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47 『エスペランザ』

「――ってな事があってさ」

「へえ……そりゃまた偶然だったわねー」


 簡単な経緯――まあ、要は『今日電気屋で会った』ってだけの話なんだけど――をメイ達三人に説明した後、僕らは全員MRから降りる。直接対面して挨拶した

い、と言うのが理由だ。当然、周囲の安全はレーダーと目視で確認済みであり。


「それでは、改めまして。……俺は片岡誠至(せいじ)、こっち《MRO》では『ジュリアス』だ。機体の名前は〈エクスカリバー〉と言う」

 ……と、銀髪アバターにSF風のパイロットスーツ姿の片岡先輩――ジュリアスさん。


「私は藪澪やぶみおこと『ソニア』だ。機体は〈武御雷タケミカヅチ〉。……こんなに早く再会出来るなんて嬉しいよ、コウ君」

 ……と、ベリーショートの黒髪アバターに、ベアトップとハーフパンツ姿の藪先輩――ソニアさん。


「オレは藤本将馬(しょうま)。ゲームじゃ『セキト』、機体は〈アスラ〉だ」

 ……と、浅黒い肌にドレッドヘア、右目に眼帯を付けたアバターのセキトさん。


「私は桧山小和(ひやまこより)こと『ローザ』、機体は〈メディア・ニュクス〉です。どうぞよろしくお願い致しますわ」

 ……と、ブロンドの髪にフレームレスメガネのローザさん。


「どーも初めまして! あたしは二階堂舞ことメイです!」

「皆様におかれましては初めましてこんにちはカノンです辻帆乃香です」

「私はサラ、リアルでは吉見咲良と申します」

「僕は成田昂介、プレイヤーネームはコウです」


 僕らは順番に挨拶を行う。普通はリアルでの情報までは明かさないものなんだけど、今回は『僕がジュリアスさんとソニアさんの二人と面識があって』、『両チーム共、メンバー同士が顔見知り』であるため、全員了承の上でリアルの名前を明かす事にした。


「俺ら四人は全員、岩峰いわみねの同級生で、クラン『エスペランザ』のメンバーなんだ。僭越せんえつながら、俺がマスターを務めさせている。ええと……確か、君達のクランは

『超最強絶対無敵団』だったかな? コウ君から聞いているよ」

「そーです! あ、あたしがマスターでーす!」


(無駄に)自信満々に、メイが挙手する。


「……超最……ジュリアス、何だって?」

「『超最強絶対無敵団』だ」

「……随分ふざけた名前だなオイ……」


 呆れたように、セキトさんが言った。


「えー、そうですか? 良い名前だと思いますよー」

「いや、小学生並み……いや、良く分かった……」

「お、分かって頂けましたか」


 諦めて頂いただけだと思います。


「ああ、確かジュリアスがチラッと言ってましたわね。素晴らしい人生哲学を感じさせるクランが存在すると。なるほど、確かに素晴らしい名前ですね」

 一方のローザさんは、感心したようにうんうんと頷いていた。


 すみません、単なる深読みです。現実には『超強そう』で付けられた名前です。


「えへへー。ありがとーございまーす!」

「……でも、それにも増して素晴らしいのは、その哲学を瞬時に理解したジュリアスですわ!」


 突然、ローザさんが叫ぶ。唖然とする僕らを尻目に、頬を紅潮させ瞳を潤ませ、熱っぽい口調で続ける。


「優れた洞察力と、豊富な知識と、相手に対する深い敬意がなければ出来ない事です。ああ、流石はジュリアス。私の愛しい人」

「大した事はないよ、ローザ」


「ふふっ、謙遜しちゃって。でも、そこがあなたの数多あまたある良いところの内の一つですわ」

「良さと言うものは、それを見出す人がいてこそ意味を持つ。もしも俺に良いところがあるとすれば、それはローザ、君が俺の事を側で見てくれているお陰だろう

な」


一碧万頃いっぺきばんけいと広がる海のように、あなたと言う人間の広さ、深さ、美しさは私を惹き付けるのです。例え一生を掛けてもまだ見飽きないでしょう」

「なら僕は静かに君の側にいるとしよう。君がいつまでも見ていられるように」


「ジュリアス……」

「ローザ……」


『………………』

 何だこれ。


 周囲の何とも言えない空気を尻目に、ジュリアスさんとローザさんは手と手を取り合い、自分達の世界を突貫工事で創り上げた上で、頭の先までどっぷりと浸かっていた。


「……またか」

「……あの、ソニアさん。お二人はいつもこうなんですか?」

「ああ。……確か私は言ったはずだな? 誠至せいじは彼女持ちだと。小和こいつがそうだ」


 そう言えば、確かにそう聞いた。


「おお〜、オトナだ〜」

「……何と言いますか、当てられるとはこの事ですね……」

「………………」


 脳天気に呟くメイ、苦笑とも照れ笑いとも言えない笑みを浮かべるサラ、顔を覆いながらも指の隙間から眺めるカノン。三者三様の反応だった。


「おや。コウ君はこう思っているな。『羨ましい、僕もやってみたい』と」

「い……いえ、思ってません」


「僭越ながら、私がお相手するとしよう。では……」

「ちょ……っ!?」


 唐突にソニアさんに手を取られ、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。手の甲を細い指がするりと這うのは、僕の平静を揺るがすのに十分な感触だった。


「ふふ、どうしたコウ君。遠慮する事はないぞ?」

「い……いやソニアさん!? 何を……っ!?」


「ソニアと呼び捨てで良いぞ。私もコウと呼ばせてもらおう」

「だ、だからソニアさん、一体何をっ!?」


「ソニア、だ。さあコウ、呼んでみてくれ」

「……あ、あのっ!」


 わたわたしている僕の耳に、カノンの叫び声が届く。彼女にしては珍しい大声だった。


「うん? 君は確かカノンちゃんだったかな。どうしたんだい?」

「……あ……その……コウが困ってる……」


 消え入りそうになる声を、辛うじて聞き取れる音量に引き上げるようにして、カノンが言った。


「ふむ。そうなのかい、コウ?」

「あ……いえ、迷惑って訳では……」

「おお、嬉しいな」


「…………い……いや、その……」

「……ほほう、なるほどなぁ」


 なおも食い下がろうとするカノンの様子に、急に笑みを深めたソニアさんが、すっと僕から手を離す。


「仕方ない。カノンちゃんに免じて、ここは引いておくとするよ」


 まるで精魂を懸けた難事業でも成し遂げたかのように、カノンが深い深い溜め息を吐いた。確かに、人見知りな彼女が初対面の他人に注意するのは、相当な勇気が必要だったのだろう。僕の事を気遣っての事だろうし、後でお礼言っとかないと。


「つーか、いつまでこの妙ちきりんな空気が続くんだよ。……オイ、ジュリアスとローザ。良い加減こっち戻って来い」

「む……」

「無粋ですわねぇ、セキトは」


 問答無用にセキトさんに引っぺがされた二人が、実に名残惜しそうに離れて行

く。


「まあ、挨拶は済ませた事だし、ポーターまで戻ろうか」

「そうですね。……じゃ、MRに乗りましょうか」


 ジュリアスさんの言葉に頷き、オペレーターデバイスを操作する。


「…………」

「あれ、メイどうしました? コウとソニアさんの方を見て、難しい顔してますけど?」


「……ああ、サラ。う〜ん、いや、別にどうって事もないんだけど。ただ……」

「ただ?」

「……まいっか。何でもない」


 メイとサラの、何やら良く分からない会話が聞こえたけど、良く分からないので適当に流しておいた。






 つつがない帰り道だった。


 何しろこっちは、合計八機のMRだ。内半数(僕ら)は消耗しているとは言え、そこらの小型GE程度では全く相手にならない。システム的には僕らのチームと

『エスペランザ』の四人のチームは無関係なので、例えば僕の〈叢雲〉がダメージを与えた敵機にジュリアスさんがトドメを刺した場合、経験値や資金、素材は全て『エスペランザ』の四人のものとなり、僕らは何もなし……と言う事になる。が、僕らとしては無事に帰る事が最優先事項だし、承知の上で助けて貰っているんだから、文句などあるはずがない。


 逃げも隠れもする必要なく、適当に雑魚を蹴散らしながら進み、ポーターへと到着。僕らはセレーネへと戻った。


「お世話になりましたー!」

「手助け出来たようで幸いだよ」


 ロビー内で僕らを代表し、メイがジュリアスさん達へとお礼をする。


「そうだ、コウ君。忘れない内にフレンド登録をしておこうか」

「ああ、『今度ゲーム内で会ったら』って約束でしたからね。喜んで」


「折角だから……と言っては失礼かな? 皆さんも一緒に登録させて頂きたい」

「オッケでーす!」

「……はい」

「喜んで」


 メイ、カノン、サラから同意が返って来る。


「君らもどうだい?」


「もちろんだよ」

「まあ、減るもんじゃねえしな」

「よろしくお願いしますわ」


 ソニアさん、セキトさん、ローザさんの三人が言った。


 それぞれにメニュー画面を操作し、僕らは手早く登録を済ませたる。


「これで、君達とはいつでも連絡を取り合えるな。まあ、こっちもそこそこ忙しいから、対応が難しい時もあるかも知れないが……機会があればチームを組んでみたいな」

「忙しい? リアルでですか?」


「いや、クランの事だよ。何しろ、うちはメンバーが八〇人の大所帯だからな」

「凄っ! あたしらはまだ四人なのに!」


 八〇人と言えば、クランメンバーの上限だ。『エスペランザ』は、実は大規模なクランだったらしい。


「まあ、俺らもサービス開始当初はここにいる四人だけだったんだけどね。あれよと言う間に膨れ上がったんだ」

「羨ましいです! 是非ともメンバー集めのコツを教えて下さい!」


 じゃあまず、珍妙なクラン名を変更してはどうか。


「コツと言ってもね。いつの間にか集まったとしか……」

「何とぼけてんだよ。実力見せた結果じゃねーか」


 セキトさんが言った。


「実力?」

「対人戦《PVP》だよ。MROじゃしばしば、腕試し目的の野良試合が行われたりしてるんだよ。掲示板なりで集合掛けて、集まったプレイヤー同士で対戦するって形式なんだが、知ってるか?」

「まあ、話は聞いた事がありますけど」


「俺らも時々、参加するんだよ。チーム戦、個人戦問わず。……で、野良相手に勝ちまくった結果、俺らの名が知れ渡ってな。クラン所属希望者が増えたんだよ」

「その手がありましたか!」


 セキトさんの説明を聞き終えたメイが、天啓を得たりとばかりに叫んだ。


「……なあメイ。その手ってまさか、『あたし達も野良試合で勝ちまくれば、メンバーが集まる!』……なんて、安直な手じゃないだろうな……」

「まさか〜。第一それじゃ、名が知れ渡るまでにちょっと時間が掛かるじゃない

の」


 ああ、良かった。さしもの彼女も、そこまで安直ではなかった――


「……ってな訳で、『超最強無敵団』は、『エスペランザ』にPVPを申し込みます!」

「どう言う発想の末に出て来ちゃったんだそのセリフ!?」


 唐突にも程があるだろ!?


「ん? 名の知れたクランに勝てば、あたし達はもっと名の知れたクランになれるって事でしょ?」

「僕の想像を遥かに上回る安直さだったよこのマスター!?」


 頼むから、口に出す前にまず考えるって行為を挟んでくれ!


「すすす、すみません! 僕らのマスターは、普段はちょっと残念な子なんですけど、時々凄く残念な子になるんです! どうかお気になさらず!」

「良いよ。勝負を受けよう」


 慌てて弁解する僕に、ジュリアスさんはサラリと言ってのけた。


「い、いやでも!」

「挑戦者は大歓迎だよ。とは言え、俺らはこの後に予定がある。まだ時間には余裕があるとは言え、チーム戦では長引いてしまう可能性がある。……そこでどうだろう。互いに代表者を出し合っての、一対一の勝負と言うのは」

「受けて立ちます!」


 即答でメイが答える。


「ありがとう。……それでだな。これは俺のワガママみたいなもんだが……」

 そう言うとジュリアスさんが僕を指差し、


「俺はコウ君との勝負を所望するよ」

「……へ?」


 な、何で僕? 普通こう言う時は、マスター同士の戦いになりそうなものだけ

ど……。


「一体、なぜ……?」

「なぜ……と言われても、理由らしい理由はないな。強いて言えば、俺なりの握手みたいなもんさ」


 にわかに、ジュリアスさんの口の端が釣り上がる。


「店では立場を考えて遠慮したが、こうしてゲーム内で出会って、フレンド登録も済ませた。これで俺と君は友であり、同時にライバルでもある。ゲーム内では対等の立場だ。……だったらまず、本気でやり合いたい。ゲーマーとして」


 好戦的な笑みだった。それも、陰湿なものなど一切感じさせない、勝負者としての笑み。


「当然、無理にとは言わない。どうかな、コウ君……いや、コウ。俺と勝負してくれるかな?」


 なるほど。これが"ゲーマー"ジュリアスさんの『歓迎の握手』か。


 だったら、受けない訳には行かない。


「分かりました。……みんな、良いかな?」

「ふっ……。水を差すのは無粋ってモンよ……」


 一応確認を取ると、メイは静かにサムズアップ。カノンとサラも無言で頷いていた。


「決まりだな。手加減はしないよ、コウ」

「こちらこそ、ジュリアス《・・・・・》」


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