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夜行鬼  作者: 参望
最終章/白蓮の鬼・其の二『富士の巻』
133/168

其の二『富士の巻』(1/4)

またまた大変お待たせしました;

出来ている分のアップを始めていきます;;


2月中にもう一本アップの予定でしたが、動悸などの体調不良や別件で遅れ、そして3月に入ってやっと一心不乱に走れると思ったら、今度は親が生死に関わる大病で倒れてしまったので、その対応でまた更新が遅れるかもしれません;;

終わりまでプロットは出来ているだに、停止に停止でこっちも歯痒いばかりです。


さて、前置きはこれくらいにして始めましょう。

前回がいきなり9話の5年後だったので、その間に何があったかの話でもあります。

それではお楽しみ下さい。

 山間部での戦闘を終えた後の事ーー。

 角狩衆・綱隊と武石軍は都に帰還した。

 門の前で皆で協力して兵器の片付けをし、負傷者を中へ運ぶ。


 夜光は子供を近くの難民が集まる野営地に送り届けてやった後、ててきぱきと仕事をこなした。

 「はい!ありがとうございます。

 あ、これ重いから俺が持って行きますね。」

 助けが必要な所がないか気を配り、常に丁寧に接して礼の言葉と笑顔を絶やさない。

 自分の乗ってきた馬にさえ感謝の言葉を延べ、身体を洗って労ってやる。

 

 射貫はそんな夜光の様子を感慨深そうに眺めていた。

 丁度、荷物を持って目の前を通りかかったので肩を叩く。

 「後は下っ端に任せてお前も休め。」

 夜光は軽く会釈する。

 「……いえ、俺は怪我とかしてませんので。」

 「隊長命令だ。

 ほい、行けっ!」

 と、夜光の手の荷物を奪い、尻を平手で叩いて門の内側へ向かせる。

 「しかしお前、この5年で別人みたいに変わったよな。特に富士の修行から帰ってからか?強くなっただけじゃなく、性格もさ。

 初めて会った時は何処かボーっとしていて、言葉もゴニョゴニョで聞き取りにくかったのが、今じゃすっかり百之助みたいな真面目ちゃんになってよお。」

 そこへ、たまたま射貫の脇を通った五平がボソリと言う。

 「反対に隊長は5年経っても全然変わんないっすね。勝手に一人で敵陣突っ込むし、毎朝酒臭いし、すれ違った女性の胸と尻見て喜ぶし……。」

 「んだってこらあ〜?」

 ひきつった笑顔で、五平のつむじを荷物の角でグリグリする射貫。

 「やめて!禿げる禿げるっ!

 い、いや変わらない事も才能って意味っすよーー!」


 二人のやり取りを見て愛おしそうに笑う夜光。少し寂しそうな顔をしながら呟く。

 「俺は……、周りにいてくれる人に笑っていて欲しいだけですよ。

 その為に、俺も笑って、周りの気持ちをもっと考えて優しく接しないといけないって分かったんです。

 この歳になってようやく、ですが。」


 そこへ黙って首にぶら下がってたカムナが付け加える。

 「それに今の夜光が真面な精神を保つのに笑うのが必要らしいからな。」


 (……しかし富士での修行は辛かったが、その分見返りも有ったもんだ。)


 カムナは今から5年前を思い出す。

 酒呑童子を殺す力を得る為、富士へ修行に向かった時の事である。




***




 5年前ーー。夜光が富士で修行を始めて半年経った頃。

 春を迎えてはいるが、遠目から見ても富士の山頂はまだ雪が厚く積もったままだ。


 富士の裾にある森。大きく角ばった岩場のある広い川が流れている。

 その川の支流の先に小さな池があった。

 朧月の明かりに照らされ、風で揺れた水面がキラキラするのが僅かに見える。

 その傍に打掛を着た少女の姿があった。

 銀に朱が滲んだ美しい長髪と角、黄金の瞳ーー。珠だった。


 珠は小川の反射を鏡の代わりにし、髪を手櫛で整えていた。髪一本一本は絹のようであり、風が吹けば天女の衣のようにサラサラと流れて輝く。

 何も知らずやんちゃだった頃とは違い、落ち着きと女性っぽさが出てきている。


 そんな彼女を離れた所から息を殺して盗み見る赤鬼が2匹。人間に似た姿なので天鬼だ。

 「見ろ……、薄紅天鬼を抜けたと噂の姫だ。まだ10代だが、艶の良い髪と妖しさ。手足の肉付きも良く、申し分無い程健康だ。」

 「実家と縁を切っていてもあの酒呑童子の血を引いていて、将来は両家譲りの強い子を産むに違いない。

 捕まえてウチの部族に迎え入れよう。」

 彼らが少女鬼1匹に躍起になるのは、鬼は雌個体が生まれにくい種族だからである。


 そこへ鬼の唸り声。赤鬼達は振り返る。

 

 闇の中で踊る銀の髪と、緑や紫の光沢を放つ黒い肌。

 黒鬼が立っていた。


 

 数分後ーー。

 珠を狙っていた赤鬼達は変化した姿で血溜まりに転がっていた。胸には深い刺し傷がある。


 「蒼に教えられた通りに妖力を使ってみたら、足音と匂いが消せた……。

 天鬼さえ気付かないなんて、凄い……。」

 そうボソボソと喋ってしゃがみ込むのは黒鬼・夜光だった。

 「言われた通り出来ちまうお前も大概だがな。」

 と、カムナが言う。夜光の首に髪を絡めてぶら下がっている。


 夜光は赤鬼の巨体を両手で抱えて持ち上げ、その脇腹に齧り付く。

 噛んだ所から吸い付いて血をジュルジュルと飲み干すと、硬い皮を部分を齧って破きながら剥がして捨て、赤身の肉を大まかに噛み千切ってはガツガツと荒っぽく咀嚼して飲み込む。あまり美味しく無いのか、たまにえずいていた。


 吐きそうになってる所、急に気が触れたようにゲラゲラと笑い出す。

 「ふふふ……ヒャヒャヒャっっっ!!

  弱え上にクッソ不味いぜ!!!肉食う生き物は糞みたいに臭うからな!!!」

 当たり散らすように、もう一匹の鬼の死体を蹴飛ばす。 


 木の後ろに隠れて見守っていた珠が心配そうに駆け寄る。

 「あ、兄上!」

 

 その声で我に返る夜光。

 昂った気持ちを抑え、優しい声になるように身構える。

 「……大丈夫だ。

 今落ち着いた。」


 1匹平らげてうんざりな所、続けて2匹目も無理矢理口に押し込む。

 珠は色々言いたいのを我慢して見守った。

 

 夜光はやっと完食し、血塗れで変化を解く。

 短いクセ毛の黒髪の少年の姿になった。裸に小袖の腰巻きしか纏っていない。 

 珠と側にある骨の山を申し訳なさそうに見つめる。彼が今日倒して食った朱天鬼や他の赤鬼や野良鬼の残飯である。

 「鬼を誘き寄せるのに、お前を餌にしてごめんな……。」

 直ぐに首を振って笑みを作る珠。

 「ううん!兄上を手伝えるから嬉しい!

 ……それに、兄上は負けないって信じているから。」


 珠は元気付けようと、夜光の腕に抱き付いて微笑む。

 「さ、帰って『普通のご飯』にしよっか。」


 カムナは2人のやり取りを目の青い光を消して黙って聞いている。

(修行を始めた時、蒼に『浄化の力を習得する以前に、腕力・妖力・体力がまだ足りない』って言われちまったから、体を作らなきゃならん。

 手っ取り早い方法は、強い鬼をたらふく食べて相手の力を吸収しながら体に負荷をかけて鍛える事。

 だが鬼は執念深いから、食べたら心に付け込んで来る。根っからの鬼なら、それを気にしない精神の作りになっているので平気らしいが、夜光は半分は人間……。

 平気じゃない証拠に、今のコイツは鬼の血肉を大量に喰らったせいで怒りっぽくなったり、情緒不安定になったりして、そこから正気を保つのがやっとだ……。

 夜光の体質ならば、普通の獣や強過ぎない妖怪を食べて長い期間をかけて力をつけるのが理想だが、それじゃ酒呑童子と十分戦える体になるまで何十年かかるか分からん。


 都に帰る前に潰れなきゃいいが……。)


 カムナは数ヶ月前の、富士にやって来てまだ間も無い頃を思い出していた。



 

***




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