15
「側仕えはいらない、出て行って」
「……かしこまりました」
無駄に食事を用意されるのも、無駄に紅茶を置かれるのも、もう面倒だった。
だから排除したの。
だけどね?
コンコン…
側仕えを排除してすぐに扉が叩かれた。
気にせず魔法陣を構築していると扉が開いた。
「「聖女様!」」
驚いて顔を上げるとシェフィールドとカーラが居た。
「わっ、どうしたの?」
広げてある魔法陣を遠慮なく踏んで私の元に来た。
「心配しましたわ!」
「大丈夫か!?」
「「きちんと食事は取ってるのか(ですか)」」
変わらない二人になんだか笑いが止まらない。
「またお酒を!」
「せめて歩きましょうって言ったじゃないですか、守ってます?」
「ふふっ、くすくすっ、」
くすくすと笑っているとやっと床にある魔法陣に気付いたのか、端に寄った。
「これはなんですの?」
「消滅しない為の魔法陣」
「すげぇ……」
まだ途中だ。
半分にも満たない。
「どうしてここにいるの?」
「聖女様が側仕えを拒絶し、部屋の立ち入りも禁止したと言われました」
禁止にしたっけ?覚えてないや。
「数日経っても部屋から出ず、心配になった皇帝陛下が私たちを派遣したのですわ」
あれ?そんなに経ってたっけ?
ついさっきだと思ったけど。
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないだろ!」
「そうですわ!またお酒を片手に…!ろくに寝てもいないのでしょう!?」
口煩い二人だ。
ほんと、困っちゃうんだから。
「聞いてくれる?」
二人には理解してもらいたい。
「私は世界の消滅をなくしたいの、その為にやりたい事、考えるべき事があるの。その為に必要なことをしてるんだよ」
だから大丈夫。
私に問題はないんだよ。
「……分かりましたわ」
「でも聖女様、そんなに酷使してばっかりだといつか倒れる」
私は倒れたりなんかしない。
「信じて、私なら大丈夫だから」
二人、顔を見合わせて私の方を向いた。
「「はい」」
ああ、でも頼みたいことがある。
「この部屋じゃ狭いの、他の部屋をくれない?」
「すぐに伝えて参りますわ」
「お願いね」
床に広げた紙じゃ魔法陣がはみ出てしまいそうだったんだ。
カーラが出て行き、シェフィールドだけになった。
「聖女様は何者なんですか?」
「どうして?」
「だってあの時くれたのは加護…ですよね?」
「そうだね」
「加護を与えられるのは神様か精霊様以外、俺は知らない」
真っすぐな目で問いかけられる。
「世界様って呼ばれてるよ」
「世界様?」
「神々にはね」
「………ちょっと規模がデカすぎる気がする」
「ふふっ、私は私だよ」
「……そうだな」
笑ってくれた。
私を信用している顔で。
カーラが戻ってきて新しい部屋へ案内してくれる。
城内は詳しくないからと前を歩いているのは制服を着ている人。
通り過ぎる人達の目は前とは違う。
どこか近寄りがたいようにして、目を輝かせている。
「二人は戻りなさい」
なぜだかここに二人は居させたくない。
「ですが…」
「分かりましたわ」
「カーラ」
「しょうがありませんわ、それに聖女様には傍仕えなんて必要ないのは仕えていた私が一番よく分かっています。全てご自身でなさってしまうのですから」
なぜだか鋭い目をされる。
カーラが怒ってるみたい。なんでだろ?
「ですが手紙をくださいな」
「手紙?」
「お元気で暮らしているか気になるのです、ですから数日に一度は私たちに手紙をくださいな」
「……ふふっ、分かった。約束ね」
「こちらを」
カーラから渡されたのは懐中時計だった。
「こちらで日にちが分かります、これなら忘れないでしょう?」
日にちなんて意識していないのがバレバレのようだ。
「ここを回すと一からになるのですが…まぁ、その時は私が参りますわ」
「ありがとう」
「これくらいさせてください」
どうやら懐中時計にも使い方があるらしい。
「怪我しちゃ駄目だよ」
「聖女様も無理すんなよ?」
「まずはご自身のお体を労わってから仰ってくださいませ」
お辞儀をして私の前から居なくなった二人の背中は逞しい。
なにかあっても対処できるだろうと誇らしくなるような背中だった。
「こちらです」
制服の人が連れて来た場所は大きな会場のように思える場所だった。
これならちょうどいいと魔法陣を広げて血を流した。
描いていると息詰まる時がある。
そういう時はソファに座って考えるんだけど、ソファがないことに気付いた。
なんとか魔力を練って空間収納からソファを取り出して座ろうとして、やめた。
今はラグがいい気分だ。
ラグを出してあぐらをかいて座りながら酒を煽る。
うん、こっちの方が考えが纏まる気がする。
室内には制服を着た人が居て、たまに入れ替わる。
視界の端に映るけど、気にせず目の前の魔法陣を見つめる。
カチッ。
懐中時計を開くと二人が来て3日経っていた。
数日に一度ってどれくらいなんだろう?
まぁ、いいか。
3日に一回で。
元気だと手紙に書いて…どうやって渡そう?
渡しに行ってもいいんだけど、今はあまり力を使いたくないな。
なんだか体がだるくなるんだよね。
んー………
あ、頼めばいいか。
「シェフィールドとカーラに届けて」
「っ、…かしこまりました!」
室内にいる制服を着た人に頼めば届けてくれるでしょ。
契約の魔法陣は今のところ上手くいっている。
構築に必要な組み立てが複雑で手が止まるだけで、理論的には合っていると思っている。
ああ、あそこの陣では流れが止まるな。
一度、血を流して向きを逆にしないと………
パシッ。
「なにをしておる!?」
手を掴まれた。
血が流れている方の手を。
「コンラッド?」
「なにをしておるのだ!」
「なにって魔法陣の構築だけど?」
「血肉を使うなど正気か!?」
一度、血を止めて掴まれている手に手を重ねて弾くように払った。
「コンラッドには何一つ理解できないんでしょう?」
「今は問答をしている時ではない!」
「私には同じだよ。世界の消滅を止める方法を探しているの、この世界に来てからずっと」
「…」
「今の私にはこれが一番最適だと判断している、だから──」
コンラッドに手を翳し、吹き飛ばした。
ドンッ!
「邪魔、しないで」
ああ、いけない。
描き直さなくちゃ。




