日野御殿
翌日、康子は新三郎を連れて西園寺御所を出た。
いつも通り、西園寺御門を通らずに車は檜皮葺の御殿の続く街並みを進んだ。
「どこに行くんですか?」
「道場よ」
車いすのまま車に乗っている新三郎は不思議そうにあたりの荘厳な街並みを眺めていた。
「でも、姉さんは強いですよね……」
遠慮がちに新三郎はそう尋ねた。康子の雰囲気には武人として知られたあの西園寺孝基のそれとどこか似たものがあった。
「そうかしらね……でも素質では新ちゃんの方が上のような気が……まあいいわ、強いということにしておいて」
いつも通りの読めない笑みを浮かべる康子に新三郎はどう返せばいいのか分からなかった。
「もうすぐよ」
そう言って窓の外を見やる康子につられて新三郎は外の街並みに目をやった。
甲武の赤い空の下、大きな門の前で車は停まった。
「ここは日野屋敷と呼ばれてるわ……西園寺家の別邸みたいなものよ」
門が開かれるのを見ながら康子はまた少し含みのあるような笑みを浮かべる。
新三郎は自分によくしてくれてはいるものの、康子の何かを隠しているような笑顔にどうしても気を許すことができなかった。
車はそのまま門の前の御殿ではなくその隣の寺を思わせるような伽藍の前に停まった。
「それじゃあ……車いすから降りて頂戴ね」
康子の言葉に新三郎はムキになって立ち上がろうとした。
半年の座敷牢の生活は新三郎の足腰の力を萎えさせるのに十分な時間だった。
新三郎はゆっくりと立ち上がり、静かに伽藍の階段を一段一段静かに上った。




