表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜行鬼  作者: 参望
最終章/白蓮の鬼・其の一『序の巻』
132/168

其の一『序の巻』(2/2)

 一方、前線では。


 天鬼を通さない筈の結界を陽光によって破壊され、それを皮切りに天鬼達が雪崩れ込み混戦状態になっていた。

 接近戦を余儀なくされるが、接近戦では機動性と腕力を兼ね備えた天鬼の方が圧倒的に有利で、武石と綱隊に大きな打撃を与えた。

 辺りは血の池になり、丈夫な装甲を力任せに潰されて圧死した武石兵や、身体を噛み千切られた綱の隊員が転がっている。


 生き残った兵達は急いで後方の予備の結界内へ後退する。

 射貫も負傷した隊員を肩に担ぎ、槍を横一文字にして天鬼を相手しながら退く。

 脇を見ると、辛うじて天鬼を倒した綱の隊員に別の天鬼の死体が組み付いていた。

 天鬼は体を菖蒲(あやめ)のような紫色の炎で包んだ。


 射貫が血相を変えて叫ぶ。

 「蓑吉!早く振り下ろせ!

 呪われるぞ!」


 既に遅く、天鬼は隊員に噛み付いていた。

 隊員の肌は紫がかり、身体中に激痛が走る。

 叫び苦しみもがいた末、気が狂ったように味方に攻撃を始めた。


 この死に際に呪術で菖蒲色(あやめいろ)の炎を纏う様が、彼らが菖蒲若衆と呼ばれる由縁である。

 己の身が滅んでも相手に取り憑いて戦い続けるそれは、武石に追い込まれていた頃の天鬼達が勝ち残るべく苦肉の策で編み出した呪術だった。


 暴走した隊員は射貫に長槍を向けて突っ込む。

 射貫はやむを得ず武器を構える。

 「……すまねえ!」


 だが、隊員の鳩尾に拳を入れて、気絶させる者が一人。

 あの、三角巾の少女だった。


 「おい、お前の囮の役割は終わった!

 早く後退していろ!」

 射貫が言うが、少女は綱の隊員達を庇い続ける。

 「『兄上』が来るまで私が食い止める!」

 兎のようにぴょんぴょんと跳んで天鬼を翻弄し、蹴りや突きを叩き込む。


 そこへ、灰色の鬼が吹っ飛ばされて来る。

 背中から地面に叩き付けられたのは甲武鬼兵のシィだ。

 シィは全身に火傷を負いながらも立ち上がり、前方を睨む。

 「クッソ……!」


 シィの遥か前方には陽光。

 打掛をはためかせながら珠の方へゆっくり近寄って来る。


 少女は気迫に押されながらも、手刀を突き出して構えた。

 「陽光……!」

走り出そうとした時、陽光が消えた。

 気付いた時には背後から腕を固められていた。

 「うっ!離……せ!」

 珠が身じろぎしてる間に、陽光が彼女の三角巾を取る。


 纏めていた、銀に朱が滲んだ不思議な色の美しい長髪が下ろされて広がる。

 額には角もあった。


 陽光は珠の頬に指を食い込ませながら顎を掴む。

 「迎えに来たよ。『(たま)』。

 随分と勇ましくなったな。」

 「私は家を出た身!連れていった所で何の利益にもならないよ!

 んぐっ……!!」

 歯を食いしばって強がる珠の顔を自分の口元に引き寄せる陽光。

 「薄紅天鬼との縁はどうでもいい。

 一族が強い子孫を残すのに、結局お前の肉体とそこに流れる酒呑童子の血が必要なだけだ。


 諦めるんだ珠。君も自分の血筋からは逃れられない。」

 珠以外の誰かにも言い聞かせるように囁き、骨が軋む程握る。


 そこへ天鬼の悲鳴。

 天鬼を蹴散らし、交戦中の人間側を助けながら嵐のように迫る黒鬼。


 すれ違い様に射貫を気遣う。

 「隊長!遅くなってすみません……。」

 「問題ねえ!それより夜光、お前の妹(珠)だ!」


 夜光はカムナを射貫の方に投げ、陽光を睨んで飛び掛かる。

 体が雲海のような青い炎に包まれる。

 「陽光おおおぉ!!!」


 陽光も珠を突き放して夜光を鋭く睨む。空中後転すると共に彼もまた青い炎に身を包む。


 二人は変化により、禍々しく妖美な化け物の姿になった。

 闇夜に火の粉を散らしながら、黒い鬼と朱色の鬼が両手を組んでぶつかり合う。

 

 夜光はクセのある銀の髪を雲のようになびかせ、再び両目を黄金に鋭く輝かせる。

 5年前より肉付きが良くなり、角が少し長く伸びていた。黒光りする皮膚には赤や青、緑、紫など、様々な光が揺らめいていた。

 胸の中心には巨大な氷のような結晶が一体化している。


 陽光もまた5年前より皮膚の艶が増し、がっしりとしていた。

 髪が観音像の後光のように激しく広がって揺らめく。

 

 夜光は角の先を炉のように赤く輝かせ、片方だけを大太刀のように長く伸ばす。


 陽光は瞳を鮮やかな緑色に輝かせ、背部から炎を纏った蚕を生み出して放つ。

 蚕を囮に、後ろ跳びで距離を取る。

「その妖気、一体何匹鬼を喰らったのだろうな⁉

 同族を喰らい過ぎてその魂に取り憑かれ、気が狂いそうなのをやっとの思いで耐えていると見た!」

 

 夜光は大風を起こしながら上半身を数回ぶん回し、長い方の角で蚕達を蒸発させる。

 雷雲の如く荒ぶる銀の髪。金粉の如く散る火の粉。

 上体を起こすと共に、長い角の付け根を片手で握る。

 そしてなんと、そのまま角を引き抜いて手に持った。

 それは人が大太刀を手に握るのと変わらなかった。


 目を見開いたまま、乾いた声でケラケラと笑い出す夜光。

 「隠してるつもりもない事をごちゃごちゃと……!

 それよりも心が読めない俺でも、お前が心の奥底で怖くて震えてるってのがよく分かるぜ、陽光っ!!」

 一瞬切なげな表情をし、真剣な顔に戻る夜光。


 後光のように髪を広げて合掌し、顔を怒らせる陽光。髪に月光を集める。

 「いいだろう、望み通り消してやる!!

 来いっ、夜光!!」


 角の大太刀を両手持ちで肩の方に振り上げ、騎馬兵のような勢いで駆け出す夜光。

 髪から熱光線を撃つ陽光。直線的で太いオレンジの光が夜光を狙う。

 夜光は全速力で駆け抜け寸前でかわし、刀を横なぎに振った。風が切り裂かれて鳴り、森の木の葉が舞い上がる。

 陽光の髪の半分が切り裂かれる。


 どよめくカムナ達。

 「行けるぞ!やっちまえ!!」

 

 髪を切られて熱光線が出せなくなろうとも、目を見開き構える陽光。残りの髪を捻って細くして槍にする。


 夜光は一瞬だけ子供の頃の陽光を思い浮かべる。

 それでも歯を食い縛り、もう一太刀を振り下ろしたーー。


 だが、間に何かが滑り込んできた。

 紫の炎を纏った天鬼。開戦前に陽光と話していた女鬼だった。

 天鬼は肩から腹を斬られ真っ二つになった。赤い傷口が黒い煙を噴き出しながら一瞬にして炭に変わる。


 「死ねえぇえ黒鬼っっっーー!!」

 天鬼は蝋燭のように脂を垂らして燃える。痛みを振り払うように雄叫びを上げ、紫の炎で夜光の体を包んだ。


 「逃げて兄上!取り憑かれるっ!!」

 珠が叫ぶ。


 女鬼を囮に、髪の槍で突き刺そうとする陽光。


 紫の炎は夜光を呪おうと身体に染み込もうとしてきたが、夜光は自ら発火してそれを焼き消した。

 「その程度の想いで俺に突っ掛かるなっーー!!」

 憎しみも強い意志で焼き消すように低く吠え、柄の部分で殴って陽光の攻撃を弾く。


 弾かれた勢いのまま、後退して宙に浮く陽光。

 「私を庇うなど、恥をかかせおって……!」

 無表情で罵倒しながらも、片目から雫を流す陽光。


 ここまで数分。

 二人の放つ妖気の圧と熱さで、戦いを端から端まで理解した者はいなかった。

 両者また離れて衝突か、と思われたその時ーー。

 地響きと共に足がすくむ程の轟音が聞こえた。


 後ろの陣から武石兵が慌ててやって来る。

 「大変だ!隣の山から火が噴き出た!」

 慌てて掴み掛かる射貫。

 「あの大人しそうな山がいきなり噴火したのか?!

 灰が来たらひとたまりも無いぞ!全隊、問答無用で撤退だ!」

 

 そうこう言ってる間に、噴石が降り注いで武器や鎧を次々に潰した。兜の無い者は頭をかち割られる。


 夜光と陽光は噴石を物ともせずに数秒睨み合ったが、変化を解いて人間の姿になる。


 夜光は黙って陽光を一瞥し、倒れた隊員を全員背負って避難を始める。

 「大丈夫ですか?!背中に掴まっていて下さい!」

 「す、すまない!」


 陽光も夜光を振り返りながら、天鬼に撤退の指示を出す。

 いくら少々の火山ガスに耐えられる鬼でも大規模な火砕流の中ではひとたまりも無い。

 陽光は自分を庇った女鬼の顔に触れ、瞼を閉じてやる。

 「次は、無いぞ……。」

 去り際、自分にも言い聞かせるように呟いた。




 安全な場所への移動が終わり、山から火の水が流れるのを眺める夜光達。闇の中の赤い輝きは何処か不気味だ。

 皆火砕流に巻き込まれなくて安堵しているが、戦闘での負傷者が多く無事とは言い難かった。


 怪我人を馬に乗せる射貫。いつもは戦が終われば冗談をいう所、遣る瀬無さそうな顔をする。

 「1週間睨み合った末にこの結果か……。

 都の奴らに見せる顔がねえぜ。」


 灰色の鬼のシィが変化を解いて短髪の痩せた少女になる。戻っても顔には傷跡があった。

 夜光は隊員の介抱をしながら、ばつが悪そうな顔をしている。

 横から彼の顔を覗き込んで舐めるように睨むシィ。

 「おい。あれ、お前の従兄なんだよなぁ?

 ……手ぇ抜いたんじゃないよなぁ?」

 その間にカムナが割り込む。

 「あぁあん?!

 んな訳ねえだろ!天鬼でも更に上級の相手にどう手え抜くんってんだ?!」


 夜光は黙々と自分の裾を切って隊員の腕を縛って止血する。

 間を置いてから、はっきりと言った。

 「向こうも必死なだけだ。

 ……大丈夫だ、やる。この手で。」


 焦りが顔に出ないように奥歯を噛み締めてると、珠の呼ぶ声が聞こえた。

 「兄上!さっきの子がね……。」

 見ると、助けた子供が珠に付き添われながら何かを持ってきた。

 竹の水筒だった。

 

 「お兄さん。……水、どうぞ。」

 子供は夜光に水筒を渡す。

 労われる気になれなかったが、子供が心配そうに微笑んでくれるので微笑みを作って返す夜光。

 飲み終わると、今度は手拭いで夜光の額の汗や返り血も拭ってくれた。角もしっかり拭って綺麗にする。


 「……。

 ありがとう。」

 喉を水が通り抜けた後の心地良さと、救えた笑顔。それが夜光の心を少しだけ落ち着かせる。


 (陽光は序盤の相手に過ぎない。一番の目的は、『アイツ』……。

 ここまで血反吐を吐いて積み重ねて来たんだ。もう、震えるな。)




<其の一・完>




<おまけ/最終章タイトルビジュアル>

挿絵(By みてみん)


<最終章用 夜光&珠 衣装デザインラフ>

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

ほんっと、大変お待たせして申し訳ありませんでした;

プロットを作り終わってから本題に入ると言っていたとは言え、色々不安事について悩んでしまっていたり、表紙絵が思うように描けなかったりと、相変わらず死ねない骸骨が泥舟漕いで太平洋渡っているような創作ですね;;


さて今後の予定ですが、

最終章はプロットで25パートあったものを、『最終章・其の1〜10+ エピローグ』の構成にしました。

今回は初回なので説明で1万文字になりましたが、他は場面によって4000文字程度だったりします。


次回は今月中に出せると思いますので、もう少々お待ち下さい。


それでは〜。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ