第13話
城の廊下をさも我が物顔で歩む二人とどこかよそよそしく歩く者が一人。
三人に共通しているのはその服装。最初からこの国の貴族……何なら王族のようなスラッとして洗礼されたデザインの豪華な衣服を纏っている。
誰もが一目見れば目を奪われる、そう思わせる風格があった。
我が物顔で歩く二人の青年の内、一人は嗤い、もう一人はムスッとした表情で前を歩く。
「どうしたんだよ秋山ちゃん、そんな顔しちゃってさ」
笑みを見せながらどこか揶揄うように話しかけたのは真田だ。その笑みの奥には誰かを嘲笑うそんな感情がひしめいていた。
「お前が、我々の! 品格を下げるような事をするからだろ」
秋山は憤りながら先程の一連の真田の行動を叱責する。
『勇者』のスキルをその身に授かった秋山は、そのスキルの重要さや歴史を教わると同時に一部の『戦闘組』の転移者たちのまとめ役も打診されていた。
秋山は一種の使命感に駆られそれを快く引き受け、今ではすっかりそれも板につき、その成果を認められ今身に付けている服装のようにそれなりの特権も享受していた。
しかし転移者の中には自分の指示に従わない者もいる。
その一人が真田だ。
今だって秋山が強めに注意してもヘラヘラとして全く反省する素振りが無い。そのことに秋山は苛立ちを募らせていく。
「品格……ねぇ」
真田の秋山を見る目が何かを見透かしたように笑っている。
「俺はてっきり、あのチビの女が自分になびかなかった事にイラついてると思ったんだけど」
「なんだと!!!」
自分を貶めるような真田の言葉に思わず声を荒げてしまう。
だがそれを見ても真田は怯むどころかさらに笑みを強め、表情で揶揄い続ける。
「はっ! そんなに怒るってことは図星だったか?」
「お前……いい加減に」
怒気を強め真田と秋山は一触即発になる寸前にまで互いを睨み合う。
しかし秋山は自分たちの後ろを歩いている存在を思い出し、一度深呼吸をして自分を落ち着かせてから真田を無視して後ろの人物に話しかける。
「ごめん小春。君の前でこんな見っとも無い真似をしてしまって……真田の言ったことは全部気にしなくていいから」
二人の後ろをトボトボと付いて歩いていたのは今井小春だった。
秋山は何かを弁明するように小春に笑顔を作り話しかける。
だが当の本人は俯いたままで返事が無い。そのことに秋山は若干のイラつきを見せたがすぐに霧散させる。秋山は小春がそういった手間をかけてもいい存在だと認識しているからだ。
秋山は再び笑顔をさらに強め小春に話しかける。
「小春どうした? あまり元気が無いようだけど?」
それでも小春は反応を示さず未だ俯いたままだ。それには秋山も内心舌打ちをしてしまうが、気を取り直してもう一度話しかけようとする。
心配する振りを装って秋山は小春の肩に手を置こうと近づく。すると……
「やっぱり私……ここには居られません」
秋山が肩に手を伸ばしたその時、小春はバッと顔を上げ静かに、だが力強くそう言った。
その視線の先に居るのはもちろん真田だ。しかし真田はその視線を受けより一層憎たらしい笑みを浮かべる。
「だからーアレは事故なんだって、分かんだろ? それくらい」
「そんなの信じられない! あなた、わざと佐藤君を痛めつけて……楽しんでた!! ……っ!?」
そう言われると真田はスキルを起動し一瞬にして小春の腕を掴んで壁に追い込む。
「だったら?」
「くっ……ちょ…っと、放し……て」
「やっぱスゲェ可愛いなお前。間近で見ると余計にそう見えるわ……あ! そうだ! だったら俺の女になれよ」
「な、何を、言って……」
「いやさー、そんなに佐藤君が大事なら、俺の女になる代わりにもう佐藤君に手出ししないことにするよ。どう? 結構いい案だろ」
真田のあまりにも善意を踏みにじる提案に絶句し小春はそれ以上言葉が何も思い浮かばない。どうすればいいのか考えるが、真田の残酷に嗤う笑顔の前に正常に判断することが出来ない。
秋山はそれを見て内心ほくそ笑む。
自分の指示に従わない人物というのは、言ってしまえば自分の支配下に置けない人物ということだ。
だがそう言った支配下に置けない人間は何も真田のような反抗的な者だけでは無い。
『非戦組』と呼ばれるそもそもこちらに協力的でない我関せずのスタンスを取る者や、他の『戦闘組』グループで接点があまり無い者たち、そして……何かしらの心の拠り所を持っている者。
秋山は小春の自分に対しての反応がイマイチ悪い事をそう推理していた。
だからこそ秋山は敢えて最初に真田を止めなかった。スキルの起動も動き出しも見えていたし、その気になれば優に真田を止められるにも関わらず秋山は動かなかった。
(さあ小春、僕に助けを求めるんだ。あとコンマ何秒かで助けに入ってもいいがそれでは効果が薄い)
スキルで強化され、加速した感覚の中で秋山はそのタイミングを見計らう。
しかし小春は一向に助けを求めず動こうとしない。流石に真田にビビり過ぎて視線一つ動かせず、声一つ上げられなくなってしまったかと判断し、今回は仕方ないと思いつつまた別の機会を待つことにし流れの遅くなった時間の中を平然と動き始める。
その時、秋山だけが小春のほんの僅かな、些細な動作を見逃さなかった。目の前に居た真田や、ましてや小春本人ですら自覚していない無意識な動き。
小春の唇が僅かに動く。恐怖で震えたと言われればそうとしか見えない動きと、それに合わせて一瞬動いた目線。
それは秋山の方では無く自分たちが歩いてきた通路に向けられていた。そしてその通路の先にあるのは…… いや、居るのは。
「マリアさんこっちです! こっちで殴り合いが!!」
秋山がその思考を完成させる寸前、別の方向の廊下から聞こえてきた声で敢え無く思考を中断した。
(おそらく図書館でのやり取りを見てマリアさんを呼びに行っていたのだろう。今更来るとはなんて間の悪い……)
「おい真田、いい加減にしろ」
「チッ…ハイハイ」
面倒臭くなった真田は小春から手をさっさと放しその場を後にした。
「大丈夫かい小春? 後で僕の方から真田にはきつく言っておくよ」
「……ありがとう秋山君」
そう言って小春もそそくさとその場から居なくなる。
一人その場に取り残された秋山だが既に思考を再開しそして程なくして答えに辿り着く、小春が無意識にも頼るほどの心の拠り所になっている人物を。




