芸の守護者
そのまま場に食膳が並べられた。薄汚い身なりの男達が不慣れな調子で膳を運ぶのを遼献は不思議そうに眺めた。
「遼献ちゃん……食客を見るのは初めて?」
「食客?」
康子の言葉に遼献は首をかしげてそう尋ねた。
「西園寺家は文化の守護者や!かつて中国の春秋時代の孟嘗君の故事に倣って『芸人』を養うとんねん!そないなことも知らんのか!」
ひときわ大きいどんぶりを振り上げてそう叫ぶのが忠満だった。
「うちの身の回りの世話は食えない芸人がやってるんだ」
「芸人ですか……」
義基の言葉に遼献はただわけもわからずうなづくしかなかった。
「人間何かしら芸がある方が良いって三代目の西園寺家の当主が始めたそうだが……それが今ではすっかり家風になってな……太鼓持ち、落語家、役者、歌手……この御所の敷地だけで5千人を超える芸人が暮らしとる」
「5千人!」
当主の重基の言葉に遼献は驚きの声を発した。
「おかげでうちの家計はいつだって火の車。領地からの収入も義基さんの外務省の給料も全部芸人に使っちゃうんだもの……」
「なあに、連中もいつかは俺に借りを返してくれるだろう」
康子の愚痴を義基は一笑に付した。
「じゃあ、俺を助けたのも……」
遼献はそう言って康子を見上げた。
「それは……とりあえず冷めないうちに食べないと」
康子ははぐらかすようにそう言った。遼献は仕方なく箸を進めるほかになかった。




