逆転の策
「陛下……」
「そうして面と向かって言われると気後れしますね」
「気後れしてどうします。もっとドーンと構えていてくださいよ」
西園寺孝基の言葉に遼献は苦笑いを浮かべた。遼献の即位によりそれまでぼんやりとしていた兼州政府の陣容がぼんやりとながら出来つつあった。
彼の後見人であるカグラーヌバ・バスラは首相的存在となり、遼献の伯父であり百戦錬磨の傭兵孝基は軍事全般を見るようになっていた。
今日も朝議では央都政府軍の動きの予測が孝基からなされているところだった。
「以上のように央都側には東モスレムという爆弾がある以上、早めの勝負を仕掛けてくると思われます」
「しかし……こちらも消耗戦となれば軍費が持ちませんぞ……何しろ国力が違いすぎる」
一人の甲武浪人の部隊長の言葉に聴衆は頷いていた。
「確かに……こちらとしても早めの決戦は必要でしょう。ただ、皆さんにその覚悟がお有りになるか……」
挑発的な孝基の言葉に議事を見ていた傍聴席から怒声が飛ぶ。
「大義は我らに有り!」
「央都のゴンザレスの私兵など恐るに足りず!」
予想通りの展開に遼献は少しばかり諦め気味に孝基の方に目をやった。静かに手を挙げ聴衆をなだめると孝基は言葉を続けた。
「皆さんのご存知のように我々には兵も金も足りない。連続して作戦行動を取る余裕はとてもない。ただ勇気だけは相手に勝つことが出来る自信がある。その一点に賭けてみたいと思いますが……」
「ついに動きますか」
バスラの言葉に孝基は静かに頷いた。
「兼州中央師団を動かします」
「中央師団を?」
バスラの戸惑いを見透かしたように孝基は笑みを浮かべた。
「三日以内に東モスレム南部でイスラム教徒による一斉蜂起が起きる」
「西モスレム軍諜報部による工作活動……」
一同は孝基の言葉に息を飲んだ。
「それに呼応して中央師団を東モスレムに向けます。央都もそれを黙って見ていることはできないでしょう」
「それでも中央の薄くなった場所に攻撃を仕掛けられるのでは?」
遼献の問いに孝基は笑みで応えた。
「その為に先に仕掛けるのです。中央には浪人師団と7機のアサルト・モジュールを投入します……もちろん俺も含めてですが」
「西園寺卿が出られる……」
そんな孝基の言葉に自然と場は盛り上がる。
「ただの一撃でゴンザレスの首を獲る……一種の賭けですがほかに方法が有るのなら教えていただきたい」
孝基は回りを見渡した。自然と拍手が起き、黙って座り込んでいたバスラもいつの間にか手を叩いていた。
「勝てるのですか?」
「勝てるのかでは無いですよ。勝つんです」
遼献の問いに冗談めかした表情で孝基は応えた。
「この賭けに勝たなければ我々には未来がない。そういう事です」
そう言うと孝基はそのまま立ち上がった。
「それでは準備がありますので俺はここで」
そのまま孝基は退席していく。遼献はどうしても腑に落ちないという表情のままその背中を見送っていた。




