14
「よく来た」
コンラッドの前に立たされた私は花の蕾があることに驚いた。
庭園で茶会を開いているという場所にはもう蕾がある。
それほど時間が経っていたのかと内心焦っていた。
「………今日はお前に聞きたいことがあって呼んだ」
魔法陣の構築はまだ始まったばかり。
並行して他の可能性も考えなければならないか?
「臣下から声が上がっていてな」
やはり精霊のカケラについて考えることもした方がいいかもしれない。
「お前が消滅という言葉を使い、無駄に民を脅かしているのではないかと」
消滅…そう、消滅してしまう。
それをあの子は望んでいない。
「神の言葉を聞き、神と会ったという……戯言を訂正せよ」
時間がない。
いっそのこと他の世界の精霊を実験に使うか?
「訂正すればお前を罪には問わない」
あまりにも硬くなった言葉が気になって初めてコンラッドを見る。
「罪?」
「そうだ」
「あの子に会った事実を訂正しなくちゃいけないの?」
「戯言に振り回されてばかりではいられない」
「訂正しなければならないことなどない」
眉間に皺が寄り、口を硬く閉じた。
目が少しだけ、揺らいだ。
「………訂正はしないのだな」
「私は真実しか言っていない」
ざわざわと周囲の声がどんどんと大きくなる。
「預言者など馬鹿らしい」
「なにが神だ、いるものか」
「国を混乱に陥らせてなにがしたい」
コンラッドが目を瞑った。
そして、見開いた目は覚悟を決めたものだった。
「この者を捕えよ」
制服を着た人間が近付いてくる。
私の背後を取り、乱暴に腕を取った。
触れられた不快感で吹き飛ばそうとしたけれど、上手く力が出せない。
後ろ手にされた不安定さで膝が地面につく。
ドレスの飾りが膝に当たって痛い。
「立て」
ざわめきが大きくなる。
そんな中、コンラッドと目が合った。
コンラッドから見た私ってどんなのだろうって思った。
嘘つき?ほら吹き?罪人?
一体どんな私なんだろう。
今更ながらにそんなことが気になった。
コンラッドが私を見る目にはどう映ってるんだろう。
「ぃっっ……」
無理やり立たされ、手を今以上に縛り上げられた。
「っ、手荒な真似はよせ」
「はっ!」
力は緩まらない。
むしろ強まっていく。
私の体を押すようにして歩かせられた。
その時──
拘束がぱっと放された。
ザザッと布の擦り切れる音がして、一斉に跪いたんだと分かった。
コンラッドも目を見開きながら跪いた。
その原因は分かるよ。
「どうしたの?」
我が子が私に会いに来たから。
「あの…友人が」
「ん?精霊?」
「はい」
見上げるとはにかんでいる姿が目に入った。
久しぶりに誰かのほんわかな表情を見れた。
「お礼にと、花かんむりを作ったのです」
「私に?」
「はい」
我が子の手には立派な花かんむりがあった。
青と白の小さな花びらがたくさんついてる。
「ふふっ、ありがとう」
こんなことされちゃ消滅を回避できないなんて到底言えないよ。
この子の笑顔の為にも。
「ね、頭に乗せて?」
「くすくすっ、はい」
頭にふわっと乗せられた。
「いい匂い」
とても柔らかな匂いがする。
「なにかお困り事はございませんか?」
「ないよ、ある?」
「私もありません」
「なら良かった、友達と遊んでるの?」
「はい、大地を潤してくださったお陰で森ができそうなんです」
「おいかけっこしてるの?」
「はい、一緒にどうですか?」
「それはまた今度」
「はい」
手を伸ばすと屈んでくれる。
頭を撫でると頬を緩めてくれる。
「失礼します」
「うん、いってらっしゃい」
「いってきます」
我が子が目の前から消えると、おずおずと顔を上げだす人間達。
そしてしばらくの静寂の後、ざわめきが訪れた。
「か、神様が…!」
「つまり預言は本当か!」
「なんということだ…」
コンラッドを見た。
どんな顔をしているのか気になって。
蒼白。
この表現が正しいだろう。
「私を捕えるんでしょう」
「っっ」
捕えてよ。
変わらず捕えて。
私の事を信用してない証として捕まえて。
だって私は未だ、なんの証明もしていない。
ただ我が子が会いに来ただけ。
誰も動かなかった。
先程まで私を押さえ付けていた手も。
私を嘲笑っていた声も。
なにも。
ただ、コンラッドだけが苦しそうに顔を歪めていた。
「皇帝陛下!」
コンラッドは動かない。
まるで動きを止められているみたいに。
きっと捕らえることなんて出来なくなったんだろう。
ああ、なんて──
「あほらしい」
「っ……」
歩き出した私を止める声はない。




