敗色
離宮の奥深く、避難壕として作られた部屋の中に遼献は西園寺孝基に呼び出されてたどり着いた。
部屋の中央で難しい顔をして立ち尽くしている孝基の方を見ながら遼献はそのまま彼に向けて歩み寄った。
「人払いを」
静かに感情を押し殺した調子で孝基がつぶやいたのを見て遼献は付いてきた侍女達に目で合図をする。侍女達は不審そうに孝基をみやりながら部屋を出て行った。
「陛下……」
孝基は相変わらず難しい表情をしたままでラスコーを見つめる。ラスコーもまた孝基が切り出そうとしている話がかなりの重要性を帯びていることを悟って黙り込んだ。
「陛下には作戦開始前に落ち延びていただきます」
はっきりと一語一句切り離して見せるようにして孝基は話し始めた。
「落ち延びる……」
「そうです。落ち延びていただきます」
「それではまるで次の決戦で我が方が負けるとでも言うみたいじゃないですか」
「負けます……まず負けます」
将としてそれだけは口にするまいと誓っていた言葉を口にしたことで孝基の表情は歪んだ。
「それならなぜ……」
「陛下は我々に死に場所を用意して頂いた。その恩は報われねばなりません。我々は死力を尽くします。そして恐らくはその行為は無駄に終わる……」
孝基は表情を殺した顔をして遼献に視線を投げた。
「では何のために戦われるのです?伯父上は」
問いかける遼献に不意に孝基は笑みを浮かべた。
「矜持と言うものです。正しいと思ったものがそのまま世に通じるかどうか試してみたくなった……そんなものです」
「そんなもののために命を……」
「陛下も今の今まで戦うつもりでいるのは私と同じ気持ちがあるんでしょう」
そう言って孝基はにやりと笑った。
「余は……できれば誰も巻き込みたくなかった」
「でも事実として私を含めて多くの兵を巻き込んでいる……」
「それは……」
遼献は口ごもった。何も言い返せない。その事実がラスコーの目に光るものを浮かべさせた。
「陛下……あまり気にされませんよう……胡州浪人は好きでこんな負けの決まった戦いをしているのですから。カグラーヌバ家の一門も乾坤一擲の勝負に出ているのですから。あえて言えば領民が巻き込まれるのが残念だというところですかね」
「確かに領民には本当に申し訳がない。余は悪い治世者だ」
「それがわかっていればいいのです。その為にも陛下には落ち延びていただきます」
孝基の言葉に遼献はうなだれながら頷いた。




