形見の品
「しかし……本当に余が逃げてもいいのか?」
遼献の問いに孝基は静かに頷いた。
「その方が我々は安心できます。それに陛下に生きていて頂ければ我々に負けはないのです……」
「負けがない?」
孝基の言葉が理解できないというようにラスコーはその言葉を反芻した。
「そうです。陛下がいつか本当にこの遼南の主となる日がいつかくる。それを信じることができますから」
「いつか……そんなことがあるものだろうか」
ぼんやりと遼献が呟いた。孝基は満足げに頷く。
「これから遼州は荒れます。外惑星星系のゲルパルト、第四惑星の胡州、東の東和、西の西モスレム、北の遼北。どこも野心でギラギラしている。それに地球の勢力が加われば戦乱がやってくるのもむべなるかなというところでしょう」
「戦乱……これだけで済むわけでは無いという話か?」
「そうです。今の遼南の動乱は本格的な戦乱の序章に過ぎない。本当の戦乱はあと三十年……いや十年もすればやってくる」
「預言者じみた話だな」
「俺は合理主義者ですよ。預言者じゃない」
孝基は照れたように頭を掻いた。
「本当の戦乱……」
遼献は少しばかり混乱しながらこれからのことについて考えていた。
「それとこれを」
そう言うと孝基は腰に帯びた大刀をラスコーに手渡した。
「これは?」
不思議そうに重い大刀を握り締めラスコーは孝基を見返した。
「同田貫国正……西園寺の家から持ち出した家宝の剣だ。すまないがこれを父上に返してくれ」
「余が……私がですか?」
遼献の顔を見ながら孝基はにやりと笑った。
「そうだ。遼南脱出後は我が父西園寺重基を頼れ……伯父からの手向けだ」
「重基公……とはどんな方ですか?」
静かに呟く遼献の顔に孝基は手を伸ばした。その頬をさすりながら孝基は話を続ける。
「ただの気のいい爺さんだよ。俺の若い頃は結構切れ者で通っていたからな……俺のやりたいことで何度もやりあったこともあるが……もう昔の話だ」
「伯父上……今なら間に合います。余を差し出して領民の命を救ってください」
突然切り出された遼献の言葉に一瞬戸惑った表情を浮かべるが、孝基は静かに首を横に振った。
「それは出来ない……兼州が宇宙の笑いものになる……」
「支配者の論理じゃないですかそれは!領民のためを思えば……」
「もうそう言う次元の話じゃないんだ。陛下が最初に央都に屈することを拒否した時からこの状況は用意されていたんだ」
「そうですか……」
遼献は唇を噛みながら足元に視線を落とした。




