第10話
あの日から僕の異世界生活は一変した。
早朝の誰も使わない時間帯に訓練所でいつもの訓練をする。ここまではいつもと変わらない。
今までだったらその後は体を鍛えたり訓練所が空くまで時間を潰していたのだが、ここの時間が劇的に変わった。
訓練を終えた後、僕はすぐに図書館に向かうようになった。自分でもちょっと信じられないような変化に僕自身が結構驚いている。
「やぁ、サトウ君。今日も来たのかい」
「はい! 何ならいつまでも居たいくらいですよ」
「ハハ、それは良かった」
このメガネをかけた知的なイケおじはこの図書館を管理している司書のクラウスさん。
ここ最近、毎日ここに通ってるおかげで僕の顔と名前を覚えてもらえて、今ではかなり親しくなって、おすすめの本を紹介してもらったりと良くしてもらっている。
「ではこちらを」
「ありがとうございます!」
クラウスさんから取って置いて貰った読み途中の本を受け取り、いつも座るテーブルに向かう。
「ありゃ、今日は誰か座ってるな」
と思ったが今日は先客が居るみたいだ。まあそこまで気にすることでも無いので他のテーブルの席に着いて楽しみにしていた魔導書の続きを読み始めた。
・・・
「なぁー、何でこんなとこに来たんだよ~」
頬が机にめり込むくらいに体を投げ出し、少し不貞腐れ気味に司は俺に文句をぶつけてくる。
「偶にはいいだろ、こういうのも。暇なんだから」
「だからってよ~」
本に囲まれたこの空間がかなりお気に召さないらしい。適当に手に取った本を眺めてはページをめくり、眺めてはページをめくり、パラパラとページだけが消費されていく。
(こいつ絶対読んで無えだろ)
折角こんな場所に来たんだ、俺はこいつに少しで良さを知ってもらうため、今自分が読んでいる本について語る。
「何でもいいから読んでみろよ、これなんか結構おもろいぞ。『冒険者』。シンプルで読みやすいし、何より……」
「おもろいのはわかったって……いやわかんない! 文字ばっかじゃ俺ダメなんだよ。なぁ、街に出て遊ぼうぜ」
「いや街に出たところで、だろ」
司とつるむようになって話し相手には困らなくなったが、やる事が出来た訳では無いので結局こうして暇を持て余してしまう。
今日は気分転換に城の図書館に足を運んだが、肝心の相方がこれではそこまで長居できそうにない雰囲気が漂う。
これ以上コイツを退屈させてるとぶつくさ五月蠅いので仕方なく席から立とうとすると、司がたまたま振り向いた先に例の男を見つける。
「あれ? あいつって」
俺も釣られてそっちを見る。
視線の先に居たのは俺が良く覗き見(て言うとかなり俺が怪しく思えるが決してそんな事は無い)している男が何やら本を探していた。
「お前もしかして……」
「違うって! たまたまだよ! そもそもあいつの行動パターンなんて知らないんだから」
「どうだかな~」
司も俺がわざわざあいつを追ってここに来たのかと疑いを掛けてきたので慌てて弁明する。
するとあの男の方から何やら会話が聞こえてくるので、そっちを再び見るとあの男が背の低い小動物のような可愛らしい女子と話していた。
俺たちが一瞬目を離した隙を突いてラブコメ展開に発展しているとは……恐るべし主人公力。
俺の中で佐藤弘樹の主人公度がさらに一段階上昇した。
・・・
「う~ん、何かいい本は無いか……」
僕がこの図書館に来て最初に手に取ったのは『魔力』に関する本だ。
理由としては、剣を振るだけでは目標にはそう簡単には近づかない。ならば他の方法を試してみたは? とナーシャさんに助言されるままに魔力に関する本を手に取ったわけだ。
だけどそれがここまで僕を引き付ける内容だとは思ってもみなかった。
まず始めは魔力について色々と読み進め、そこから段々とのめり込み、遂には魔術・魔法といったものまで手を出し始めた。
訓練所で試しに本に書いてあった内容を実践すると指先からライターぐらいの大きさの火が灯った時は滅茶苦茶感動し、勢いそのままに僕は図書館の魔力や魔術・魔法に関する本を貪るようになった。
図書館の本が持ち出し禁止な事がここ最近一番のショックなくらいだ。
貪ると言っても本の内容によっては難し過ぎたり、今の実力じゃ試す事すら難しい事もしばしばのため、最近はそこらへん結構気を付けて選んではいる。
「『魔の可能性』……よし、これにしよ」
吟味した中でようやく選んだ本に手を伸ばすと視界の下から細い手が伸びてくる。
何かと思い手の伸びる先を見ると、背の低い女の子が頑張って手を伸ばしていた。
僕もそこまで背が高い方では無いがこの子は見た目だけなら中学……いや人によっては小学生に間違えるかもしれない。
だが、服装が制服なので高校生……のはずだ。
僕はそのまま本を取り少し残念そうな女の子にその本を手渡す。
「はいどうぞ」
「え、あ!? いや悪いよ、そんなの! あなたが最初に取ったものだし」
「僕は大丈夫だから、遠慮しないで」
一瞬呆気に取られた後、遠慮して本を受け取らなかったが、僕の押しに負けて渋々受け取った。するとしばらく考える仕草をした後、女の子が口を開いた
「あ! だったらこれ一緒に読まない?」
「え!?」
今度はこっちが呆気に取られてしまい、中々返事が出来ないでいると、そのまま押し切られる形で僕は席に着いた……着かされた。
「私は三年の花園さくら。あなたは?」
「僕は佐藤弘樹。二年…… え!? 三年生!?」
「そうよ。ちゃーんと敬語使いなさい」
ここ最近で一番驚いたかもしれない。
・・・
「なあ、司はさあ、ああいう風にさ、女子から話しかけられたことあんの?」
「う~ん、と……あるよ。結構」
「あんのかい!! クソが!!」




