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幼帝の決意

「父を……父上を討てと?」


 遼献は執務机について苦渋の表情を浮かべていた。


「霊帝を討てというわけではありません。帝の背後に居るゴンザレス将軍一派を討てというのです。そしてそのための即位が……」


「余は即位はしない。逆賊となるのもそれでも構わない。ただ帝は一人。それは太宗の時代からの決め事。余はそれを破るつもりにはなれない」


 遼献の言葉にカグラーヌバ・バラダ公は黙り込むしかなかった。ただその一連の話を聞いていた西園寺孝基はそのままバラダを押しのけるようにして遼献のそばに立った。


「言いたかねえが、お前さんの気持ちで俺達は戦争やってるわけじゃねえんだよ。命を張って正義を貫くつもりで戦っているんだ。それを逆賊に落ちても構わないだ?笑わせるな!」


 いつものユーモアにあふれた孝基の姿はそこにはなかった。歴戦の傭兵。天下の傾奇者の姿がそこにはあった。遼献はただ黙って俯いていた。


「ああ、そうして黙って泣いてりゃいいさ。俺達は霊帝を認めない。東宮は献殿下。そして俺達は偽物の帝と戦いを始めることになる」


「付きます……即位します」


 うつむいたまま遼献はそうつぶやいていた。


「殿下……」


「お祖父様。余は余の私欲で立つのではないのです。ただ余のために戦ってくれる人に正義を示すために立つのです」


「殿下……ご立派になられましたな」


 バラダの言葉に遼献は自然と涙が溢れていくのを感じていた。


「あれ……なんで涙が……」


「それよりもだ」


 感傷的な雰囲気を嫌ってか不機嫌そうに孝基が切り出した。


「『外憲』だな問題は」


 バスラもまたすぐに孝基の考えを読んだように呟いた。


「派手な即位式をやれば恐らくは刺客を送り込んでくる……さきの武帝とは攻守を入れ替えた形にはなるがな」


「破壊工作は『外憲』の十八番だ。何があってもおかしくない」


 孝基の複雑そうな表情を見て遼献は笑顔を取り戻した。


「即位式などいりません。今この場で即位します」


「そんな……殿下」


 慌てる様子のバスラを包み込むような笑みで遼献は頷いている。


「そもそも玉座が無いのに即位式も何もないでしょう。余が即位すると言えば即位したことになる」


「なるほど、仮初の朝廷には相応しいことかもしれませんな」


「西園寺卿まで……」


 孝基まで遼献に応えるようにしているのを見てバスラもまた唖然としながら呟いた。


「所詮戦争を有利に運ぶための段取りですから、お祖父様が心配なさることではありません」


「はあ……」


 バスラのため息に諸官もまたため息をついた。勝ち目のない戦いの先には何が待っているのか。誰もがそれを考えないようにしていただけに吹っ切れたような遼献の表情に癒される余裕すら彼らには無かった。

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