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『御所』の中の小さなお家

 甲武国、帝都の郊外にその『西園寺御所』と呼ばれる場所があった。


 茶道、能、書の家元の屋敷が立ち並ぶ落ち着いた街並みを遼献は珍しそうに眺めた。


「ここで……余は……俺は暮らすんだな」


 かつての気弱な少年皇帝の姿はそこには無かった。


 半年にわたる座敷牢の中での暮らしで立つこともままならない彼はすでに何かを悟りきったような様子で目の前の康子を見つめていた。


「違うわよ……ここは西園寺家の他所向きの顔だもの。私だって史跡に指定されてる『西園寺御門』なんか使わないわよ」


 巨大な門の前を車は素通りしていく。


「どこから屋敷に入るんです?」


「あれは屋敷なんてもんじゃないわよ。普通のお家よ」


「普通のお家?」


 康子の言うことが分からず、遼献はただ当惑していた。


 『西園寺御門』を通過してしばらく大通りを進むと、いかにもあとで取ってつけたような入り口が白壁の中に突然現れた。


 車はそのまま中に乗りつける。


「ここが、遼献ちゃんの新しいお家」


 止まった車から降りた康子はそう言って木造二階建ての庶民的な家の前に降り立った。


「ずいぶんと……安普請で……」


「何か言ったかしら?遼献ちゃん」


「いいえ!」


 康子が放つ殺気に気おされるようにして遼献は康子に続いて二階建ての木造家屋の玄関に向かった。

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