野心の親子
「父上」
アンリ・ブルゴーニュはいきり立っていた。南都庁舎の州知事執務室に入るなり父親であるオーギュスト・ブルゴーニュに食ってかかった。
「アンリ、お前の言いたいことは分かる。央都の肥満体に頭を下げるのはやめろという事だろ?」
「分かっているなら話が早い。なぜですか?」
息子の憤慨に火に油を注ぐように手にしたパイプをゆっくりと燻らせて煙を吐く。
「煙草も辞めた方が良いですよ」
「こちらの方は趣味の問題だ」
それだけ言うとオーギュストは再びパイプを咥える。その悠然とした態度にいらだちを隠せないアンリはそのまま部屋を行ったり来たりしていた。
「大義は兼州にある。それは事実だ。武帝の時代に東宮位は献殿下のものとなった。それは否定できない」
「ならなぜ?」
執務机に両手を叩きつけて憤るアンリを少しばかり可哀想なものを見るような目で一瞥したあと、オーギュストは再びパイプを手にとった。
「第一に献殿下は幼い。まだ十二だ……そうなると摂政を立てなくてはならなくなる。どうせ摂政には父であるカバラ殿下が立たれるだろう。そうなると結果は同じじゃないか?」
「少なくとも野蛮なゴンザレスの顔を見なくて済むだけマシだ」
吐き捨てるようにそう言うとアンリは再び部屋を行ったりきたりし始めた。
「央都のゴンザレスの腰巾着達とカグラーヌバ・バラダ。どちらが御しやすい?」
父の言葉にアンリは言葉を詰まらせた。本来はラスバ帝即位の際に執政として全件を握ろうとしたこともある外戚、カグラーヌバ・バラダの野心が消えているとはアンリにも到底思えなかった。
「御しやすいから……父上はそれだけで簒奪者を支持すると言うのですか?」
「悪いかね?地球諸国もそもそも献殿下が東宮となったこと自体に疑問を持っている。確かにカバラ殿下は暗愚だが逆にその分帝に左右されずに国内の民主化を進めることができる」
「ゴンザレスの奴がそんなことに同意するわけないじゃないですか?」
アンリの言葉にオーギュストは静かに頷いた。
「そう、だからチャンスがある。地球諸国と新帝の間で摩擦が起きれば我々にも動く隙ができる」
得意げにそう言ってパイプを燻らせる父にようやく納得が言ったという表情をアンリが浮かべた。
「隙が出来てどうするおつもりですか?」
アンリの問いにオーギュストは笑みを浮かべながらパイプを燻らせる。
「ゴンザレスに取って代わる。決まってるじゃないか」
はっきりときっぱりと言い切った父にアンリは少しばかり呆れるような表情を浮かべた。
「ゴンザレスに取って代わるくらいなら今動くべきでしょう。あの男はその先を考えているはずだ」
「ゴンザレスが帝に取って代わる?そこまでの野心は……」
「あの男にはその位の野心はあるでしょうね。まあ帝にはなれないから共和制を布いて大統領にでもなるでしょう……その時南都に生きる余裕はあるんですかね」
「アイツが大統領?馬鹿馬鹿しい!」
オーギュストはそう言い切るとパイプを机に置いた。明らかに苛立っている父の様子を見ながらアンリは言葉を続ける。
「それを阻止するにはやはり兼州の東宮を推すべきかと」
「切れすぎる皇帝は押しにくい」
絞り出すようにしてオーギュストが呟く。アンリはさらに畳み掛けた。
「所詮は十二の餓鬼ですよ。実権はこちらが握ればいい。それに最初はカグラーヌバが邪魔ですがあの老人はそう長くはない」
「するとアンリはやはり兼州を推せと?」
「その方が南都のためかと」
「しかし……地球が黙っていないだろう……地球の国連ではゴンザレスの息のかかった連中が工作を続けている」
「確かにカグラーヌバの地球嫌いは有名ですからね……地球の傀儡に徹するのですか?」
「南都には遼南の地球との架け橋の役割がある」
再びパイプを握る父にアンリはため息をつく。
「どうしても央都に付くわけですか」
「それが時代の趨勢だ」
父の言葉にアンリは身を翻す。
「どうするつもりだ」
「父上はすでに気持ちを固めているのでしょ?仕方がないです」
力ないアンリの言葉にオーギュストは静かにパイプを燻らすことで応えた。




