第6話 レインとシエルの買い物
新しく家族としてディアさんとスピンさんをお迎えしました。
最初は全く落ち着きがありませんでしたが。家族の証である『契約の首輪』を装着してあげたお陰で素直な良い子達に早変わりしました。
やはりアリシアお義母様の教えである〖相手の生殺与奪を握ればどんな事でも言うこと聞いてくれるのよ〗を実行して本当に良かったです。
「キュイイイイ!!キュルルル!!(人型に戻れぬ!!人語が喋れぬのだ。レイン!)」
「ニャニャニャニャンニャンニャン!!(気づくのニャア!シエルはヤバい奴なのニャア。レイン)」
「おお! ヨシヨシ。ディアもスピンも元気だな。何を言ってるのか全然伝わって来ないが。俺達が帰って来るまで大人しく待っているんだぞ」
……少し破邪魔法での行動の制約を強くし過ぎてしまいましたね。後で調整してあげましょう。
「じゃあ。買い出しに行ってくるよ。新しい皿を」
「そうそう。家にはもうお皿が1枚も無いからなるべく沢山買ってきてちょうだいね」
アリシアお義母様は表情はとても笑顔ですが目が全然笑っていません。
その原因は私がお皿をパリンパリン割ったせいなのですが……
「……それでは行って参ります。アリシアお義母様」
「シエルちゃん。ちょっと良いかしら?」
お義母様が私に向かって手招きされてますがやはり怒られるみたいですね。
当たり前なのですが聖女としての修行期間中1度も怒られた事がありませんので緊張します。
「……はい。アリシアお義母様。お皿を全部割ってしまった本当に申し訳ありません。全て弁償します」
「そんなのエリシア聖教からの経費で落とすから気にしなくて良いわよ。それよりもレイン君との二人っきりのデートなんだから楽しんで来るのよ。わが弟子よ」
「……………レイン様とのデート? いえ。アリシアお義母様。これはただの買い出しで…」
パチンッ!
「……痛いです。何で私のおでこにデコピンなさるのですか。お師匠様」
「良く聞きなさい。私の愛弟子よ。レイン君はド天然の女たらしよ。城下町に出れば見知らぬ女の子と仲良くなっちゃうの。惚れさせちゃうのよ! その意味が分かるかしら?」
「……いえ。全く分かりません」
「貴女の恋のライバルがどんどん増えていくって事よ。シエル」
「私の恋のライバルですか? ですが私とレイン様はもう同棲していますので……ゴニョゴニョ」
私は照れくさくなってしまい。家の床をじっと見つめて心を落ち着かせようと試みました。
「アッシュクラフト家の血は『幸運』を呼び込む希少なモノのよ。多種族の女の子達はそれを嗅ぎ付けて迫って来るの。シエル……だから本気でレイン君と夫婦になりたいな頑張りなさい。貴女の未来の為にもね」
「……アリシアお義母様?」
◇
────なんて事を家を出る前に言われましたが。アリシアお義母様のあの言葉はいったい何だったのでしょうか?
《王都 城下町》
「キャルドシードの粉はいかが? パンと一緒に焼けば香ばしさと爽やかな匂いが同時に……」
「魔討祭がもうすぐ始まるよ。お祝いだ! お祝い!」
「『暁の師団』によるルルサ劇場を貸し切っての劇が今夜にでも……」
「相変わらず。城下町は栄えているな。シエル」
「………はい。レイン様」
「元気がないな。さっきは母さんと真剣な話をしていた様だが何か言われたり。怒られたりしたのか?」
「……いえ。怒られてはいません。アリシアお義母様はお優しいお方ですので」
「家の母さんがお優しいお方? あのスパルタ母がか?」
────アッシュクラフト家。かつてテレンシア王国の四大貴族の一つに数えられた公爵の地位を持つ名家です。
レイン様はその本家の血筋にあたるお方ですが。レイン様のお父様である『踏破』のスルト様により貴族爵位をテレンシア王国に返還なされたとか。
噂では国の政争でアッシュクラフト家が負けた。
私の聖女見習い時のお師匠様。アリシア様と結婚する為に貴族としての地位や名誉も捨てて、添い遂げたなんて事もお聴きしましたが。
本当の事は良く知りません。
ただアッシュクラフト家の血筋には『幸運』という力があるとの事です。
『幸運』はあらゆる天命や運命を決める際、全てが上手く好転するという力だと伝承には載っていました。
その『幸運』の力を自身の遺伝子に残す為にあらゆる種族の女性達が迫って来るとアリシアお義母様は言いたいのですね。
……魔竜討伐で完全に目覚めたのでしょうか? だから私をレイン様の近くに……いえ。レイン様と共に過ごしたいと思ったのは私の本心からの気持ちです。
「……この気持ちに嘘偽りはありません」
「ビュルキの磁器皿はどうだい?」
「……はい?」
「おや? 聞いてなかったのかい?」
恰幅の良いお爺さんが私に向かってお皿を見せていました。
どうやらいつの間にか食器屋さんへと来ていたみたいですね。気づきませんでした……私に掛かっている守護のせいでしょうか?
「木製の皿が良いかな。割れても大丈夫なやつが」
「木製? 皿でかい?……ならスライドの樹木で出来た皿ならあるか。少し待っててくれ。レイン坊」
「あぁ、頼むよ。ギリンさん……やっぱり少し元気がないな。シエル」
「……い、いえ。少し考えて事をしていただけですのでお構い無くです」
レイン様は私の顔をジーッと見つめて……
「皿の買い出しが終わったら少し他の店も見て回ろうか。久しぶりに君と二人っきりで過ごしたいしな」
レイン様は少し照れくさそうにそう告げるとそっぽを向いてしまいました。
「……それってつまりデートという事ですね。レイン様。私嬉しいですわ。ありがとうございます」
私はレイン様の両手を掴んで感謝の気持ちを伝えるのでした。




