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夜行鬼  作者: 参望
9話/鉄籠の鬼
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鉄籠の鬼(18)

 夜光が囚人のような生活を始めて、早くも1ヶ月が経った。


 牢屋のムシロの上で丸くなって寝ている夜光。

 あれから百之助や見知った者達は来ず、彼の無表情はより固くなっていった。

 目にはクマが見える。


 彼は夢を見ていた。


『おら、夜光。視界の悪い森ではボサッとしねえで良く周りを見ろ。

 野良鬼とかの匂いや音には常に気を張っておけ。』


 『俺様の髪の毛で暖とってもいいが、あんまり髪の毛引っ張るなよ!涎も垂らすな!ばっちいだろ!』


 『夜光、何処をやられた!?クソっ酷い出血だ……!

 ここでくたばりたくなかったら、俺様の話を聞け!』


 『お前にしちゃ良くやった……!ここまで来たら野良鬼もやって来ねえ。

 見張っててやるから、そこの小動物でも食って寝とけ。』


 『この村でも追い出されたな。

 人間からの悪口なんて気にすんな。お前は鬼だ。

 鬼で何が悪いってぐらいに思っとけ。』


 夜光は目を開ける。


 (またカムナと旅をしていた時の夢を見た。


 カムナ……。元気だろうか。

 口は悪いけど、散々俺を叱って心配してくれていた。なのに俺は言う事聞かなくて……。

 そんな俺に呆れて戻って来ないとしたら……。

 やっぱり俺のせいだ……。)

 唇を噛んで自分の肩を抱く。


 その時、物音が聞こえた。

 どうせネズミだろうと思った。


 天井近くの格子窓の光を何かが遮る。

 夜光は顔を上げて目を丸くした。


 「起きろ寝坊助。もう昼だぞ。


 ……見ねえ内に痩せたなお前。」

 格子窓からカムナと珠が顔を覗かせていた。

 逆光で一瞬顔が分からなかったが、本物だった。

 

 急いで立ち上がって、窓の所に行く夜光。

 珠は格子の隙間からカムナを落としてやった。


 夜光はカムナを受け取って抱き締めた。


 「カ……ムナ……。」

 まともに誰かと会話をしなかったので上手く呂律が回らない。

 乾いた顔の皮膚に涙が染み込む。

 「全く……。

 しょっぱいのが目に入るからもう泣くな……。」

 カムナはいつもの様に意地悪を言わなかった。




 丁度見張りが居眠りしていたので、夜光は窓の格子を折って珠を入れてやる。


 3人はお互いに起こった事を説明する。


 まず、珠達は薄重の館の洞窟から、都に向かって山道を遥々歩いてきた事を話す。

 「都に近付いた辺りで、蒼って鬼が都まで送ってくれたんだ。

 あ、五暁院に忍び込めたのは免罪符を貼っていたお陰だよ。」


 次に、夜光が今までの出来事を話す。


 「角狩がそんな事に……。だから知らない兵士が沢山いるんだね。 

 それに、陽光が八重ねえを……。」

 「そして夜光は政権交代のゴタゴタにまんまと巻き込まれたと。

 ざまあ無いぜ……。」


 珠は兄のやつれた顔を覗き込む。

 (百之助の為に言いたい事、全部我慢してるのは偉いよ。でも動物みたいに従わされるだけなんて……。

 こんな辛そうなだけの兄上、見たくないよ……。)


 珠は両手で夜光の手を握った。

 「ねえ兄上。

 一旦ここを出て何処か遠くへ行こうよ!」

 「だ、駄目に決まってる……!」

 「ここが守りたいと思えた場所と違くなったなら、居てもしょうがない。

 このままだと、兄上が兄上らしくなくなっちゃう!現に訓練中に怒りが爆発しそうになったんでしょ?!」

 「でも、百之助や八重の為だから……。」

 「うん。それも分かる。

 だから百之助に相談して、手を貸す時だけ戻ったりするでもいい。


 兄上は兄上と仲良くしてくれる角狩衆を助けるって誓ったんでしょ?

 なのに兄上を大切にしてくれない、便利な兵器か犬にしか思ってない虎継の為に我慢する必要なんてないよ!」

 「話したくても、百之助は来なくなって……。」


 「私がどうしたって?」

 牢屋の格子扉の外に百之助が立っていた。


 「百之助……!」

 「夜光、大変遅くなってすまない。


 って、あれ?!何でカムナと珠ひ……。」


 珠が人差し指を立てるのと、鼻提灯を出して寝てる見張りを見て、察したように口を閉じる百之助。

 

 「丁度いい、皆んなおいで。

 いい話を持ってきた。」

 百之助は得意げに微笑む。昨日は一睡できたようでスッキリした顔をしていた。

 



 百之助達は地下の晶洞へ移動した。

 一階層の入り口の方なので免罪符をした鬼や妖怪なら、浄化の影響をあまり受けずにいられる。

 

 先に射貫、兼十、斗貴次郎、三ツ葉が到着していた。皆、戦装束の正装である。 


 射貫と兼十が真っ先に夜光に絡んで来る。


 「夜光、大丈夫か!?

 鬼討伐の遠征に駆り出されっぱなしで、お前がどうなったかは今百之助から話を聞いたところだ!」

 射貫は嬉しそうに夜光の髪をわしゃわしゃと撫でる。

 「いぬ、き……。」

 夜光は久しぶりに活気のある人間と会って、少々思考が追い付かず呆然とするばかりだ。

 「ちゃんと飯食ってるか?!

 俺もなあ、『規律を正す為に酒は一日一合まで』って制限されて死ぬ程辛えぞぉ!」

 「射貫は普段飲み過ぎだからそれで丁度いいよ。」

 ボソッと言う百之助。


 次に兼十が夜光の脇の下を持って抱き上げる。

 「体が冷たいじゃないか可哀想にっ!俺が温めてやるぞ!」

 兼十は虚無僧笠の覗き穴から涙を流し、厚い布団のような太い腕と大きな大胸筋で夜光をぎゅっと包み込む。

 「こんなに痩せて……。何もないが、せめて俺の筋肉をお食べ。」

 言われるままに兼十の大胸筋にカプっと噛み付く夜光。 

 「はふっ!!硬くて歯が通らない……。」

 「本当に食おうとするな!」

 ツッコミを入れるカムナ。


 射貫達に弄られる中、夜光は斗貴次郎と目が合う。

 気まずそうな夜光に怪訝そうな顔の斗貴次郎。

 「何でそんな顔してるんですか?僕、何か変です?」

 「……いや。」

 「お爺さまの事ですか……?」

 「……。」

 「僕は最後まで夜光さんや百之助様、角狩衆を思って行動し続けたお爺様を誇りに思います。

 だからそんな悲しく暗い顔をしてたら、逆にお爺様に失礼ですよ。」 

 斗貴次郎は微笑む。

 「斗貴次郎……。

 ありがとう。」


 久しぶりの人の優しさに、夜光は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じる。

 (何故だろう……。良かったって安心したのに何故か涙が出そうになる。)


 「そういえば、何で珠姫さんがここに?」

 

 これまでの事情を斗貴次郎達に話す珠と百之助。


 「でも、虎継様にバレたら不味くないですか?」

 それに対し首を振る珠。

 「それはもう大丈夫……。

 わらわ……、いや、私はもう姫ではなく『ただの珠』です。

 薄紅天鬼と縁を切ったから、朱天鬼に嫁ぐ理由ももう無くなりました。」

 

 「あ、そうだ。」

 百之助が離れた所で腕を組んでいる三ツ葉を連れて来る。

 「夜光にはまだ話して無かったが、実は三ツ葉が貞光の隊長を務める事になった。」

 

 「師匠の宮比が人鬼に体を乗っ取られてしまったので、やむを得ず命を奪う結果になってしまった。

 自分ではまだまだ及ばない所もあるが、精一杯やりたい。」

 三ツ葉は軽く会釈しながら控えめに振る舞う。

 隣で射貫は真面目な顔になる。

 「これだけ長く戦ってるし、相手も命懸けだ……。若い奴らにも四天王にも犠牲者が出てもおかしくない。

 ……それでも、最近まで冗談言い合ってた人間が急にいなくなるってのは慣れないもんだぜ。」




 全員百之助を囲んで一箇所に固まる。


 「で、本題だが、実はこないだの火事の片付けがきっかけで研究資料を保管してる土蔵から色々面白いものを見つけたんだ。」


 百之助は縦長の桐箱に納められた巻紙を取り出す。

 恭しく巻かれた紐を解くと、短い文章が書かれ、その文に重なるように四角い朱の印が押されていた。

 

 「あ、あれれ、ハンコが何だか……。」

 「光ってる?」

 一緒に声を上げる夜光と珠。

 

 「これ、1000年前の建国時代に書かれた帝の勅書でね、しかも太古の不思議な力が込められている。

 内容はクシナダの鎧に関わる者の仕事を妨げたり、不当な扱いをしてはいけない、って話なんだけど、虎継殿と角狩衆の立場を公平にするのに役に立つんじゃないかと思って。」

 「おいおいー、そんな便利な物、何で今まで仕舞い込んでたんだよ!」

 ボヤく射貫に百之助が答える。

 「今までは『クシナダの鎧を扱い、且つ巫女のオミナから認められた者は、魔から皇族を守る者。蔑ろにしてはいけない。』という暗黙の規則を守る将軍が殆どだったから、勅書に頼るまでもなく、手を出して来なかったんだよ。」

 「だがよお、虎継ってのはお前らの神も仏も恐れない、一筋縄じゃ行かない奴だろ?これを見せたぐらいじゃ黙らねえんじゃねえか?寧ろ逆恨みしそうだ……。」

 異議を唱えるカムナに、百之助が答える。

 「そこは私が上手く交渉してみる。 

 悔しいが人員や資金の面で虎継の傘下に入って助かった面があったのも事実だから、せめて従う事から抜け出して対等な協力関係になるようにするよ。

 私の要求をある程度聞いて、うちの部下達への扱いが普通になるように。


 ……カッコ悪いけど、私は頭を下げる事だけは得意だからね。」


 百之助は夜光に向き直る。

 「次に夜光、私から君に特別任務を与えたい。」

 「俺に……?」

 「丁度いいから、妹も一緒にね。」

 にっこりする百之助を見て、顔を合わせる夜光と珠。




 数刻後ーー。

 五暁院の中央にごく最近造られた、虎継が控える部屋。

 元々古風な寝殿造りの院に、今時の書院風の飾りを増設している。広めの床の間には彼の戦の戦利品である様々な甲冑が並んで飾られている。


 百之助は虎継の前で堂々と立っていた。

 射貫を初めとする頼光四天王達が百之助の脇を固めて、側近の武石兵達を睨んで牽制する。


 虎継は肘掛けを乱暴に倒す。

 部屋の中でも全身鎧姿で表情は見えないが、息を荒くして怒りを抑えているのが分かる。

 「頼光……!

 弱いネズミが紙切れ一枚で威勢を張りおって……!」


 百之助は動じず、少しとぼけた口調で言う。

 「落ち着いて下さい虎継『殿』。

 将来的な脅威に備えて、適切な人物である夜光に準備に行かせただけです。

 鬼退治という最終目的は同じなので、そちらにとっても悪い話ではないと思われるが?」

 「戦えばお前らなど簡単に潰せるのを忘れるな……!」

 「戦う気なんてありませぬし、協力すると言う関係も変わりませぬ。

 ただ、互いに言いたい事を言い合える仲になりたいだけですし、政治の邪魔は一切しません。角狩衆はずっと昔からそうですから。


 さ、赤鬼の進行は進んでます。民を守る会合を始めましょうか。」

 百之助は勢力図を広げた。

 



 一方その頃、夜光は晶洞の奥で八重と会っていた。


 八重は寝巻き姿で衰弱した体を起こし、夜光を正面から抱きしめ背中をさする。

 いろはは後ろの方に下がって、黙って背を向けている。

 

 「八重……。暫く会えなくなる。」

 「うん……。一緒に行けなくてごめんね。」

 「お前が笑っていられるようにするって、言ったのに……。

 俺は、駄目だな……。邪気とか以前に、こうやって一つの約束も守れないから、誰かとずっと一緒にいられなかったんじゃ無かったのかって思う……。」

 八重は幼児をあやすように、震える夜光の背中をぽんぽんと叩く。

 「無事に帰って来て……。今はこれだけ守ってくれればいい。」

 

 八重は急に着物の襟を少し広げた。

 色白の細い首と鎖骨が見える。


 「指切りの代わりにあげる。

 貴方に渡せる物が今はこれしかないから……。


 ……血を、飲んで。」

 

 今の八重の血には鬼を浄化して殺す力は無い。

 夜光は躊躇いながら、八重の首の付け根に八重歯を刺した。傷口から出た血を少しずつ舐めて、唾液と一緒に飲む。

 耳元で彼女の温かい吐息が聞こえた。

 彼女のサラサラとした髪を一房、そっと握る。


 夜光が傷を癒すように血を舐めとって綺麗にすると、八重は彼の両頬を両手で持って引き寄せて、困ったようにくすりと笑った。


 「待ってるから。……約束守ってね。」

 彼女の柔らかな唇が彼の唇に触れた。

 



***




 夜光は彼女のゆくもりが体に沁みて離れないのを感じながら、手の平で自分の口をそっと覆う。

 彼は都を出発し、人目を避けながら郊外の秋草の草原を蒼、珠と共に歩く。


 百之助の命令はこうだ。


 『夜光、酒呑童子は生きている。


 恐らく、もう一度戦う事になるだろう。

 今度は確実に倒す為に、君に富士に行って貰う。

 蒼のように霊山から浄化の力を蓄えて、強くなって帰って来るんだ。』


 夜光は青に朱色が滲んだ黄昏の空を仰ぎ見る。早くも三日月が昇って金色に発光していた。


 (皆から学んだ力をあれだけ集めてぶつけても、完全に断ち切れなかった上、元実や陽光も立ち塞がるなら……もっと強くならないといけない。

 

 まだまだ全然足りない。

 本当に誰かを守り通したと言えるまで、誰かが笑ってくれるまで……、もっともっと……強く。)




***




 都で目まぐるしく変化がある中、大江曽城ではーー。

 元実は私室にいた。傷が回復し、いつもの鎧を纏っている。


 彼は女物の耳飾りの片側を手に乗せていた。

 東雲がいつもしていたものだ。


 もう片側は赤鐘が摘んで持っていた。蝋燭の火で揺らめく純金の光沢。


 「無口で、無愛想でしたけども、居なくなるともっと静かですね……。


 赭もそうですが、居なければなかなか寂しいもんです。」

 赤鐘はにこやかに言うが、声にいつものハリは無い。

 「……まあな。」

 元実はしかめっ面でボソボソと返事する。いつもより眉間の皺の寄せ方が弱い。

 「女が先に逝って、男二人が残されるってのは惨めさが倍な気分です。

 

 新しい女の人鬼候補を探しますか?」

 「……要らぬ。

 それより、軍議の続きだ。虎継や、黒鬼、青鬼……問題は山程残っている。」

 元実は耳飾りの片側を赤鐘に預けて、会合に向かった。

 



 同時刻、息子の陽光はーー。


 「田舎鬼の俺を従者にして頂きありがとうございやす。

 死んだ父に恥じないよう命懸けでぶつかりやすんでお願いします。」

 「私も天鬼として転生しましたので頑張ります。」 


 陽光の部屋に、二人の天鬼がいた。

 万耀と茜だ。


 「ああ……よろしく頼む。」

 陽光は穏やかに微笑んで歓迎する。

 昔の弱々しさは薄れ、胸を張り、はきはきと話し、毅然とした態度をとっている。


 (権力に擦り寄りたい下心で従者になりたいと寄って来るのが多かった中で、唯一純粋に私の元で働きたいと思ってくれた二人……。

 どちらも赭とは全然違う性格だ……。)


 万耀は張り切った様子で、いつも連れている白くてふわふわの山犬を抱き上げる。

 「何にしますか?!

 ウチのくじな姉ちゃんに芸でもさせますか?!それとも俺が組み手の練習相手になりますか?!どんな強い攻撃でもドシコイっす!」


 負けじと茜が前に出て、両手を耳の横にやって可愛い女を演出する。

 「いやいや!

 私が何かお世話します!お食事でアーンしますかっ?!それとも脱ぎますかっ!?そんで、ドジョウすくいしますかっ?!」


 顔と顔を手で押し合い、喧嘩する二人。

 「田舎娘!俺が先だぞコラっ!」

 「なんだだ(なんなのよ)!あんたこそ毛むくじゃらの原始人じゃねえだ(じゃないの)?!」


 個性的な二人に少し面食らい、頬を指で掻いて反応に困る陽光。

 お腹を押さえ、声を我慢したが、急に口を開けて笑い出した。


 「あははは……!

 違うよ二人とも、そんな楽士や侍女みたいな事までしなくていいんだよ。ふふふ……。」

 陽光は口を手の平で隠し、もう片方の手の指で目尻の涙を拭く。


 万耀と茜は手を止め、顔を赤くして彼に見惚れた。


 「笑い方も綺麗で上品だ……。」

 茜がぽつりと言う。それを肘で小突く万耀。

 「なーーに赤くなってんだよコラ。」

 「あんただって、何で照れてんの?!」

 「いや、だって……強いのに、あんな純粋な顔もされたら照れんじゃんよ……。」

 

 その後、陽光は二人の前で舞を踊ってやった。


 赭の篠笛の音色を思い出し、長い朱の髪を揺らして、扇を手に奥ゆかしく回る。

 女のようにたおやかな動きでありながら、刃のような非情の眼差しを見せる。


 (会えなくなる者もいれば、新しく出会える者もいる。


 彼らは死なせやしない……。失望させやしない……。

 その為にも完璧に父上の跡を継いでやる……。)




 そして、大江の奥地にある湿原ではーー。


 湿地の草花を薙ぎ倒す程の激しい暴風の中、血塗れで蹲っている天鬼が一人。

 緋寒だった。


 彼は倒したばかりの丸太のような太さの大蛇に喰らい付いていた。

 

 変化もせず、片腕がない状態で倒したそれの鱗を剥ぎ取り、血肉を食い千切っては噛んで飲み込み、また食い千切っては噛む。


 「まだだ……まだ足りない。

 我が子の壁として立ち直すには


 失った角と、腕に勝る力を……。

 

 天空の流れる星を掴める程鍛え、田を飲み込む濁流よりも、大嵐の荒波よりももっと多く、大きな力を食らわねば。」


 髪から失明した方の目に滴り、涙のように頬に流れた返り血。それを手の平を滑らせて拭う。擦り込まれて赤く染まる頬。


 「お前だけを見ている……。

 我が子よ。」


 愛おしそうに呟く時の目は精気に満ち溢れ、そして表情は恐ろしく真顔だった。




(鉄籠の鬼・完)




<ここまでの新しい登場人物>

武石(たけいし) 虎継(とらつぐ)』(28)

・天竜の国(信州と甲斐の辺り)の国主で、人間側の天下統一した猛者。

 今度は人間の次に、今度は鬼を根絶して種族を越えた完全な統治を目指す。

 父親は晴虎。甲冑や鉄砲を大量生産出来る程、豊かな国を築く。

 目的の為なら、非人道的な策でも決行する。

 最新の鎧や武器に拘りがあり、西洋の技術を取り入れた特注の赤い甲冑を着込んでいる。鎧と兜は人前で脱ぐ事が無く、寝る時以外は自分の部屋でも着たまま。



『シィ』(17)

・虎継が抱える、鬼と人間を交配させて造った半鬼の兵『甲武鬼兵』のエース的存在。

 名前は実験体の雌鬼から四番目に生まれたの子で、「し(四)」を伸ばして「シィ」。尚、先に生まれた兄弟達は奇形や未熟児で、病気で早死に、もしくは兵器にならないと殺処分されている。

 顔には彼女が母親の鬼に懐こうとした時、理性を失った母親に引っ掻かれて皮膚を無くした時の傷跡がある。

 怠そうな話し方と動きをする。

 戦いを好んで暴走しそうになるが、他の甲武鬼兵の面倒を見てまとめたり、調教により虎継には従順だったり、冷静さもある。

 得物は太いトンファー。


『キュウ』(15)

・虎継が抱える、鬼と人間を交配させて造った半鬼の兵『甲武鬼兵』の一人。

 名前は実験体の雌鬼から9番目に生まれたの子なのでキュウ。

 怒りっぽく、一度暴走すると手が付けられない。

 ジュウニの事が好き。

 得物は金棒。


『ジュウニ』(14)

・虎継が抱える、鬼と人間を交配させて造った半鬼の兵『甲武鬼兵』の一人。

 名前は実験体の雌鬼から12番目に生まれたの子なのでジュウニ。

 従順で可愛らしいが、恐ろしい程空気が読めず、他人の気持ちを考えるのが苦手な頭の弱い少女。

 3人の中では一番の怪力で、人形遊びでいつも力加減が出来ずに人形を壊して泣く。

 シィに鬱陶しがられてるが、彼女を姉のように慕って懐いている。一方でキュウに好かれているが、あまり興味を持っていない。

 得物は鉄板のようなバスターソード。



菅井(すがい)』(30)

・甲武鬼兵の育成を任されている武石兵の一人。

 元々厩で馬の繁殖に携わっていたのを理由に、急に鬼の繁殖ををやれと晴虎に無茶振りされる。

 鬼と人間の交配と調教という前代未聞の仕事を任され、0から試行錯誤の繰り返しでかなり苦労してきた。

 任務遂行の為に、無理矢理暴れる雌鬼と捕虜の実験体を交配させて失敗した挙句死なせたり、非人道的な事もしたが、あくまで仕方なくして来た事であり命を軽視してる訳ではない。

 ぼやきや溜息が多い。

 ストレスが溜まる仕事なのか、常に虫籠を持ち歩き、イライラするとその辺にいた虫を籠に放り込んで戦わせて遊ぶ。



『黄環』(25)

・薄紅天鬼の薄重の娘。

 父の依頼で代理出産の仕事を請け負っている。出産や行為に関する方に才があり、身内からも他部族からも一目置かれるようになる。

 政略結婚で形だけ緋寒と結婚し、珠を産む。その時、元実が緋寒に黄環と子を成す事を強要し、また黄環も行為中に緋寒を煽ったせいで、緋寒に片腕を喰い千切られる。父の薄重は娘を傷物にされた怒りで、子供は将来渡すが同居は拒否とした。

 高飛車で仕事へのプライドがあり、見下されるのは嫌い。少し子供っぽく我儘な所もある。

 緋寒の事は、腕を奪われた事はあまり怒っていない。緋寒を悪くいうが、自分に唯一惚れなかった男なので本当は気になっていて、振り向いて欲しかった。

 珠の事は母親として愛そうとしたかったが、彼女の性格と立場故、子供の愛し方がよく分からず、からかうような事ばかりしてしまっていた。



『薄重』(見た目は30代前半、実年齢は人間だと50歳くらい)

・薄紅天鬼の族長。

 世継ぎが出来なくて困っている一族の子供を娘に代理出産させることで、有力な部族へと繁栄させた。

 女が喜ぶ淡麗な顔で、女の扱いに慣れている。

娘は20人、息子は20人(半分は朱天鬼の方で働いている)。

 妻は8人で重婚。情だけが理由でなく、戦で未亡人になった雌鬼や体の弱い雌鬼を保護する目的で招き入れた。重婚でも一人ずつ丁寧に愛すなど乙女心に配慮したこだわりがある。

 初子の薄雪を男の鬼に集団暴行されて失う。そのせいで、戦に出る事を許した自分の甘さを後悔し、教育の為なら体罰を取るようになる。

 娘を思うあまり、男を見る目は厳しい。


<お知らせ>

・いつもお読みいただき、ありがとうございますm(__)m

 失踪せず、ここまで来れたのは皆様のお陰です。(なんと言って良いやら……)

 次回からいよいよ最終章です。最後なので多分パート20くらいになるでしょうかね。

 

 そして最後という事で、

 ・各パートのプロットを書き切ってから本番制作

 ・どうしても必要な絵の制作

 ・取りこぼし確認、推敲


 などの作業で長いお時間を頂くと思います。

 毎度遅筆で申し訳ありませんが、お待ち頂けたら幸いです。

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