戦端の予感
「それはあまりに卑劣……我が軍は動かないのですか」
西園寺孝基の報告を受けた遼献にはそれしか言葉がなかった。四つの村が壊滅。それも州境の警備兵の隙を突いての襲撃というのは明らかに孝基が言う胡州の特殊部隊『外憲』の仕業にしか見えなかった。
「我々は勝ち目の少ない戦いを戦うことになります。三日……三日の猶予が必要なんです」
「三日あれば東和は遼州東部の飛行制限措置を発表する……そうお考えなのですか?」
遼献の問は的を得ていた。孝基は静かに頷く。
「しかし……この状況で甲武浪人が三日待つとは思えませんね」
「待つしかないのです……空軍力に圧倒的な差がある以上、残念ですが東和の飛行禁止措置が無ければこの離宮とて一瞬で灰燼に帰すでしょう……三日とは言わず半日でも良い……東和の我々に同情的な勢力が何がしかの動きを見せる時間さえあれば多少の勝ち目も見えてくる」
そう言うと孝基は歯を食いしばった。
「一番我慢しているのが伯父上なんですね……」
「バレましたか……今すぐにでも『外憲』の上層部とゴンザレス将軍の首をとってきたいところですが……現実はなかなかうまくいかないものですよ」
苦笑いの孝基にラスコーはようやく安心したように微笑んだ。
「ともかく向こうは意地でもこちらの先制攻撃を望んでいる。そしてこちらもそれが許される状況になりつつある。戦争が始まりますな」
同席して黙ってふたりを見つめていたカグラーヌバ・カバラはそう言うとそのまま窓の外の曇り空に目をやった。
「嵐になりますね、この空は」
「また大地にも血の雨が降る……」
孝基、ラスコーはそれぞれに状況が差し迫っていることを実感していた。




