13
「そろそろ戻りましょう」
「しばらくここにいると伝えたはずだよ」
「……報告してきます」
夜になり肌寒い気温が今の私にはちょうどいい。
新しい世界を創るのも駄目。
カケラの実験も出来ない。
ならば寿命を延ばす方法か。
寿命は延びる、確実に。
人間なら獣人の牙と竜人のウロコ。
神なら眷属として契約すれば人間でも永遠に生きられる。
死ななければ。
私には牙とウロコがある、寿命を延ばすことが可能だ。
眷属にさせることも出来る、だから永遠の命を授けることも可能。
世界を眷属にする?
だがどうやって。
眷属にするには魂が必要だ。
魂と魂をもって契約するのだから。
ああ、そうか。
つまり精霊は眷属には出来ないのか。
精霊の寿命を延ばしたところで、元々寿命がないのだから意味がないだろう。
精霊に寿命があるとすれば世界の寿命ということになる。
「なにをしておる」
声の方を見上げるとコンラッドが居た。
なんだか久しぶりに見たコンラッドは少しだけやつれていた。
「気分転換」
「にしては長いな」
「そう?」
「我も良いか」
「この大木はコンラッドのモノでしょ」
「ふっ、そうであったか」
私の横に腰を下ろしたコンラッドも大木に背をついた。
「報告を受けている」
「ん?」
「お前が毎日なにをしているか報告が上がる」
「そうなんだ」
「一体なにをしておる?」
「考えてるの」
「なにをだ」
「世界が消滅しない方法」
「答えは出たか」
「んーん」
なにを考えても、世界は消滅するという答えしか出ない。
世界は消滅し、あの子の友達も消滅する。
そんな未来しか思い描けない。
「寿命といったな」
「うん」
「消えゆく命は精々、延命しか出来ぬと思うが」
眷属以外に方法は今のところない。
「契約?」
「なにがだ?」
眷属にするには魂を縛る、いわば契約がなされる。
ならば世界と私で契約を結んでしまえばいい。
でもなんの契約をしたらいいの?
「そのように過ごしているのだな」
「ん?」
「そうして考えているのだろう」
また考え事に戻った私の姿を見てそう思ったのかな?
「真に向き合っているのだな」
「お願いされたから」
「神か?」
「うん」
あんなにもツラそうな表情をもう見たくはない。
「やはり嘘には思えない」
「なんだっていいよ」
「証明してくれぬか」
思わず顔を見た。
「今のお前の立場は危うい」
「勝手にここに来させて、勝手に危うくさせているのはそっちでしょ」
「…ああ」
ぎゅっと目を瞑った表情は苦しそうで、なぜだか見たくないと思った。
「証明を──」
「どうして信じてくれないの?」
「…」
「私が言っている言葉を信じてくれたら証明なんていらないはずだよ」
「…」
「コンラッドは信じられないんだね」
「……我は信じたい」
「コンラッドも信じられないんだね、みんなと同じ」
きっとあの子が現れたらみんな信じるんだと思う。
そう、感じてる。
でも私は私を信じて欲しい。
そっか。
信じて欲しいんだね。
みんなにじゃない。
コンラッドに信じて欲しかった。
「夢物語だ…」
「そっか、それならしょうがないね」
「信用させてくれ」
「私はもう信用させる為に動かない」
「っ……なぜだ、なぜ、」
「信じて欲しかったな、私のことを」
「………無理だ」
「そっかぁ…」
立ち上がり大木に手をついた。
そして力いっぱい、神の力を込めた。
バキッッ!!
「皇帝陛下!」
大木が折れた。
向こう側にドシンッという音を立てて、
崩れた。
「証明はなかったことに」
歩き出した私の耳に小さな声が聞こえた気がした。
「すまぬ………」
歩みは止めなかった。
あれからどれほど日にちが経ったかは分からない。
コンラッドの悲痛な声も頭から消えた頃、私は魔法陣の構築をしていた。
世界と私の契約を成就させる為に。
眷属にして永遠の命を授ける為に。
「呼ばれております」
「ん?」
「庭園にて集まっておりますので準備を」
「好きにして」
魔法陣の構築が思ったほど進まない。
まず「眷属」という仕組みを一から考えなければならない。
最初から理解している力ではなく、理論的に組み立てなければならないのが厄介だ。
私の魂と交わるように、分け与えるような陣を組み立てる。
部屋一面に広げた紙に魔法陣を描いていくが手が止まる。
「そこ立たないで」
「…失礼いたしました」
魔法陣を世界に敷き詰めて余すことのないよう、契約を。
眷属なのだから繋がりが必要だ。
強固とする為に血で描いた方がいいかもしれない。
「ヒクッ……預言者様……」
「ん?」
「も、問題ございませんか?」
「ないよ」
紙を新しくして筆に手首から流した血で描いていく。
うん、こっちの方がいいかも。
それなら契約の印を散らばして…
「そ、袖を通してください」
ああ、ドレスか。
今は邪魔なんだけどな…
しょうがない、血を止めるか。
散らばした契約に出来れば私の魂を削ったモノを入れたいんだけど…魂を削るなんて無理だ。
魂を消滅する方法は存在する。
けれど、私の魂は消滅しない。
実験したことがあるけれど、私の魂は取り出そうとしても取り出せないんだ。
「参りましょう」
手を止めて久しぶりに部屋から出ると久しぶりの目線がいくつもあった。
訝しげに私を見る人たちはきっとまたなにか私の言動を嘘だと思っているんだろう。
ああ、そんなことより魔法陣だ。
描けはしないけど、構築することは頭の中でもできる。
これが失敗すればまた一から考えなければならない。
だから早く完成させなければ。




