第15話
真田との試合が決まったその日の夜。
「ふっ! はぁああ!」
僕は訓練場で再び一人で案山子と戯れていた。最初の頃に比べれば案山子に刻まれる僕の斬撃の跡も深くなってはきているが……ハァ、ため息が出る。
この案山子は特別な素材で出来ていて、何度攻撃を受けても忽ち元通りに戻る。そのため僕がこうして何度斬りつけても何時間でも訓練出来る。
だけど今はその事実がまた僕を焦らせる。
スキルというのは強力で、僕の魔力を込めた斬撃なんて霞むような威力だ。その証拠が僕の直ぐ傍に転がっている。
訓練場の端にはボロボロに砕け散った案山子が転がっている。
誰がやったかは分からない。ただこれが勇者の内の誰かがやった結果なのは分かる。
破壊され砕け散り未だに再生することなく訓練用の案山子が横たわる。一週間後これと同じ未来を辿るかもしれないと思うとかなり不安になる。
どうして真田に向かってあんなことを言ったのか……
まあ今はいい。もう決まったことだし、自分で決めたことだ。覚悟は出来てる。後は真田に勝って証明するだけだ。僕の力を。
そのためには。
「そのためには……うわああああ!!?」
これから気合を入れて自分を限界まで鍛えようとした矢先、この時間帯に出て来てはいけない者によって出鼻を挫かれた。
突然背後の闇の中から人間の骸骨の頭部がヌルリと現れる。こんなの見たら誰だって叫び声の一つや二つ上げても可笑しくない。
暗闇から現れた骸骨の頭部がそのまま前に進みだすと体全体も露わになる。完全に骨だけの存在『スケルトン』だ。
「あ、ああ……あ」
怖すぎてその場で動けなくなり、黙ってスケルトンの行く末を見ていると、僕の想像に反してスケルトンは僕が使ってない方の訓練用の案山子に向かって歩き出し、そのまま案山子を殴り始める。
「え……?」
目の前で起こる出来事を脳が上手く処理出来ない。僕は一体何を見てるんだ?
いや待て、落ち着け! まずは深呼吸。それから、よ〜く考えるんだ。ここは異世界、何が起きても不思議じゃ無い。
ブンブンと頭を振って深呼吸をし、一度リセットする。それから動悸の激しい心臓をなんとか抑える。
「フー……えっと、君も訓練しに来たの? なんて、ハハハ」
こんな光景見られたら確実に不審者確定だ。月明かりしかない深夜に骸骨に向かって話しかけている。僕がその光景を目にしたら、多分黙って踵を返してるだろう。
疑問は尽きる事は無いが、唯一分かるのはこのスケルトンは明らかに訓練をしに来ているという事だ。というかそれ以外考えられないし考えたく無い。
取り敢えず不気味過ぎる雰囲気をなんとか和ますためダメ元でそのスケルトンに話しかけてみた。
すると意外なことにスケルトンは動きを止めてこちらを振り向いた。
「うっ……え、えーと」
あまりの不気味さにたじろいでしまい、それ以上言葉を続けられないでいると、スケルトンは再び鍛錬に戻った。
仕方なくその夜は、かなり気になりはするが、気にしないようにして僕も鍛錬を続けた。
そのまま日が昇り、一度仮眠を取ってから図書館に向かう途中。ふと訓練に向かう勇者たちを目にする。すると滲み出た焦りが僕を包む。こんな事じゃ真田に傷一つ付けることなく負けて……そう思った時、視界に明らかな異物というか違和感が映り込む。
「え!?」
昨日の夜に訓練場に現れたスケルトンが勇者たちと共に行動していた。
「どういうこと……だ?」
その日訓練を終えたマリアさんに直接聞いてみたところ、どうやらあのスケルトンはスキルで生み出された物らしい。
異世界側にもネクロマンスや使役、似たような召喚魔法やスキルは存在するらしいが、流石は異界の勇者のスキルと言うべきか、このスキルで生み出されたスケルトンは他とは違い成長するらしい。
と言っても一般人とさほど変わらない成長率らしいが、それでも凄い事に変わりは無い。
だからなのかスケルトンを召喚した本人は訓練には参加せずにいるらしい。何とも僕にとっては勿体ないような恵まれた話が。
余談だが召喚者本人を訓練に参加させようと説得するために人を送り込んだところ、逆にそいつもサボり始めてしまいこれ以上犠牲? を出さないために説得は諦められてるらしい。
そして再び深夜になって僕が訓練場でいつも通り鍛錬していると、ヌルリと骸骨が現れ案山子で鍛錬を始める。
暫く互いに無言で鍛錬を続ける中、まあスケルトンは元々喋らないけど、僕は深呼吸をしてから意を決してスケルトンに話しかける。
「スゥー、ハー……えっとー、スケルトン……さん、でいいん、ですか?」
再び動きを止めてこちらを振り向く。
「よ、よかったら一緒に訓練しませんか、なんて……」
ただ動かない案山子を斬りつけるのに限界を感じていた僕はこれはいい機会だと思った。スケルトンがいくら成長率は一般人並みと言っても動くのと動かないのじゃ天と地ほどの差がある。ただ剣を振るの飽きて来ていたので丁度良かった。後はこの話を受けてくれるかどうかだけど。
暫く動きを止めたスケルトンは案山子から離れて僕の目の前に近づいてくる。どうやら話を受けてくれるらしい。距離感が物凄く近いのは何故か分からないが。
「じ、じゃあ、模擬戦でもどうかな?」
スケルトンはそれを聞いて僕からある程度距離を取りこちらを見据える。
「あ! えっとースケルトンさん……は長いからスケさんって呼んでもいい?」
うんうんと首を縦に振り肯定する。
「よ、よかった。えと、スケさんは剣で思いっ切り斬られても大丈夫なの?」
間を置かず再び頷く。
「わかった! そっちも本気で来ていいからね」
互いに構えて合図を待つ。相手はスケルトンだが初めての実践形式に少しだけワクワクしているのが分かる。今までの訓練の成果を確かめることが出来るいい機会だ。そして意気揚々と開始の合図を叫ぶ。
「行くよ……よーい、始め!!」
僕は一気に駆け出し剣に魔力を込める。暗いけど相手の姿はちゃんと見えている。スケさんはその場から動かずこちらを待ち構えるつもりらしい。
若干、なんだ……という気持ちもあったが仕方ない。
そのまま近づき拳の間合いの外から大上段でスケさんを斬りつける。
「はぁああ! ……っ!?」
斬りつけた瞬間スケさんは最小限の動作で僕の剣をあっさりと躱した。それどころか、がら空きになっている僕の腹目掛けて膝蹴りが飛んでくる。
衝撃が突き抜け息が出来ない。真田にどうのこうのされたがあんなのが遊びに感じるレベルだ。地面に倒れ込み動けなくなっているとスケさんに持ち上げられるて無理やり立たされる。
「ま、まい……った」
しかしそれを言い終わる前にスケさんの回し蹴りが再び僕の腹に直撃し、体をくの字に曲げながら数メートル吹き飛ばされ意識を失った。
・・・
「はっ!? ここは?」
飛び起きるといつの間にか日が高く上っていて差し込む日差しがかなり眩しい。すると横からナーシャさんに声を掛けられる。
「お目覚めになりましたか」
「な、ナーシャさん、僕は、えっと」
ナーシャさんによると夜遅くズタズタになって気を失った僕をスケさんがここまで運んでくれたらしい。治療をしたのはナーシャさんで、それから真っ昼間のこの時間まで寝ていたらしい。
「スケさん、強すぎでしょ……」




