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棚を眺めていると茶葉が並んでいた。
1つ手に取って茶器に用意していると、茶葉の匂いが漂ってくる。
「お茶にしない?」
「呼ばれてるんです、また誘ってください」
「そう」
「一時の安らぎを」
部屋から出て行ったシェフィールドを見届けてソファに座る。
「ん……マズイ」
紅茶は飲めるほどの味じゃない。
まぁ、それも仕方ないか。
大地が潤う前に摘まれた物だもんね。
それにしても…消滅前の世界はこんな味なのか。
今度聞いておこう。
大地が潤っていない世界が嫌じゃないかどうか。
にしても………
なにも思い浮かばない。
相変わらず“世界は必ず消滅する”という答えしか持ち合わせていない。
視点を変えてみる?
要は精霊が住める世界を創り上げればいい。
世界は勝手に生まれてくる。
私が存在している理由。
世界が生まれ、神々が生まれる。
その根源が私。
他の世界も私の魔力、力で出来ている。
それならどうして他の世界に精霊は行けないのだろう?
今更ながらに根本的なことが気になった。
そうして考え込んでいるとノック音が聞こえた。
「どうぞ」
入ってきたのは女だった。
「失礼いたします。聖女様の側仕えに任命されました。カーラ・アークライトと申します」
側仕えなんて必要なんだろうか。
「必要?」
水色の髪と瞳のカーラは見た目通り、勝気そうな女だった。
「良ければ私に身の回りのお世話をさせてくださいな」
これも整えてくれたうちの一つなんだろうか。
「お願いね」
「しっかりと務めさせて頂きます」
あの子の気持ちを無碍にはしたくない。
気にせずまた思考の渦に身を落とそうとしたけれど。
「早速で申し訳ないのですが、皇帝陛下がお呼びです」
それくらいなら分かる。
国を治めている人だよね。
「どうして?」
「経緯をお聞きしたいのだと思います」
「経緯って?」
「前もって皇帝陛下には神託の内容を伝えていましたが、信じてはおられない様子でした。けれど、花が咲き乱れたのを体感し神様の存在を無視できなくなったのかと」
「よく分からないな」
まぁ、でも国が動いているということか。
「分かった」
「既に迎えが来ております」
立ち上がりカーラの後ろを着いて行くと、空は暗かった。
そんなに考え事をしていたのかと思いながら、部屋から出るとシェフィールドが待っていた。
「シェフィールドも?」
「ええ、神託を受け取ったのは私なので」
口調がコロコロと変わるシェフィールドは少し疲れているみたい。
「きちんと休まなきゃ駄目だよ」
「落ち着いたら休みます」
それならいいけど…。
「お待ちしておりました、聖女様」
話しながら歩いて外に出ると、同じ服を着た大勢の人間が待っていた。
その目はなんだか訝しげだ。
「皇帝陛下と謁見する前にお力を確認させて頂きたい」
一歩前に出た男がそんなことを言う。
「足元に花を咲かせてください」
「どうして?」
足元には艶やかな草が生えている。
産まれたての葉は楽しそうにそよいでいる。
「確認を」
「なんの?」
「今咲いている花が貴方様のお力だとの証明が必要です」
「もう生えてるよ?」
「お力を確認させて頂きたい」
「それと世界の消滅、どう関係があるの?」
あ、もしかしてシェフィールドと同じ勘違いをしているのかもしれないな。
「大地を潤しただけで消滅は避けられていない」
「本当に消滅するとでも?」
「解決策がなければ」
はっ!と笑った男は馬鹿馬鹿しいというような目で私を見た。
「神殿はこの奇跡を我が物にしたくて必死だな」
くすくすと笑うのは同じ制服を着ている人達。
「まぁ、いい。どうせ出来ないんだろう」
「聖女様への無礼は謹んで頂きたい」
シェフィールドがそう言うけど、私って今無礼な態度を取られてたの?
「来い」
後ろを着いて行くと大きな籠の前に到着した。
「乗れ」
これに乗ればいいのかな?
カーラが手を差し出したから、手を乗せて乗り上げた。
中には私とカーラ、シェフィールドが入るよう。
「申し訳ございません、思った以上に厄介なことになりました」
「どうしたの?私に出来ることある?」
シェフィールドはあの子の友達。
それなら私の子同然だ。
「大地を潤した奇跡を神殿の物にしようと画策しているように見えているようです」
「神殿の物じゃ駄目なの?」
「ほら吹きだと思われているのですわ」
「どうして?」
「わたくしは先ほど、神様を拝見したお陰で事実をハッキリと理解しておりますが、知らぬ者達には嘘だと思われているのです」
「そっか」
しょうがないよね。
だって見なければ信じられない。
私だってそうだよ。
消滅間近の世界がこんなにマズイだなんて信じられなかった。
だから仕方ないことだ。
体感しなければ理解出来ない。
「理解しなきゃ駄目なの?」
「理解したいと思うのでしょう。そしてその力を操れるならば手の内に入れておきたいと思うのが普通ですわ」
私を利用したいってこと?
利用して一体なにを得られるんだろう。
「本当に……世界は消滅するのですね」
カーラの顔が曇った。
そうだ、考えなければならない。
例え今生きている人間が死んでも精霊が生きられる方法を。
ああ、それでは駄目だ。
人間を捨ててしまえばシェフィールドまでいなくなってしまう。
友達を奪うことなんてしてはいけない。
だから人間も精霊も生きられる世界を考えなければ。
「動かせない物を動かす方法はある?」
「動かせない、ですか…」
「壊してしまえば破片が散らばり、その破片が動いたことになりますわ」
精霊を一度、分解する?
それは出来ない。
精霊も人間も神も壊してしまえば壊れたまま。
もちろん肉体だけが壊れた場合は治せるけれど、肉体をバラバラにしたところで変わりはない。
「それは意味がない」
「土台ごと移動させてみては?」
土台、世界をすり替えたら精霊も消滅する。
やっぱり最初の疑問に戻ろう。
なぜ、精霊は世界に縛られているのか。
他の世界もいうなれば素材は同じだというのに。
「消滅してもいいっていう精霊はいないかな…」
そうすれば実験が出来るんだけど…。
ヒクッ…と声が聞こえてそちらを見ると、シェフィールドが腰を引いていた。
「ああ、シェフィールドも精霊の友達がいるの」
「はい」
「大丈夫、消滅したくない子を無理やり実験台にはしない」
ほっと息を吐いたシェフィールドは私の言葉で友達を案じていた。
「そろそろ着きますわ」
言葉通り、数分経つと籠が止まった。
籠から降りると、大きな建物の前にいるようで迎えに来た人達と同じ制服を着た人がまた大勢居た。
その目は不信感。
一体私がなにをしたんだろう?
頭を傾げながら案内される中に入っていく。
神殿とは異なり、白を基調とした室内は目が痛くなるほどのカーペットが敷かれてある。
壁には絵画があり、その中の一つが気になった。
「きれい………」
様々な渦が巻いている絵画に一目惚れした。
なにかを表しているようだけれど、そのなにかが分からない。
久しぶりになにかを理解したいと思える絵だった。
「早く来い」
急かされて気付く、まだ案内の途中だったと。
後ろ髪引かれるように絵画を後にすると、チラホラと人が歩いている。
その目はやはり訝しげだ。
そんな視線の中、しばらく歩いていると見たこともないほどの大きな両扉の前に着いた。
「こちらには皇帝陛下がいらっしゃる、失礼のないように──」
その時、
バタンッッ!!
誰かの魔力で扉が開いた。
そして──
「ああ、なんと美しい………」
鋭い金の目と合った。
「会いたかったぞ」
なぜだか宝物のように抱きしめられた。
「我の運命」
甘やかな声を出す男の言っていることは、
分からない。




