12
案内された椅子に座った私はグラスを渡された。
一口飲んでみると美味しくない酒だった。
空間収納から取り出して酒を飲んでいると誰かが来ては挨拶をしていく。
夜会というのはこんなにも退屈なんだと思いながら酒を煽っているとコンラッドが現れた。
「嫌だとは思うがダンスをしてくれぬか」
「いいよ」
少しは気分転換になるだろうと立ち上がると驚きの表情をされた。
「…そうか」
夜会の真ん中まで歩くと手を差し出される。
さっきのぬくもりを思い出してなぜか躊躇してしまう手を重ねた。
音楽が鳴る。
どうやらゆっくりとした曲調らしいから激しく踊ることはないだろう。
コンラッドのもう片方の手が私の腰に回り、ゆっくりと足を動かし始めた。
動きを倣い、私も似たようなステップを踏んだ。
「慣れておるな」
「ダンス?」
「ああ」
「我が子とよくしてるから」
「…シェフィールドか」
「ううん」
我が子たちはいつだって突然踊り出す。
勇気を出して手を差し出してくれる子に喜んで踊ってた。
「子が他にもいると?」
「私がなにか言ってもどうせ信じないでしょう?」
「っ……」
もういいんだ。
信じてもらわなくて。
信じたくもない。
「立場上、謝罪はできん」
「謝って欲しいことなんかないよ」
「…せめて償わせてほしいと思ったんだがな」
「コンラッドがしたいだけでしょう?」
「……その通りだな」
ステップは単調で覚えやすい。
「部屋は気に入らなかったか」
「気に入ると思ったの?」
「そうであったらいいと思っただけだ」
手は変わらず熱い。
「……嫌われたな」
「そんなことないよ。なんとも思ってない」
「……そう……そうか」
あまりにも寂しげな声を出すから気になって顔を上げようとして、やめた。
「なぜお前なんだろうな」
ぽつりと、誰に聞かせる訳でもない小さな声。
「花を咲かせるなど出来なければ良かった」
また無下にされたと感じた。
「お前がなにも出来なければ我が──」
「子の為にしたことがそんなにいけないことなの?」
「…また傷付けたな」
「花畑を見たいという小さな願いすらも叶えてはいけなかったの?」
「大きなことだ」
見上げると困った顔をしていた。
私はきっとなんの表情も浮かべてないだろう。
「大きなことなんだ……大きすぎる……」
胸を押した。
軽く。
だけど大きく一歩、下がっていった。
「大切な気持ちを全て、否定するのね」
気分転換にならなかったダンスは私から終えた。
席に戻ろうと歩いていると声が聞こえた。
誰かの小さな声が。
「嘘偽りの預言者が」
きっと信じてもらえると思っているから駄目なんだ。
気持ちを変えよう。
私には我が子達が全て。
その根源を忘れず、胸に置いておこう。
夜会はその後も長く続いた。
私は変わらず世界の消滅、精霊の消滅について考えていた。
自由気ままな毎日を過ごしている。
酒を取り上げる子もいなければ、気にかける人もいない。
あれからコンラッドが来ることもない。
きちんとつまみを食べているから。
怒っているなどと勘違いはしていないんだろう。
今の私は睡魔と戦っている。
世界を生み出してみた。
寿命のない世界を。
だけどやはり寿命があった。
失敗した世界はいつか消滅を嫌がる子の為に取っておいてある。
でも、世界を創造してしまう、または世界が勝手に創られてしまうと強烈な睡魔に襲われる。
今までは抗うことなく眠っていた。
それこそ何千年も。
だけれど今は眠れない。
だから睡魔に抗っている。
魔力も上手く練れない。
力の使い方も拙くなった。
世界を生み出すこの肉体はこんな不具合があったのかと驚いている。
でも特に問題はない。
魔力を上手く練れなくとも、魔法は使える。
発動までに時間がかかるだけ。
力も、睡魔もどうにかできる。
だから思考を止めてはいけない。
一度、寿命について考えるのはやめよう。
精霊のカケラについて考えよう。
魂の代わりにある、あのカケラ。
鉱石みたく輝いているあのカケラこそが精霊にとっての魂だ。
カケラを保存することは叶わないのか。
新たな世界に連れ出すことは出来ないのか。
ガシャン!
ああ、またグラスを落とした。
これで何度目だろう。
新しいグラスを取り出し新たな酒を入れ、また考える。
精霊に魂を入れ込んでみる?
その結果が分からなければ駄目だ。
消滅を望む精霊がいない。
他の世界にも声を届け、消滅を望む者がいないか聞いてみたけれどいなかった。
結果が分からない実験はできないんだ。
堂々巡りだな。
「預言者様、どちらに」
立ち上がり扉前まで歩くと誰かに声をかけられた。
「少し歩く、考えが纏まらない」
「かしこまりました。庭園にご案内します」
女の後ろを歩きながら考えていると男の声がした。
「これはこれは、預言者様」
顔を上げると堅苦しい服装の男が居た。
「表に出られるのは珍しいですな」
値踏みするような視線を感じる。
「神様とお話でもされていたのですか?」
くすくすと笑い声が落とされる。
「いやはや、お声が聞こえてくるなど大変でしょう。他の者には伝わらない声を聞くというのはどのような感覚なのですか?ああ、それも伝えづらいでしょうね。なにせ預言者様にしか届かないのですから」
私の声が宙に浮いている気がするとこの前思った。
それと同時のこの男の声も浮いていると思った。
「世界の消滅とはまた大きくでましたなぁ…。もし気を引きたいのならティアラでも所望すればよろしいかと。なに、ちょっとした助言ですよ」
この場所はきっと誰の声も届かないんだろう。
「これからが楽しみで仕方ありませんよ。貴方様がどのように振舞うのかが」
そう言い、背を向けて去っていく男はまたくすくすと笑っている。
男から視線を外して女の背を見て、また歩き出す。
庭園に出るまでいくつかの視線を感じたけれど、気にせず世界の寿命があとどれくらいかを探っていた。
「あちらの庭園が今は人気ですよ」
「大木の場所に行きたい」
「許可は出ておりますから参りましょう」
大木の場所まで行くと、ガゼボには紅茶がセットされていた。
似つかわない食事も。
ガゼボを通過して大木に背を預けるように座った。
ああ、やっぱり気持ちがいい。
時折、葉の揺れで日の光が漏れている。
涼やかな空気に、花の香り。
眠ってしまえばさぞ、気持ちがいいだろう。
「しばらくここにいる」
「かしこまりました」
久しぶりに気分転換が出来た。




