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48 『青』対『赤』

『さて、準備は良いかな』

「いつでも」


 PVPのフィールドとして選ばれた荒野で、僕の〈叢雲〉とジュリアスの〈エクスカリバー〉は三〇〇メートルの距離を挟んで対峙する。僕の〈叢雲〉は右手にブレード、左手にショットガンを装備。一方の〈エクスカリバー〉は、両手にブレードライフルを装備させていた。


 回復系アイテムの持ち込みはなし。制限時間は五分。転送も行わなず、両者が直接相対した状態での開始……と言うルールでの勝負だ。要するに、小細工なしの真っ向勝負である。


『コウー! 我がクランのためにも気合い入れなさいよー!』

『……頑張れー』

『応援してますよ』


『どうせなら、オレも暴れたかったが……。まあ良い、油断すんじゃねえぞジュリアス』

『コウには悪いが、勝負となれば話は別だ。しっかりな、ジュリアス』

『ああ……。一対一の勝負に赴くジュリアスも素敵……』


 ギャラリーからの声援が飛ぶ。現在のみんなは、観戦用(兼・敗者用)の専用空間から、モニター越しに勝負を見守っている。


『3――2――1――』


 AI音声によるカウントダウンが始まる。西部劇でお馴染みの、もじゃもじゃとした転 蓬(タンブルウィード)が風に流され、二機のMRの間を転がって行く。


『スタート』


 口火を切ったのは〈エクスカリバー〉だ。右手のライフルブレードを構え、銃口からエーテル弾を発射。どうやら、初手から積極的に打って出るようだ。


 一方の僕は、初手で相手を中心点とした円を描くように〈叢雲〉を左に移動させていたため、回避に成功。読んでいた訳ではない。様子見のための行動が功を湊しただけだ。


 立て続けに〈エクスカリバー〉からの射撃が来る。今度は左のライフルブレー

ド。ダダダンッ! と三点バーストで放たれた実弾が、〈叢雲〉をかすめる。咄嗟にブーストで加速したお陰で避けられたけど、もしも一定速度で動いていたら、正確な偏差射撃の前に少なくとも命中判定を喰らっていただろう。


 こちらもショットガンで反撃。回避されるが、牽制出来れば十分だ。帰りの道中で動きを見ていたけど、恐らく〈エクスカリバー〉は〈叢雲〉同じく機動力を重視した機体なのだろう。


 機動力の高さは敵の射撃を回避する分には有利に働くが、こちらから射撃を当てる事に関しては少々手を焼く。ただでさえ移動中の照準は精度が下がると言うの

に、それが高速移動ともなると余計難しくなる。ましてや、的であるこちらも高機動力のMR。両機が激しく動けば、正確な照準は至難の業と言って良いだろう。


 つまり、機動力を活かしてひたすら動き続ければ、そうそう当たるものではな

い。それに、こちらが使っているのはショットガン。こと命中率と言う点に関して非常に優れた武器だ。僕の射撃の腕前を補ってくれるし、まぐれ当たりにも期待出来る。この状況を維持して〈エクスカリバー〉に射撃戦を嫌わせ、僕が得意とする接近戦へと誘い込む……これが僕の目論見だった。


 全く甘かった。


 ジュリアスの駆る〈エクスカリバー〉の射撃は、まるでこちらの動きを先読みしているかのように、正確に〈叢雲〉の動きを捉えていた。互いに動き続けている状況で、この精度。驚異的と言って良い。


 しかも、ジュリアスは両手の武器を同時に、且つそれぞれ照準を独立させて撃って来る。二つ分の照準動作を一度に行っている訳であり、操作難易度の高い技術である。


 例えば〈叢雲〉も両手に武器を装備しているけれど、"同時"に使用する事はほとんどない。射撃戦である今は左手のショットガンを使用しているけど、右手のブレードは全く使用していない。逆に接近すればブレードを主に使用して、ショットガンの出番は減る。距離によって二つの武器を切り替えて使っているだけであり、仮に同時に使用するとしても、それは至近距離での話だ。あまり狙いを付けなくても当てられる距離だから、その余裕も生まれる。


 例えばエリーの〈ワスプ〉も、両手の射撃武器を同時に使う。メイも、さっきのミッションでサブマシンガン二丁を使用した。けどどちらも、二丁分の照準を同期させた上で、同一目標に向けて発砲している。感覚的には一種類の武器を使用しているのと変わらないし、仮にそれぞれの照準を独立させて複数目標を狙う時は、操作に集中するために足を止める。それが普通のやり方だ。


 だと言うのに〈エクスカリバー〉は、二丁の照準を独立させて撃って来る。左の実弾を回避した先に、右のエーテル弾が飛んで来る……なんて事が頻繁に起こる。明らかに偶然などではない。それも、前述の通り一切足を止めずに。


 はっきり言って、相当な腕前だ。こちらは辛うじて命中判定を避けているだけであって、徐々にカスリ判定のダメージが積み重なって行く。完全に向こうにペースを握られてしまっている。


 それでも、ひたすら耐え忍ぶ。回避に専念し、隙を見て反撃を繰り返す。ブーストゲージの管理も繊細に、慎重に、大胆に。使い過ぎてゲージを枯渇させ、一方的に畳み掛けられる位なら、あえて使わず一発の命中判定を甘んじて受ける事もす

る。


 今の僕が狙うべきは、相手の弾切れだ。


 ブレードライフルはたった一つで遠近両方に対応出来る万能武器であるが、裏を返せばあらゆる点が中途半端とも言える。継戦能力の低さは特に問題だ。射撃武器としては弾数及び燃費に不安が残り、近接武器としては耐久力に不安が残る。素直に射撃武器と近接武器を両方用意した上で使い分けた方が、よっぽど長く戦える。


 ジュリアスの腕前がいくら高く、まるで無駄弾を撃って来ないとは言え、いずれ限界は訪れる。いつまでも防戦が続く訳はないはずだ。


〈エクスカリバー〉からの苛烈な射撃が、段々と頻度を落として行く。同時に、こちらの反撃機会が増える。敵機の残弾が減っているのだろう。当然、一対一のこの状況では手動リロードを行う暇などありはしない。


『良い動きじゃないか、コウ』

 ジュリアスから通信チャットが入る。


「わざわざ相手を褒めるなんて、随分と余裕があるね」

 こちらも返す。意識する事なく、敬語を止めていた。


『なるほど、気遣いは無用って事だな。……ならっ!!』

 叫ぶと同時に、〈エクスカリバー〉がブーストで一気に接近して来る。あっという間に〈叢雲〉との距離が詰められる。


 両機が接触。


 振り抜かれた〈エクスカリバー〉右のブレードライフルを、〈叢雲〉のブレードで受け流す。間髪入れず、左のブレードライフルの刃――こちらは基部に沿って展開されたエーテル刃だった――が来る。光刃の軌道に、素早くこちらの刃を割り込ませて防ぐ。鍔迫り合いに持ち込む気はないらしく、そのまま離脱して行

く。


 逃がさない。今度はこちらの番だ。ブーストダッシュで後を追う。大きな弧を描きつつこちらへと反転する〈エクスカリバー〉に、ショットガンを連射。避けられるも、若干体勢を崩している。


 その隙を突いて一気に接近。斬撃を見舞う。


 敵機は右手のブレードライフルの実体刃で受け止める。そのまま、左のエーテル刃による反撃の突き。半身を捻って回避。その勢いを利用して機体を一回転、遠心力を乗せた横薙ぎ払い。飛び退すさった〈エクスカリバー〉の胸部にカスリ判定。


 止まらずに追撃。X字の軌道を描くように、ブレードの二連撃。どちらも敵機両手のブレードで防がれる。だがこちらのペースだ。渾身の連撃を続ける。防戦を嫌ったのか、敵機は大きく距離を取って後退。こちらもその背中を追い掛ける。


 両機の進路先に、切り立った崖が壁のようにそびえていた。これは使える。敵機を追い詰める好機だ。


 崖を回り込むため左へ動こうとする〈エクスカリバー〉を、ショットガンで攻

撃。ジュリアスは右方向へと機体を振って避ける。避けたところに、更に射撃を加える。今度は左に回避。当てるのではなく、敵機の進路変更を妨害するのが目的

だ。このまま直進すれば、崖に衝突する事になるので、速度を落とさざるを得ないだろう。そこを一気に捉える心積もりだった。こちらの攻撃に構わず、強引に進路を変更するかも知れないが、ダメージを与える事に繋がるのでそれはそれで良い。


 崖が迫る――〈エクスカリバー〉は一切速度を落とさず、進路を変える気配も見せず、立ちはだかる絶壁へと向かって直進する。


(まさか……っ!!)

 直感の電撃が全身を駆け巡るのと、〈エクスカリバー〉が崖に向かって跳躍するのは同時だった。


 空中で身体を捻り、〈エクスカリバー〉は崖を背にする――カメラアイが、〈叢雲〉を睨み付ける。


 ほとんど垂直の崖に脚部が接触。跳躍の勢いで、崖を削りながら上昇する機影。重力と摩擦が釣り合い、〈エクスカリバー〉がごく一瞬、張り付いたように停止する。


 勢い良く崖を蹴る。同時にブースト。くれないの流星と化した〈エクスカリバー〉が空を裂き、〈叢雲〉へと迫る。


 反射的に、機体を投げ出すようにして避けるのが精一杯だった。速度と質量の乗った二振りの刃に、〈叢雲〉が捉えられる。


 コクピットを激しく揺さぶる衝撃と、急激なAPの減少速度から、一瞬直撃判定かと勘違いした――実際には、命中判定だった。斬撃の余波で〈叢雲〉が吹っ飛ばされ、大地を転がる。遅れて、両断された左手とショットガンが地に落ちる。


 APゲージは、一割を切った辺りで辛うじて踏み止まってくれていた。直撃であれば、一撃で撃破されていてもおかしくはない。


『獲ったと思ったが……まあ良い――』


〈エクスカリバー〉はなおも止まらない。反転しつつ、激しい砂埃を上げながら急ブレーキ。暴風となって〈叢雲〉へと迫る。


『――これで決めるっ!!』


 引けば負ける(・・・・・・)

 絶対的な確信が、僕を攻撃に転じさせた。


 強引に〈叢雲〉の体勢を立て直し、〈エクスカリバー〉へと向き直る。


 ブーストダッシュ。ゲージ残量の確認すらしなかった。


 ブレードの切っ先を真っ直ぐに敵機胸部へと向ける。〈エクスカリバー〉が機体を横に振る。回避の動きだ。逃がさない。微調整し、あくまでも進路を敵機と定める。


 これはもはや、ブレードによる刺突ではない。〈叢雲〉そのものが、必中をつるから放たれた一矢だ。


「ああああああっ!!」


 衝突。〈叢雲〉のブレードが、〈エクスカリバー〉右脇腹を貫く。命中判定。だが、撃破には至らなかった。敵機APは、ごくわずかに残っている。


〈エクスカリバー〉が、左のライフルブレードの切っ先を〈叢雲〉へと向ける。


 そのまま展開したエーテル刃を押し当て――


『ゲームセット』


 淡々としたAIの音声が、制限時間切れを告げた。


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