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父と子

 ゆったりとしていて荘厳な管楽器をメインとする遼州音楽の響きが央都王宮に響いた。


「殿下……いえ、皇帝陛下」


 女官の言葉に遼霊は静かに頷くと歩き始めた。


 廊下には遼州各国の大使達が頭を垂れて彼を見守っていた。その間を当然のようにゆったりと音楽に合わせるようにしてカバラは歩みを進めた。


「暗君と言うが……なかなか立派なものじゃないか」


「なあに、儀式だけではわからんよ」


 大使達の陰口がカバラの耳にも届いていた。だがその度に唇を噛み締める以外の動作は取ることがなかった。


『奴らはここに遼献がいればいいと思っているのだろうな』


 遼霊はそんなことを考えながら歩みを進めていた。遺伝子が覚えていたとでも言うように歩みに迷いはなかった。その迷いのなさが逆に遼霊を不安に陥れた。


「殿下……」


 玉座の手前では首相を差し置いて一将軍に過ぎないガルシア・ゴンザレスがカバラを迎え入れようとしていた。


「ゴンザレス」


「なんでしょうかな?」


「貴公は下座のはずだが」


 自分の口から出た最大の支援者への言葉に遼霊自身が驚いていた。だが、ゴンザレス将軍はそれが当然というようにそこに立ち尽くしじっと遼霊を見つめていた。


「殿下……」


「ならばそれも良いだろう」


 それだけ言うと遼霊はゴンザレス将軍を避けるようにして玉座へと向かった。


 天窓から落ちる日差しが緑色の翡翠製の玉座を照らしている。静かに彼が玉座に座ると一斉に臣下達による万歳がなされた。


「浅野……」


 ゴンザレス将軍の陰に隠れている宰相に声をかけた。遼霊の様子を静かに伺っていた文官の長はそのまま静々とカバラに寄り添った。


「では……」


 静かに遼霊は玉座に手を伸ばした。緑色の翡翠の光が紫衣の遼霊を染め上げていく。


「なんと……」


「これは神々しい」


 人々は感嘆をもらす。遼霊は笑みを浮かべながら静かに玉座についた。


「遼に栄えあれ!」


 地響きとなった声が宮殿に響いた。人々はただこの瞬間のためにあるというように拍手しため息を漏らした。


 遼霊はその興奮が冷めやらぬ前に初勅の宣誓のために立ち上がった。マイクが静かに下ろされてくる。


「朕は思う……この遼に乱れありと」


 普段の力のない声とはまるで違った腹の奥底から絞り出されたような声に側近達は驚きを隠せずにいた。遼霊は言葉を続けた。


「乱れの元……それは朕の嫡子、遼献にある。奴は兼州を占拠し独立の気配を見せている」


 予想されていた言葉とは言え、諸官はその言葉を聞くと背筋に寒いものが走った。この帝は子殺しをするつもりである。その事実が今知らされようとしていた。


「乱れの元は絶たねばならん……兼州を討て。まずは兼州を討て」


 そこまで言うと力が抜けたというように遼霊はそのまま玉座に倒れこむように座っていた。


「兼州を討てか……」


 静まり返った宮殿の中、一人ガルシア・ゴンザレス将軍だけが笑みを浮かべて青ざめている霊帝の表情を眺めていた。

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