屈辱の秘曲
遼献は央都に連れてこられた。
宮殿の奥深くの座敷牢に閉じ込められた彼は与えられた新聞を読む程度の娯楽しか許されなかった。
元々運動らしい運動をしたことが無い遼献にとってはそのこと自体は不服では無かった。
ある日、遼献を呼ぶものの姿があった。
「遼献様、こちらへ」
父の近習と思われる役人が彼を座敷牢から外に連れ出した。
「余は……何をすれば?」
尋ねる遼献を無視して近習達は遼献を央都宮殿の一室に導いた。
「ゴンザレス……」
その宮殿の客室の上座にふんぞり返る太った男の姿を見て遼献の目は鋭さを増した。
さらにその上座には御簾が下げられ、その向こうに人の気配がした。
「父上……」
遼献にとって父と面会するのはこれが初めてのことだった。御簾の向こうからは時々女のふざけあうような声が聞こえる。
「遼献殿下……ご尊顔を拝しまして恐悦至極に存じます」
ガルシア・ゴンザレスはそう言って満面の笑みで遼献を見つめた。
遼献はそのまま琵琶の置かれた下座の土間に無理やり座らされる形となった。
『これが……余の今の扱いと言うわけか……』
少年皇帝の胸に去来するのは悲しみでも怒りでもなく諦めだった。
ゴンザレスに言われるまでも無く、遼献は琵琶を手に取ると静かに調律を始めた。
「さすがに幼くして帝王の器と無き武帝が見込んだお方だ……察しが良い」
そう言ってゴンザレスが笑うとその陪臣達もそれぞれささやきあうような笑みを浮かべた。
「何を弾けばよろしいのでしょう、父上」
「父ではない……霊帝陛下と呼べ」
御簾の向こうから甲高い声が響いた。
その神経質そうな響きの声に遼献は嫌な顔をすると軽く遼帝国に伝わる神話の歌のさわりを弾き始めた。
『これで……余は終わったな』
口を真一文字に結んで遼献はただ、御簾の向こう側の父を想像しながら秘曲の一小節を弾き終えるとそのまま静かに琵琶を置いた。
「献殿下……続きは?」
ゴンザレスの笑みに遼献は笑顔を向ける。
「続きを聞きたければ余を殺さないことだな」
そう言うと遼献は立ち上がり、近習に連れられて客室を後にした。




