50 閑話 ジンクス十人十色
「……良っしゃあっ! 一発ツモォッ!」
「マジかよ!? ……リー・ツモ・一発・オモオモウラ……親ッパネェッ!?」
「うわ、良く三枚切れの辺張でリーチなんて行けるねー……」
「……点棒なくなった……」
メイ、アース、エリー、カノンの四人による、突発的麻雀大会は、親番・メイの跳満アガリによるカノンの箱割れで幕を下ろす。
現在、僕ら『超最強絶対無敵団』及び『地平天成』の八人は、『地平天成』の格納庫応接室にてミッション合間ののんびりタイムを満喫していた。MRO内で購入出来るアイテムには、トランプやチェスなどの実際に遊べるアナログゲームも用意されている。アースが入手した麻雀セット一式も、この通り有効に活用されてい
た。
「畜生……影すら踏めなかったぞ……」
「あの打ち筋で勝てるのが不思議なんだけど……」
「ふっふーん! まあ、天才メイ様に掛かればこんなもんよー!」
僕が後ろから見ていた限り、メイの打ち方は『アガリ一直線』。手役だとか、場の状況だとかを全く見ずに、只管最速のアガリを目指している。その割に鳴き――アガリ速度重視派なら、無視出来ない戦術だ――はあまり好まず、面前でのアガリにこだわるのだから不思議である。
「いやー、あたしの才能が怖いわー。この調子で麻雀プロ目指しちゃおうかし
らー。将来は年棒一億の超一流プレイヤーかもねー」
断言するが、アガるたびに毎回『じゃあ、点数計算よろしくー!』と他人に委ねるような人物に、"点数計算"問題が出る筆記テストに受かる見込みはない。あと、麻雀プロに年棒は存在しない。むしろ、競技麻雀を打つために所属団体へ会費を支払っている立場なのである。
「まあ、果敢な攻めで流れを掴んだあたしが勝利したのは必然って事で」
「むう……。ツキに見放されちゃったかぁ〜……」
「……て言うか君ら、確率論とか全く考えてないよな……」
僕がボソッと呟くと、メイとエリー二人分の視線が飛来する。
「む、何ようコウ。略して何コウ」
「略す必要あるか……?」
「勢いの問題よ。……で、あたしらの打ち方に何か文句でもあるの?」
「そーだ、そーだー」
「別に文句はないけど。ただ単に、随分オカルトチックな打ち方だなって思っただけだよ」
「オカルトなんかじゃないわよー。あたしの気合いパワーが流れを引き寄せた必然的な結果なのよ」
「ボクだって、あとちょっと気合いパワーが入ってれば、ツキに恵まれてたんだ
よー」
「良く根拠なく胸を張れるな……」
それを一般にオカルト理論と呼ぶんだけど。
「まあまあ、コウよ。ここは少し、お姉ちゃんの膝枕で落ち着くのじゃ」
「色々と言いたい事はあるんだけど、取りあえずコンクリ打ちっ放しの床で寝て
も、全く落ち着かないと思うんだ」
「ふむ……確かに。今度カーペットなり畳なりを敷いて、改めて膝枕を」
「"色々と"って前置きから、膝枕自体の拒否が大前提って事に気付いて欲しかったな」
だからもう、コンクリ打ちっ放しの床に正座待機する必要はないんだ。
「そもそもコウよ。オカルトなりジンクスなりは、運の絡むゲームには付きものじゃよ」
「だろうけどね……」
「MROとて例外ではないぞ。敵機撃破時の入手素材に、ミッションクリア時のランダム報酬。極力良いものが出て欲しいと望むプレイヤー達の間で、日々ジンクスは語られておる」
ミッションクリア時には、確実に入手出来る『確定報酬』とは別に、種類・入手量共に確率で決まる『ランダム報酬』がある。大抵の場合、ランダム報酬の方に良い素材――つまり滅多に手に入らない、貴重な素材が用意されていたりする。確かにプレイヤーの心理として、そう言ったレア素材の入手確率を上げたいと思うのは自然な事だろう。
「例えばわしの場合。弟に膝枕をしてあげたら、良い素材が出ると」
「何が何でもねじ込んでやるって意志だけは感じ取ってるよ」
だからもう、いい加減コンクリ打ちっ放しの床で正座を続けるのは止めて欲し
い。
「あー、でも確かに。あたしの場合、『欲しい素材がある場合は、逆に欲しいって思わない方が良い』っての知ってるー」
「何それ?」
「うん、例えば"高品質コンデンサー"が欲しい場合、心の中で『高品質コンデンサーなんて、別に要りませんよー』って念じるの」
高品質コンデンサーは、中々のレア素材である。僕なら是非とも欲しいって思うけど……。
「MROのシステムは、プレイヤーの意識を読み取ってわざと要らない素材を報酬で出したりするから。システムの裏をかくために、あえて逆の事考えるのよ」
サラッとトンデモ発言が出て来た。いや、確かに人の意識は脳内における電気信号のやり取りによって生み出されるものだ。『感情の働き』等を含め、脳の機能が完全に解明される日まで秒読み段階……とも言われているし、そう言う意味で外部からの解析によって"意識を読み取る"技術自体が全くあり得ない、とまでは言えないけど……。
「……何でシステムがそんな事する必要あるんだよ……」
「え? そりゃあ、簡単に素材が手に入ったらすぐに良い装備が手に入っちゃうでしょ。そしたらその分、攻略ペースが早くなる。ユーザーが飽きるのも早くなる。コンテンツ延命のためには、中々素材が出ない方が良いのよ」
「またえらく陰謀論的な……。仮に事実だとして、だったら運営が普通に入手確率絞れば良いってだけの話だろ」
「それだと今度は『中々素材手に入らない! つまんないから、もうこのゲーム止ーめた!』ってなるじゃない。……システムが逐一、出過ぎず出なさ過ぎずのバランスに調整して、プレイヤーをMROに引き付けようって策略なのよ。恐るべきアメとムチの使い分けだわ。そうに決まってるわ」
「はあ……」
「この策略に対し、プレイヤー達は知恵を絞って果敢に立ち向かってる訳よ。人の欲と擬似乱数の静かなる戦いは、今もなお繰り広げられている……」
「胡散臭いなあ……」
「良いじゃないの。ロマンがあって」
陰謀にロマンを感じる女子高生ってどうなんだ。
「ジンクスに根拠求める方が無粋だよー。コウって、中学の時から結構頭固いところあるよね」
「む……」
エリーに指摘され、口をつぐむ。まあ、確かにそんなもんか。
「てな訳で、次はボクの番だね。ボクの場合、『欲しい素材の部位にはなるべくダメージを与えない方が良い』っての知ってるかなー。……例えば、中枢ユニット系が欲しかったら頭部は壊さないように、ジェネレーター系が欲しかったら、腹部にダメージ与えないようにするの」
「あら? 逆じゃないんですか?」
サラが横から口を挟む。
「私が聞いたのは、『多くのダメージを与えた部位の素材が出やすくなる』ですけど」
「えー? サラさん、それ変だよー」
「そうでしょうか? フレーム系素材が欲しい場合、フレームをガッタガタになるまでブチかます……フレームをガタガタになるまで破壊した方が、より入手しやすくなるのでは?」
訂正の意味はあったのだろうか。僕は問いたい。
「だって、壊れちゃったら素材としての価値がなくなっちゃうよね? 実際、低品質素材の名前は『破損した〇〇』って風だし」
「いえいえ、たくさん攻撃した方が、プレイヤーの情熱をシステムが感じ取って、その部位の素材が出て来るのですよ」
「なるほど……ものの見事に正反対なジンクスですね」
ニーさんが呟く。
「推測するに、プレイヤーの戦闘スタイルに関係ありそうですね」
「ニーさん、それってどう言う事ー?」
良くも悪くも自己主張をあまりしない人だけど、その意見は結構的を射ている。全員の注目がニーさんに集まる。
「要は"点"での攻撃か"面"での攻撃か、ですよ。正確に特定部位を狙えるプレイヤーならエリーの意見に、高火力で敵機をまるごと吹き飛ばすプレイヤーならサラさんの意見に傾きそうです」
確かに、サラの〈モモちゃん〉は典型的な面制圧攻撃系のMRだ。弾丸をばら撒く事によって、複数の敵機にまとめて攻撃なり足止めなりを行う。
「でも、ボクも結構火力で押すタイプだよ? 結構サラさんと攻め方似てると思うんだけど」
「そうですね。しかし、あなたの場合狙撃……と言うと大袈裟に聞こえるかも知れませんが、特定部位だけを狙える程度の命中精度はあります。点での攻撃も出来る火力型です。その影響もあるかも知れません。まあ、あくまで僕の推測ですけど
ね」
「なるほど、そうかもねー。……カノンはどう? 何かない?」
「……一応」
エリーから話を振られたカノンは、こくんと頷いた。
「……観葉植物ってあるよね」
「うん。そこにもあるね」
部屋の隅にデンと鎮座する、名前の知らない植物を指す。
「……その葉っぱを突付くと、良い事がある気がする」
「……カノン、あれジンクスにまで昇華させたんだ……」
初めて僕らとMROで対面した時の、ロビーの葉っぱを一心不乱に突付いていた姿を思い出す。
「……ノルマは一日十回」
「おお、それなら結構簡単に出来るじゃない。これは流行るわ」
「流行ないと思う」
「……忙しい時は一回でも良い」
「しかも忙しい人に対するケアもバッチシ。このこの、商売上手ー」
「もっと儲かる商売を始めようよ」
そもそも、現金の流れが一切発生していない時点で、商売として破綻している事に気付いて欲しい。
「ジンクスなら、俺も知ってるぞ」
アースが挙手する。
「アースもか。どんなだよ?」
「おう。メニュー画面左下のタマちゃんのアイコンタッチすると、ヒントっつーかアドバイスが聞けるだろ。基本はタマちゃんが担当するけど、それたまにギンが出て来るんだよ」
「ギンなのに"タマに"とは、これいかに!」
「エリーに座布団一枚! ……その日ログインして、一番最初にアイコンタッチして出て来たのがギンだと、その日のプレイは良い素材出やすくなるって話だ」
「そーだったんだ。あのヒキガエル、刺身のツマみたいな存在だと思ってたけど、実はラッキーヒキガエルだったんだ。侮れないねー、ヒキガエルなのに」
「ああ、全くだぜ。正直、マスコットキャラはタマちゃん一人で十分、ヒキガエルとか全然要らんだろとか思ってたのに。結構やるよな、ヒキガエルの癖に」
「君らヒキガエルに何か恨みでもあるのか?」
エリーとアース、二人に仲良く罵倒されたギンの名誉回復を、切に願う。
「つー訳で、俺はログインするたびに毎回アイコンをタッチするようにしてんだ。決して断じて、タマちゃんにお触りしたいけど、ロビーとかに出てる八頭身立体映像を公衆の面前で触る勇気がなくて、仕方なくメニューのデフォルメタマちゃんで妥協してる割に、それすらジンクスですよって言い訳用意するヘタレと一緒にするんじゃねえぞ」
「半分は語るに落ちてるね」
半分である理由は、アースは恥も外聞もなく公衆の面前でタマちゃんの立体映像に触りそうだからだ。
「ジンクスと言う事であれば、僕も一つ知っています」
「おお、ニーも知っておったか」
「はい。『複数の種類のGEが標的となっているミッションでは、最後に倒した種類のGE素材が出やすい』と言うものです」
「ほう」
「例えば、〈リーゼ〉と〈サギリ〉が同時に出現するミッションを受けたとしま
す。ミッションクリア時、最後に倒したのが〈リーゼ〉であれば〈リーゼ〉の素材が、〈サギリ〉であれば〈サギリ〉の素材が、報告時のランダム報酬に出やすくなるのです」
「なるほどのぅ……」
「まあ、あくまでそんな噂を聞いたと言うだけですから」
「そーだったんですか。……聞いた、コウ? 最後に倒すのが良いんだってさ」
「ドサクサに紛れてトドメへのこだわりを正当化してるんじゃない」
話の骨格をひん曲げてまで執着する価値があるのか、トドメ。
「こうして聞いてみると、ボクの知らないジンクスもたくさんあるねー」
「プレイヤーの数だけ……は流石に言い過ぎじゃがの。確率に挑むプレイヤー達によって、日々新たなジンクスは生み出されとる訳じゃな」
「そんなもんかな」
「そんなもんじゃよ。コウも一つどうじゃ? 縁起担いで損する事もあるまい」
「う〜ん、まあ損はしないだろうけど……」
「では早速、膝枕」
「隙あらばねじ込んで来るの止めよう?」
話の間中ずっと正座を崩さなかった心意気だけは、ビタ一文で買おう。
「じゃあのんびりしたところで、そろそろミッション出ましょうか」
「そうじゃな」
メイに言葉を合図に全員が椅子(床)から立ち上がり、ミッションの準備に取り掛かった。
『ああもうっ! コウ、ジェネレーター出にくくなるから、敵機の腹部を狙っちゃ駄目だってば!』
『……〈ゴブリン〉の素材要らないから、最後に残らないようにね』
『中枢ユニットは要りません、中枢ユニットは要りません……』
「君ら人の話に影響され過ぎじゃない!?」
その後しばらく、ジンクスに固執するメンバーに苦労させられる羽目になった。




