仕掛けられた襲撃
「三つの村を焼いた……何のために?」
浅野英次の言葉に真田は笑顔を作りながら応える。
「火事を起こしてくれと頼んだのはそちらの方だ……村が三つで済んだのだから逆に感謝をされてもいいくらいですがね」
向かい合って座る浅野は視線を首相の執務机に座っているゴンザレス将軍に向けた。
「この火事燃える場所を間違えればこちらに火の粉がかかるぞ」
ゴンザレス将軍の言葉を聞いても真田は特に表情を変えることはなかった。
「すでに兼州は西園寺孝基に同情的なジャーナリストが潜入している情報もあるんですよ!そうなれば……」
「恐らく東和が動く。東和共和国……基本的に遼州大陸には無関心だが……被害の状況によっては兼州周辺に飛行禁止区域を作るくらいのことはやりかねない」
吉田の言葉に浅野は頭を抱える。
「それではこちらが不利になるではないか!大体キサマらは誰のために戦っているんだ?」
「おかしなことをおっしゃりますね。我々は甲武陸軍を代表する立場にある」
「つまり遼献に取って代わるのが東海が立ててる次男の遼弁でも良いわけだ」
カマをかけたという吉田の指摘に真田は顔をしかめる。
「それに……あなたが部隊を動かしたのは三つの村ではなく四つの村。第四の村では部隊が全滅したみたいじゃないの」
吉田の追い打ちに真田は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「四つの村……なぜ報道は三つの村が襲撃されたとしか発表しないんだ」
「なあに……生存者がいないんですよ……ああ、そうじゃなかった。お宅の部隊を全滅させた兵士……無人機のデータからするとナイフ使いの少女に見えましたが……彼女は村を出る様子がない」
「ハッキングしているのか?」
ようやく絞り出すようにして真田がつぶやく。それを吉田はさも嬉しそうな表情で眺めていた。
「それが商売道具でね」
吉田の言葉に真田は唇を噛み締めた。
「しかも狙っていたのは武帝の遺産……」
「武帝の遺産……『クローム・ナイト』とパイロットか?」
気づいたゴンザレス将軍も唇を噛み締める。そこには彼の犯した間違いを見て取ることができて吉田は満足げに頷いた。
「この遼州星系の先住民族『リャオ』の残した超古代兵器……突撃及び格闘戦での予想される圧倒的な実力から突撃兵器……『アサルト・モジュール』とカテゴライズされた人型兵器のオリジナルがあんな田舎に隠されているとは……しかも近年まで時間凍結で眠らされていたオリジナルのパイロットまで付いてるとは……甲武州も何が何でも確保したくなるわけだ」
「傭兵風情が知ったことか!」
「傭兵だから分かるんですよ。アンタ等正規の兵隊さんが無駄な動きをするわけがない……俺もハッキングの痕跡をあまりあちこち残すわけにいかないから一番場慣れた部隊を追ってたら……ビンゴだ」
「ハメたな!」
真田はそれだけ言うと立ち上がって不機嫌そうに首相執務室から姿を消した。
「しかし……甲武の手に落なくて何よりでした。……うちも手駒が少ないですからねえ」
「浅野。それは言ってくれるな」
ゴンザレスは苦笑いを浮かべながら葉巻に手を伸ばす。
「しかし今は宝物に手を伸ばすタイミングではありませんよ……しばらくは見て見ぬふりをしているのが吉かと」
「吉田少佐、なぜかね?」
思わせぶりな吉田の言葉に浅野は引っ張られるように問うていた。
「先ほど言ったとおり生存者はオリジナルのパイロットのみ。しかも最も近い村からも50キロも離れた僻地です。下手に動いてほかの勢力に手を出される可能性もあります」
「ほかの勢力に取られるなら放置しておけということか?」
葉巻の吸い口をカッターで切りながら機嫌も良さそうにゴンザレス将軍がつぶやく。吉田の口元には笑みが浮かんでいた。
「まあ今はそんなことには構ってはいられない……今度こそ兼州には動いてもらわなけらばな」
ゴンザレス将軍はゆったりと首相の椅子に身を横たえながら煙草をふかす。その様子を吉田は満足したように眺めていた。




