第5話 私達は家族になるんです
「……全く。レイン様は本当に全く! 新妻である私にお隠れになって昔の女の子達と遊んでいるんなんて本当に全くです」
スルッ……ガチャンッ!
「シエルちゃん~! これで家にあるお皿を割るのは何枚目なのかしら~? もしかしてシエルちゃんってあの時から家事力ゼロのままなのかしら~?」
「……ハワワ!! も、申し訳ありません。アリシアお義母様。以後、気をつけますので……あっ!」
スルッ……ガチャンッ!
「シエルちゃん~? わざと? わざとやっているのかしら?」
「……ハワワ!! ごめんなさい。アイリスお師匠様~、頬っぺたをツラヘナイデくだしゃい~」
キッチンの方では朝食の片付け中の様で母さんとシエルが皿洗いをしているが。たびたび皿が割れる音が1枚、2枚、3枚と増えていく。
ワコークとか言う極東の国の絵物語に番長更屋敷と言う怖い話が存在するとかいうが、それに似ているな。
「何じゃあ。あの皿破壊聖女は? 昨日も相当数の皿を割っておったではないのか? あれではそのうち家の皿が全部割られてしまうのう。レイン」
リトルドラゴンから可愛いらしい黒髪の少女へと姿を変えたディアが、シエルと母さんのやり取りを眺めている。
「いや、シエルが家事が出来ないのは当然だろう。聖女なんだからな」
「……それ何の説明にもなっておらんぞ。うぅ~、駄目じゃ見ておれん。ちょっと妾も手伝って来るぞ」
「ニャア~! スピンめなら手伝うのニャア~、この家の家事は昔から手伝っていたから得意なのニャン」
ディアが亞空間から可愛いらしいエプロンを取り出し装着しながらキッチンへと向かう。
そして、母さんとシエルの話より発覚した聖獣様こと、家で長年飼っていたスピンも立ち上がるとディアに着いていく様にキッチンへと歩き出した。
「母上殿。妾も手伝う故、そこの椅子に座りゆっくりしていて下され。妾はそこの家事ポンコツ聖女と違い家事は得意なのでな」
「ウニャニャア~、お茶入れたからゆっくりしてるのニャア。アイリスママ」
「へ? あ、ありがとう~、あれ? この達。家事力凄いんだけど? 良物件なのかしら?」
ディアとスピンはキッチンに立つと。テキパキと割れた皿の山を片付け、掃除を終わらせていく。
「……ちょっ! ちょっと待って下さい。貴女達は先程、破邪魔法で強力な拘束していた筈なのに何で自由に動けるんですか?」
「妾は魔竜ぞ。時間をかければなんとか抜け出せるわい」
「ニャア~、何か力を入れたら抜け出せたニャア~」
……そ、そんな! 私の破邪魔法がこんなにあっさりと解かれるなんて。これではレイン様のお側に居られません」
シエルがなぜか不安そうな表情で俺を見つめている。
「修行がまだまだ足りてない証拠ね。シエルちゃん。それよりも貴女達。ディアちゃんと……スピンちゃんは家でずっと飼っていた子猫ちゃんだったよね。良いわね。貴女達! 凄く良いわ」
「ムゴォ? レインの母上殿?」「ウニャア? 苦しいのニャア」
母さんは嬉しそうにディアとスピンにいきなり抱き締めた。
「……アリシアお義母様? 何を言っておられるのですか?」
「シエルちゃん。私決めたわ。この家で家事が凄く出来るこの娘達を飼ってあげる事を」
「なぬ? 本当かえ? 母上殿」
「ニャア~、また家族になれるのかニャア? 嬉しいニャア~!」
「……はい? 魔竜さんと聖獣様を飼うですか? それは何故ですか? アリシアお義母様」
「うん。家事力ゼロのシエルちゃんに色々と覚えてもらう為に住んでもらいましょう! そうすればこれ以上はアッシュクラフト家の物が壊れないで済むしね」
「……そ、そんな! それでは駄目です。それでは……それではレイン様と二人っきりの甘々新婚生活が送れません!」
ディアとスピンが騒いでいるせいでシエルが何を言ったのか上手く聴き取れなかったが。
なぜかシエルは焦って母さんの服を掴んでいる。
「シエルちゃん。私最初に言ったわよね。ちゃんと色々な事を1人前にこなしてこそ聖女だって。忘れちゃたのかしら?」
「……い、いえ! アリシアお師匠様。お、覚えています。殿方と協力し家庭円満に過ごすには家事もこなせてこそです」
「そうそう……それがシエルちゃんはまだまだ出来ていないわよね?」
母さんとシエルはお互い見つめ合ったまま数秒の間が経った。
「……だからこのペットなお二人から家事を学べという事ですか?」
「フッ……やっと理解してくれたのね。私の大切な愛弟子ちゃんは」
「……アリシアお師匠様。私の為にそこまで考えて下さるなんて。つっ!……お師匠様!」
「シエルちゃん!」
「グエッ?!」「ギニャン?!」
母さんとシエルは勢い良くお互いの身体を抱き締め合った。
ガバッとだ。師と弟子の感動的な包容の間に挟まれ断末魔の叫びを漏らしたのは、ディアとスピンだった。
「……あっ! そうでした。ペットなお二人に私の自己紹介がまだでしたね。私はレイン様の未来の妻、シエル・バレンタインです。以後、よろしくお願いいたします」
「竜族のディア・クリティヌスじゃ……レインの妻? 母上殿。このアホは何を言っているのだ?」
「ウニャア~、スピン・ネフィルムだニャア~、よろしくニャア。シエルママ」
シエルの発言にディアは難色を示し、スピンは尻尾を振りながらシエルに身体をスリスリしている。
「……それとペットなお二人にはこちらをおはめしますね。家族の証です」
ガチャッ!ガチャッ!
「なぬ?」「ニャヌ?」
「あら? それって確か……」
シエルはディアとスピンの首元に何かの首輪を装着した。
「……フゥー、これで私とペットなお二人は大切な家族になりましたね。末永くよろしくお願いいたします」
「……シエル・バレンタイン。お主! これは……」
「ニャア~! 黒くて綺麗な首輪だニャア~、ありがとうニャア~! シエル」
ディアは戦慄した表情を浮かべ。スピンは首輪を付けられて喜んでいる。
「それ確か『契約の首輪』よね? 付けてもらった人に逆らえば首チョンパする。拷問器具の」
「……はい。これでディアさんとスピンさんは私に絶対服従してくれる様になりました。大切な家族です」
「アホがぁ! 奴隷が大切な家族なわけあるか…………キュイイ?」
「ウニャニャア? スピン達を騙したのかニャ……ウニャア?」
『契約の首輪』を付けられた二人が騒ぎ始めるとディアは再びリトルドラゴンに、スピンは子猫の状態に戻ってしまった。
「あらあら上手いわね。まさか破邪魔法と『契約の首輪』の能力を掛け合わせて、人型と獣型の強制オンオフをさせるなんて、流石、私のお弟子ちゃんね……もうしばらく私もこの家にいようかしら」
「……ありがとうございます。アリシアお義母様……それではペットなお二人のディアさん。スピンさん。これからの共同生活。よろしくお願いいたしますね」
「キャイイイイ!! キュイイ!!(ふざけるでないわ! 妾を元に戻せ! レイン助けよ~!)」
「フニャフニャニャニャニャニャア!!(スピン達。奴隷になったのニャア! 助けてニャア! レイン)」
ディアとスピンが俺の方を見つめて何かを訴えているが、人語ではないので何を言っているのか分からなかった。
「何か上手く話がまとまったみたいだな。良かった良かった。しかし、ディアとスピンは俺の方を見て何をあんなに必死なんだ? 相変わらず面白い奴等だな」
そして、俺は二人の心からの叫びに気づかずにキッチンのやり取りをボーッと眺めていた。




