らかにこちらに対して不満があるような表情だ。司もそれを見てめんどくさそうな表情を浮かべながら小声で「うわっ」と漏らす。
それが癇に障ったのか分からないが、上から目線の高圧的な態度で俺たちに喋り掛けて来る。
「こんなところで、随分楽しそうじゃないか」
秋山は俺の隣に立っているため仕方なく俺が対応する。
「あーまあね。普段威張ってる割にはスキル無しの相手に大したことなくてかなり面白いよー」
「……っ、ぷっ……ごめん。何でもない」
俺の言葉と司の態度が今度はしっかりと癪に障ったらしく、表情をピクピクさせ声色にも苛立ちが見え始める。
「それは……どういう意味かな?」
「イラつくって事は何か自分で思うことがあるんじゃない? 読心スキルなんて持ってないからお前が何を思ってるかなんて俺は知らないけど」
「何もしてない君たちみたいな人間にそんな事言われたくないんだけど?」
「あっそ。じゃあ失せろよ」
ここで相当いい思いをして過ごして来たからか、自分に少しでも反抗してくる俺たちの事がかなり気に入らないらしい。
「ふん、精々そうやって強がっていればいいさ。僕たちのような選ばれし人間に成れなかった凡夫が」
そう吐き捨てて踵を返したところで、俺も一言言い返す。
「お前もな」
「なんだと……」
自分のヒエラルキーを下げた発言が相当頭に来ているらしく、歩き出した足を一歩目で止めて再び俺たちを睨みつける。
「どこからともなく湧いて出てきた力に一喜一憂するのは構わねえけど、それの何が偉いんだ? どんだけ才能や力が在ろうと背景の無い人間を誰が称賛するんだ?」
「……僕は『勇者』のスキルを発現した。僕ただ一人だ! お前なんかとは違う」
「そのスキルに背景……歴史が詰まってるだけだ、お前が成し遂げた訳じゃない」
俺も立ち上がり秋山と睨み合う。
やっぱり思った通りだ。
ただ降って湧いた力の傘の下で威張り散らすだけの男。そんな奴がいくら凄んだところでなんの圧にもならない。
俺が一歩も引き下がらない事に納得いかないのか、顔に怒気を強めていくが、離れた所から秋山を呼ぶ声がする。
俺たちの一触即発の雰囲気を感じて慌てて声を掛けた様子だ。
「チッ……持たざる者がどういう末路を辿るかその目にしっかり焼き付けると良い」
そう言って今度こそ秋山は俺たちを後にした。
試合に目を戻し佐藤を見ると何となくだがその表情に覇気を纏い始めていて、何て言うかそこには……主人公がそこに居た。
(この試合もしかしたら……秋山ブチギレるかもな)
そう予感させるだけの雰囲気が佐藤の周りから漂い始めた気がして、思わず笑みを零した。




