最前線
どやどやと入り込んできた闖入者に最前線の指揮所は混乱していた。
「何が起きたんだ?」
椅子にどっかりと腰を下ろしていたオーギュスト・ブルゴーニュ将軍は眉をひそめながらその一団を眺めていたが、その中にでっぷりと太った姿が特徴的なガルシア・ゴンザレス将軍の姿を見ると不意に表情を曇らせながら立ち上がった。
「閣下、なぜ最前線に?」
自分の取り巻きの南都軍閥の幹部連が明らかな敵意を持ってゴンザレス将軍を取り巻く央都軍閥の幹部連を眺めているさまに少しばかり慌てながらオーギュストはそう口を開いた。
「なあに、こちらも紅籐太に礼を尽くそうと思ってな……決戦にワシが欠けては面白みも失せるだろ?」
手にした葉巻をゆっくりと燻らせながらゴンザレス将軍は呟いた。その煙に眉をひそめながらオーギュストは苦笑いを浮かべる。
「恐らく一両日中には敵の総攻撃が始まると思われます……閣下におかれましては……」
「だからここにいるのだよ。この首に紅籐太が届くかどうか……見届けてやるためにな」
「そんな……閣下は遼南にとってかけがえのない……」
「ブルゴーニュ公。心にもないことは言わないほうがいい」
ゴンザレス将軍の切って落とすような一言に央都軍閥幹部達から失笑が漏れ聞こえた。オーギュストはそれでも不服だというように最前線の様子を映し出しているモニターに目をやりながら満足げに頷いている。
「さすがですな。隙がない……ただそれゆえに捨て身の一撃には脆そうだ」
部隊配置を上空から映した画面を見るとゴンザレス将軍は難しい表情を浮かべた。
「本当に西園寺孝基は動くのでしょうか?」
「動くな……ワシが紅籐太なら今しか動くべきタイミングを知らない」
断言するようにゴンザレス将軍は呟く。
「それにその為にワシは動いたのだからな」
思わせぶりなゴンザレス将軍の言葉にオーギュストは苦笑いを浮かべた。
「それにしてもお気に入りの傭兵……吉田とか言いましたか……同行していないんですな」
「奴は別働隊を指揮するということで動いている……ラスコーの坊やが逃げ出さないようにな」
ゴンザレス将軍の言葉に一瞬オーギュストは安堵の表情を浮かべた。
「その顔はなんだね……遼献が生き残るのを歓迎しているような……」
「そ、そんなつもりはありません。ただ……子供一人に別働隊を動かすほどでは……」
「貴公がそういう顔をするから別働隊を動かしたんだよ。遼献が生きている限りワシは枕を高くして眠れないからな」
ゴンザレス将軍の言葉に心の奥を見透かされたたと言う様にオーギュストは黙り込んだ。
「それにしても……貴公のご自慢の息子は相変わらずワシが嫌いと見えるな……決戦を前にして本国へ立ち戻るとは……」
「あいつには厳しく言っておきます」
「厳しく言って聞く相手か?まあ良い」
そう言うとそのままゴンザレス将軍は身を翻した。
「貴公の戦いぶり……楽しみに見させてもらうよ」
「承知しました。ご安心ください。必ず紅籐太を討ち取ってご覧に入れます」
オーギュストはそのまま満足げに頷きながら去っていくゴンザレス将軍を居た堪れない表情で見送っていた。




