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「して、いきなり我の時間を奪うとはよっぽどだな」
コンラッドの元まで案内された私は前のような場所ではなく、ソファがある部屋に通された。
「花を咲かせたら証明になる?」
「できるとでも?」
「なるかと聞いているの」
「そのような言葉遣いを…!」
「良い、黙っていろ」
「……はっ!」
出された紅茶を一口飲んでみるけれど、まだ茶葉は新しく摘んでいないのか美味しくない。
「証明になるだろう」
「証明したら二度とシェフィールドを傷付けないで」
ピクッと眉が動いた。
「理由は」
「あの子は私の大切な子。傷付ける者は許さない」
「ギリッ!」
眉間に寄る皺が深くなった。
「……恋仲か」
「恋?」
「違うのか」
「子どもと恋仲にはならないでしょ?」
「子ども?」
コンラッドは表情豊かだ。
今は驚きの顔をしている。
「お前の子?」
「そうだよ。私の大切な子」
「産み落としたとでも?」
「生んでないよ?」
「……それならいい」
少し目を瞑り考え込んだ。
私は考え事があると長くなる。だからコンラッドもそうかもしれないと思い、手持ちの茶葉を出した。
お気に入りの茶器を出して、茶器の中にお湯を入れる。
ああ、いい匂い。
やっぱり紅茶はこのように香しいのが好き。
「いい匂いだな」
「ありがとう」
少しだけ目を開いたコンラッドからあたたかな視線が送られる。
「はい、あげる」
「貰おう」
「皇帝陛下!危険です!」
「黙っていろと言ったはずだ」
「っ………」
茶器にゆっくりと口をつけると、紅茶を飲んだ。
「これは………」
目を見開いたコンラッドにどうしてか周りが心配そうな目で見ている。
「………どこのだ?」
「分かんない、適当に摘んだやつだから」
「お前が摘んだのか?」
「うん、紅茶好きだから」
「……このような紅茶は飲んだことがない」
それもそうだろう。
今の時代を生きてきた者達にとって、この茶葉は馴染みがない。
豊潤な世界でなければ採れないのだから。
「ふむ…調査をしてもお前がどこの者か分かっていない」
紅茶を見て、私を見た。
「他世界から来たという証明は一つされたな」
茶器のフチを触り、また目を瞑った。
「まだ足りぬが」
目を開けたコンラッドはどこか探りの目をしている。
「花を咲かせてもらおう」
「シェフィールドは──」
「罪に問わないと約束しよう」
「傷付けない?」
「ああ、騎士は手を出さない」
ほっと安堵した。
子を守れて良かったと胸をなで下ろした。
「どうせなら大木にしようと思うの」
「ははっ!また大きく出たな」
木々の根は生えているけど、まだ大木はない。
木陰で休める場所があればいいと思ってたんだ。
「どこならいい?」
「そうだな…我の庭園にしてもらおう」
立ち上がったコンラッドに着いていくと、隣に立った。
見上げると柔らかな目元と口元がなぜか気になった。
「なにが好きだ」
「そうだった!」
あの画家に私を描いて欲しいんだ。
「渦の絵を描く人、私に一度くれない?」
「気に入ったか」
「うん、あれ好き」
「ふっ、手配しておこう」
「ありがとう」
「我も好きだ」
「絵?」
「さてな」
私の頭上にコンラッドの手が伸びた。
どうしたんだろうと見ていたけど、なにもする気がないのか手が下がっていった。
庭園までは遠いらしく、かなりの時間を歩いた。
着いた先にはガゼボがあり、下には瑞々しい草がたくさん生えていた。
「ここに生やしてみせろ」
指定されたところに行くと靴を履いていることに気付く。
よっと靴を脱いで素足になると世界をよく感じられる。
葉がチクチクと当たってくすぐったくて笑みが漏れると周りから息を呑むような音が聞こえた。
地面に膝と手をつき、体全部で土を感じる。
大木の苗を土に埋めて、魔力を流していく。
細く、じっくりと。
大木だけに魔力が流れるように。
「そんな馬鹿な…」
ぴょこんっ、と木が生えると誰かの声がした。
気にせず魔力を流していくと太い木が私の顔まで伸びてきた。
立ち上がり、木に触れて魔力を流すと、ぐんっと大きくなった。
「これが…聖女様のお力……」
「本当だったのか…」
「そんな…」
まだまだ大きくなれるよね?と心の中で問いかけると一気に伸びた。
その姿は圧巻だった。
横にも縦にも大きくなり、見上げると葉がそよいでる。
枝もたくさん分かれていて、涼しげに風を浴びている姿があった。
「これで敵対せずに済む…」
コンラッドがボソッと言葉を吐いた。
目が合ったコンラッドは心から安堵しているように見える。
「よくやった」
さきほどとは違い、大きな声で話し出したコンラッド。
「確かに見届けた」
これで証明になったのなら良かった。
「しかし本当に他世界があるのか」
「信じない?」
「我は見たモノを信じるタチでな」
「私もだよ」
同じだねと笑いかけると控えめだけれど笑みを零した。
「お前が心から信じているのなら、消滅は回避していないということになるな」
ざわざわと周囲の声が大きくなる。
「消滅とはなんだ」
「そのままだよ、世界が消えるの。跡形もなく」
「なぜ消える」
「寿命だよ」
「…自然の摂理ということか」
コンラッドはよく険しい顔をする。
「はい」
「なんだ?」
「飴だよ」
「これも他世界の物とでも言うのか」
「甘い物を食べたらきっと険しい顔しなくて済むよ」
「ははっ!そうであったらいいな」
そう言い、飴を口に放り込んだ。
「美味い」
満足そうな顔を見て、私も満足した。




