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腰を上げて立ち上がると驚愕の目をした人間がたくさん外に出てた。
ううん、外だけじゃない。窓から身を乗り出し外を眺めている人間も。
「どう?」
「………は?」
我が子の加護を持つ男に聞いてみた。
「花畑、初めて見た感想は?」
「………はっ!?」
目を白黒させながら花を眺め、私を見るを何度か繰り返した男は想像通り快活な声を出した。
「す………すっっげぇ!すげぇ!すげぇ!なんだよ、これ!!」
男が声を上げると、周囲から歓声が沸き起こる。
「どうやって…いや、そんなことより、これで世界が消滅しなくて済むんだな!ありがとう!」
私の手を握り、ぶんぶんと振る男は勘違いをしていた。
「ただ大地を豊かにしただけ」
世界は未だ、消滅へのカウントダウンを進めている。
「世界はまだ消滅に向かっている」
「そう……そうなのか……」
シュン…としてしまった男を慰めようと手を伸ばしたその時、人間が一斉に跪いた。
いや、加護持ちの男以外が跪いた。
私の背後にいる子相手に。
「世界を潤してくださってありがとうございます」
「これくらいならいつでも呼んで」
「お言葉に甘えます」
神という存在は神聖なオーラがある、それは決して隠せない。
精霊も神聖なオーラがあるけれど、神ほどではないと過去の人間は言っていた。
だから皆、跪いているんだろう。
「シェフィールド、居場所は整っておりますか?」
「ああ、言われた通りにしたよ」
加護持ちの男はシェフィールドというらしい。
「そんなことしなくていいのに」
居場所なんて作らなくても困らないのに。
「ご迷惑でしたか?」
「ううん、嬉しいよ」
手を伸ばすと少ししゃがんでくれるから頭を撫でると、はにかんでくれる。
「頑張るね」
「私に出来ることがあればおっしゃってください」
「うん、分かった」
子が目の前から消えたからかやっと顔を上げれるようになった人達は放心状態だったけれど、やがて興奮しながら隣にいる人と嬉しそうに話し出した。
「神様がいらっしゃるのか………ならば………」
声の方に振り向くと苦々しい表情をした人間達が見えた。
「神託は本当に…」
「それならば…」
「世界の消滅は本当なんだな」
現実を叩きつけられたのか人間達の表情は明るくない。
「ご案内します」
そうだ、整えてくれた居場所。
神殿が今日から私の家。
そしてきっと私の為だけに誂えてくれた部屋があるんだと、浮足立ちながらシェフィールドの後ろを着いて行った。
庭を歩いていると、さっきとは異なる視線がこちらに向かっている。
そして感謝をするように頭を下げる人達は世界の美しさに感動しているようだった。
だけどそれは一時のこと。
消滅するまでの間は保つだろうけれど、また枯れていく。
「シェフィールド」
「はい」
「寿命あるモノをどうしたら延命できると思う」
「獣人や竜人でしたら──」
「世界は噛むことが出来ず、またウロコを飲ますことも出来ない」
確かに寿命の異なる種族たちは自身が持ち得ている牙やウロコで相手の寿命を延ばすことが出来る。
でもそれは世界相手には通用しない。
「世界を噛むことはできないのでしょうか」
「…どうだろ」
世界に毒を与えてみる?
「やってみようかな」
神殿の入り口まで着いた私は未だ素足のまま。
土に膝と手をつき、私の体内にある獣人の毒を出してみた。
獣人は噛むことで相手の寿命を延ばすことができる毒を持っている。
侵食はしてる。
だが毒は広がらない。
その場に留まっている。
それならばウロコはどうだろうか。
竜人は体の一部に飛び出ているウロコを飲ませると、相手の寿命を延ばすことができる。
手の中にウロコを出して粉々に割ってみる。
それを世界に流そうとするけれど………
吸収しない。
量が足りない?
だがどうやって増やす?
「うーん、駄目みたい」
差し出してくれた手を掴み立ち上がる。
「嚙んだのですか?」
驚いた表情で聞かれる。
「うん、毒を排出してみた」
「そのようなこともできるのですね」
歩き出すと今度こそ神殿の入り口が開いた。
黒を基調とした神殿内は足音が響かないようにカーペットが敷いてある。
大きめな窓が特徴なのか、その窓から日の光が充分すぎるほどに差し込んでいる。
1階建てなのだろうけど、大木でも届かない程に天井が高い。
建物を支えている支柱が厚く、重厚感が出ている。
「ここはどんなところなの?」
「神様への祈りと、治癒を主としております」
「祈り?どうして祈るの?」
「日々の感謝をお伝えしたいのですよ」
「それなら世界にも感謝するべきじゃない?」
「ふはっ!ん、失礼しました。おっしゃる通りかもしれませんね」
廊下を歩いていると、バタバタと急ぎ足でなにかをしている人達が目に付く。
みんな忙しそうだ。
「騒がしくて申し訳ないです」
「気にしてないよ、みんな大変なんだね」
「聖女様や神様を本当に信じていなかったんです、皆。だから今になって身の振り方を考えているのでしょう」
「それはしょうがないよね。見るまで信じられないって言う人が殆どだもん」
「俺もそうだった」
見上げると恥ずかしそうに頬を掻いている。
あの子と友達になるまでは信じてなかったってことかな?
「これから………」
ピタッと立ち止まったシェフィールドの眉は下がっていた。
「これから面倒事に巻き込まれると思うんだ」
「そうなの?」
「ああ、こんな奇跡を見せてくれたんだ。煩くなる」
「そっか、教えてくれてありがとう」
「いや…守れなくてごめんな」
「大丈夫だよ、どうにかなるよ」
手を伸ばすとキョトンとされたけど、少ししたらしゃがんでくれたから頭を撫でる。
「出来るか分からないけど、頑張るからね」
「ありがとう…」
人間はいつだってなにかを求めてる。
手を伸ばした先は誰かにとって厄介になることだってある。
そうやって生きているのは知ってるよ。
「こちらです」
姿勢を正したシェフィールドが両扉の前で止まった。
ゆっくりと開いた先にあったのは我が子からの愛だった。
私の好きなターコイズブルーの壁紙に、洗練された家具。
クッションが好きな私の為にとたくさんのクッションで溢れている。
長ソファの前にはラグが敷いてあるから、ここでお昼寝も出来る。
そんな居場所。
「ふふっ、ほんとに可愛いんだから」
きっと整える為にあの子も色々なことをしてくれたんだろう形跡がある。
愛情を感じる室内をじっくりと、心ゆくまで感じていた。




