第14話
城の廊下を足早に一人の女騎士が歩いていた。
鎧はガチャガチャと擦れ合い、まるで女騎士の内心を表してるかのようだ。騎士は目的の部屋の前に着くと一呼吸入れる間もなく勢いよく扉を開け放つ。
「アリシア様! 今回の件は流石に目に余ります。今すぐに二人を止めなくては!」
扉を開けて部屋に怒鳴り込むように入ってきたのはアリシアに仕える騎士の一人のマリアだった。
マリアは扉を開けた勢いのままアリシアのそばに詰め寄り、それに押し出されるようにメイドたちも一歩後ろに下がる。
傍から見れば不敬に思えるマリアの振る舞いにアリシアは慌てる様子無く芸術品のようなカップに注がれた紅茶を優雅に飲む。
「アリシア様、どうかお願いです。アリシア様からも二人の決闘を止めるよう言ってください」
アリシアはマリアの話を最後まで聞いてから口を開き、どこか諭すような口調で話し始める。
「少し落ち着きなさい、マリア。それにこれは決闘では無くあくまで試合。無理矢理試合を組まされた訳でも無く互いに同意してる以上、わざわざ止めるようなものではありません」
ハッキリと自分の主人の口からそう言われ立場的に納得するしかマリアに選択肢は無いが、それでも言い返さずにはいられなかった。
「し、しかし! サトウはスキルを授かれなかったんですよ! それでは試合になんか…… それに、サナダは性格や素行にかなり問題を抱えています、試合が始まってからでは遅いのです!」
信頼する騎士からの懇願にもアリシアは一切態度を崩さない。
「聞いた話によると、勝負を仕掛けたのはサトウ様と聞きましたが?」
「ッ……そ、それは……」
「加えて、代々『武神』を授かる者がそういった傾向にあるのは重々承知しています。ですから、こちらも万全な体制を整えて準備しています。なのでマリア、あなたは少し肩の力を抜いてリラックスして、自分の役割を果たしなさい。いいですね?」
アリシアの柔らかい笑みに完全に勢いを失い。半ば強引にそれならと自分を納得させ返事をしてからマリアは部屋を出て行った。
嵐が過ぎ去り、一息ついた後アリシアはメイドたちを下がらせ部屋に一人になる。
その表情は先ほどマリアに安心しなさいと笑いかけたとは思えないほど暗く、澱んだ表情だった。
・・・
「スゥ……ハァアアァ……」
どれだけ準備しててもいざ始まる直前になるとこれまでの事が全て無駄だったのではと不安になってしまう。
不安をなんとか忘れようと両側の頬をパンパンと強く叩きその跡が少し赤くなる。
もうここまで来たのだ。後戻りは出来ない。正直、タイムマシンや時間逆行スキルがあるなら今すぐ使いたい気持ちもあるが、僕は走り出したんだ。後はなるようになるしかない。
「よし、行こう……!」
毎日欠かさず通ってる訓練所が今は感じられる雰囲気が違う。時間帯もあるかもしれないが、明確に違うのはその目的だろう。
影になった通路の門から日に当たる訓練場に出ると一瞬眩しさで手で顔を覆ってしまうがすぐに慣れる。そして最初に目に入ったのは僕にとってのトラウマでもあり、僕が戦う相手の真田だ。
「よぉ、待ってたぜ」
言うまでも無いが、真田は明らかに舐め腐ったこちらを見下す笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「……ああ」
「そんな剣一本で良いのか? ま、お前の場合ライフルでも持ち出さなきゃいけないと思うけどな」
僕が手にするのはいつも使う訓練用の剣と同じ重さの刃引きしていない正真正銘の真剣。対して真田は丸腰。
腕や足に鎧を纏ってはいるがそれ以外は動きやすい格好をしている。
スキルの関係であの格好がベストなんだろうが、それにしても相変わらずこちらを舐め腐った笑みを浮かべ続けている。
何度あの笑みの裏に隠された暴力に、毎日痛みつけられたことか。僕は決して忘れない。でもそれは僕が弱かったから、何もしなかったから。立ち止まり続けた空っぽな僕だったから。
こう言うのもなんだけど、許すよ。今までの事は水に流すよ。
だけど……
「オイオイ、何睨んでんだよ? これは試合だぞ。くっはは、お前まさか本気で? ダメだ、腹痛ぇって」
「……」
端に控えていたマリアさんが僕たち両者の間に入る。どうやらこの試合をマリアさんが取り仕切るみたいだ。
「サナダ、それくらいにしろ」
「ヘイヘイ」
それからマリアさんから試合のルールが説明される。と言っても基本的にそこまで複雑なルールは無い。お互いに『身代わり』の術を付与された指輪をして戦い、先に術が発動した方が負け。戦う範囲は訓練場の闘技場部分、つまり僕らが立ってるフィールドのみ。観客席や門をくぐって通路に出たら場外負け。至極単純だ。
禁止事項は先も行った場外に出る事、術が発動した後の追撃、術式貫通や術式無効の魔術やスキルの使用だ。
それ以外は何でもあり。
互いに定位置に付いて互いに相手を見据える。両手で数えられるくらいの観客しか居ないので歓声も何も無い。
閑散とした場内全体にマリアさんの試合開始の合図が木霊する。
「ハハハ、あーあ……なんか白けんなぁ、その面。佐藤の分際でよ!」
真田が走り出す。スキルで強化された跳躍力で一気に僕と奴の間にあった距離が一瞬で無くなる。そのまま勢いに乗った蹴り僕の顔目掛けすれ違いざまに繰り出してきて僕は驚愕した。
(マジかよ……!)
当然今の一撃で終わると思っていた真田だが、当たった感触が無い事に違和感を感じていると蹴りを放った足の太ももの辺りにヒリヒリとした痛みが走る。
見ると、丁度足甲に守られていない太ももの服の部分が切り裂かれている。
「なっ!?」
あまりの出来事に驚愕する真田だが、それ以上に僕も驚いていた。
(……同じだ、訓練の時と!)
すると視界の端にとある人物? が映りその時の記憶が蘇る。思い出したくも無い地獄の記憶が。




