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「よく顔を見せてくれ」
男の胸元から離された私の顎を掴む男は意思の硬そうな金の髪をしている。
「我の運命は美しすぎるな」
周囲から息を呑む音がたくさんする。
「見られないよう、ヴェールでも作らせるか」
私の頬を撫で、そんなことを言う。
「名前を教えてくれ、我はお前が知りたい」
私の唇を撫でた。
見つめられる視線があまりにも甘く、そしてドロドロとしている。
「声を聞かせてくれ」
懇願するような声を吐く男の顔が近付いてきた。
だから私は──
ドンッ!
男を吹き飛ばした。
家族でもない人間が近くに寄ったのが不快感だった。
男を吹き飛ばすと、周囲がざわめいた。
「ああ、いい。やめろ」
吹き飛ばされた男が私に近付こうとする誰かの行動を止めた。
「なにが気に入らなかった」
立ち上がった男はまた私に近付いてきた。
そんな男に疑問を投げかける。
「なにしてるの?」
「なに、とは?」
「どうして抱き着いてきたの」
「触れていたいだけだ」
「なぜ?」
私は触れたいと思っていない。
「運命なんだ、そう思うだろう」
運命?
魂が惹かれる唯一の相手。それが運命。
たくさんの出会いを見てきた。
運命に出会う瞬間をたくさん。
だからそれがどれほど大切かは見て知っている。
「あなたの運命?」
だからって私に抱き着く理由にはならない。
「そうだ」
手を伸ばされた。
頬に。
だから私は嫌がるようにその手を掴んだ。
「お前が我の運命だ」
私がこの人間の運命?
「心惹かれる?」
「我はお前に惹かれている」
どうして?
だって、
「私はなにも感じない」
「っ」
運命など出会ったことはない。
私には当てはまらないとも思ってる。
だってほら。
やっぱりなにも感じない。
「冗談にしては些か悪趣味だ」
「冗談なんかじゃない」
掴んでいた手が翻る。
私が掴んでいたのに、今度は手を掴まれている。
「本気で言っているのか」
「本当だよ」
冗談を言っているのはこの人の方だ。
だって運命とは必ず両者が分かるモノ。
「………なぜ分からない」
「なにを勘違いしているの?」
運命に出会った瞬間はなににも代えがたいという。
気持ちを言い表せられないとも。
「………お前が聖女か」
「そう呼ばれてる」
「他世界から来たなどとは信じておらぬが、他世界では運命が分からないのか」
そんなことはないよ。
「分かる」
誰だって分かる。
「さすがの我も混乱するな」
苦笑いのような顔をして、手を離された。
「それはあとで話し合おう」
背を向けた男が歩き出すと、シェフィールドとカーラが歩き出すから私も足を動かす。
段差の上にある椅子に男が座ると、みんながしゃがみ込んだ。
「お前はいい」
なにを言われているか分からない。
「早速だが啓示について聞こう」
男の言葉に口を開いたのはシェフィールドだった。
「世界がまもなく消滅すると言われました。消滅を回避してくださる方を神殿に呼ぶとも」
「それが聖女か」
「はい」
「神と友などと聞いたが、誠か」
「真実でございます」
「証拠は」
「ございません」
「消滅は回避したのか」
「いいえ」
「花が芽吹いたのは」
「私が花畑を見たいと言ったら聖女様が叶えてくださいました」
ああ、そうか。
ずっと不信な目で見られていたのは嘘をついていると思われているからか。
だからあんな目をするんだね。
「どう回避する」
私に目を移した男の瞳は奥底に粘ついたようなモノが見える気がする。
「分かんない」
「分からないのに神が寄越したと?」
「ふふっ」
「…」
そうだね。
きっとあの子は…
「信じてくれてるから」
「…」
あの子はきっと信じてるんだろう。
私がどうにかするのを。
「戯言だ」
厳しい目を向けるのは男だけじゃない。
「どうして信じてもらわなきゃいけないの?」
「神殿が起こした奇跡だと認めるには事が大きすぎる」
「大地のこと?」
「ああ」
大地を潤したことがそんなに大事?
「花を咲かせられるのか」
「できる」
「証明せよ」
「どうして?もう花は咲いてるよ?」
「拒絶ということでいいか」
「拒絶?もう咲いてるって言ってるだけ」
「新たに咲かせられないのか」
「ああ、証明…」
「その通りだ」
信じたいのかな?
私が花を咲かせたということを。
「しないよ」
だって楽しそうに咲いてる。
草も、花も。
これ以上咲かせたら苦しくなっちゃう。
「罪に問うことも可能だ」
ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「お前の出生も暴かれる」
こちらに向かってくる足取りは確か。
「他世界から来たなどと戯言を吐けるのは今のうちだけだ」
私の前で止まった男の目は光っている。
「暴かれてしまえば神殿も危ういぞ」
男の言うことは分からないことが多い。
「それでも尚、謀るか」
責めるような言い方をする。
まるで私が悪いみたいに。
「答えよ」
私の耳元に顔を寄せた男は思いのほか、優しい声音を吐いた。
「お前を助けたい」
吐息がかかる。
「どうか嘘はやめてくれ。お前と敵対したくない」
懇願する声音で囁かれる。
「頼む」
私が嘘つきになっているのは理解した。
この世界に居なかったのも嘘、大地を潤したのも嘘。
きっとシェフィールドもあの子と友達なんて嘘をついてると思われてる。
証明なんてどうしたらいいか分からない。
だから私は真実だけを届ける。
「私はあの子に頼まれて世界の消滅をなくそうと努力している」
「…」
男の胸を押すと簡単に引いてくれた。
「嘘など一切ついていない」
「…」
金の目をまっすぐと見上げる。
「私は今、あの子の幸福の為だけに動いてる」
そう言うと、一瞬だけ眉を下げて悲しそうな顔をした。




