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廃帝ハド

「『廃帝ハド』……97年前に遼帝国に君臨したという悪逆非道の帝……死んだはずでは?」


 新三郎はそう言って康子を見つめた。


「いいえ、生きているわ……と言うか、あの方は死なないもの……私達と同じ」


「私達と?」


 あまりの唐突な言葉に新三郎は戸惑った。


「聞かされていないのね……まあ、私も姉さんのことが無ければ知らなかったけど……新ちゃん、貴方は『不死の法術師』なのよ」


「そんな……おとぎ話じゃあるまいし」


 車いすの上で新三郎はからからと笑った。しかし、康子の顔に笑いが伝染しないことから、それが真実らしいことを察した。


「新ちゃんは怪我をしたことが無いわよね……そうすれば分かるわよ。すぐに傷口がふさがって治ってしまう。私もそう……そして『廃帝ハド』も……」


 新三郎の顔から乾いた笑みが消えた。


 そして新三郎は98年前まで鎖国をしていた故国のありさまを想像した。


 400年ほど前、地球人に『発見』され、その後50年かけて独立した遼帝国は独立後すぐに鎖国をした。


 科学技術を持たない遼帝国が地球列強から身を守るため、太宗遼薫が取った措置だが、その鎖国が98年前不意に解かれることになった。


 そこには荒れ果てた国土と三分の一に減った貧しい国民だけが残る悪夢の国が広がっていた。


 すべてはその名を遼俊と言う第18代皇帝の非道とその為の戦いの後だったと新三郎は記憶していた。


「太宗遼薫以降、『法術師』の皇帝は生まれなかった……でも遼俊は『法術師』だった」


「知っています。15歳で玉座に付くと穏やかな治世を行っていたが、その治世が行き渡ったのを知ると、突然人が変わったように苛烈な政策を取り始め、いさめる家臣達を容赦なく殺した……その男が『不死の法術師』なんですか……」


「そう、遼俊こと、ハドは悪逆の限りを尽くし民衆を虐げたため、さるお方の力によって封じられた……」


「さるお方?」


「太宗遼薫、その人よ」


 康子の言った言葉の意味がいまいちつかめないというように新三郎は眉をひそめた。


「太宗遼薫はハドを封じて遼帝国を去った。でも、ハドは何者かによって復活したの……」


「そのために……俺が必要なんですね。ハドを封じるために……」


 新三郎はそう言って康子の顔を見上げた。

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