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46 ミッション終了、そして帰り道

 おめでたいファンファーレがコクピット内にプカプカと鳴り響き、スクリーンに『Mission Complete!』の表示が浮かぶ。周囲に残っていた取り巻き〈ゴブリン〉達も、大将ロードがやられたと知るや、僕らをほっぽって何処いずこかへと散って行ってしまった。


『……コウ、大丈夫?』

「見ての通り。APなら、しっかり二割も残ってるよ」


 心配してくれるカノンに、〈叢雲〉の手を軽く掲げてみせる。


『しっかし無茶したもんねー、敵のど真ん中で武器取り出しなんて。実際、雑魚から攻撃受けてたし』

「いや、タイミング的に行けるって思ったんだよ。あくまでも体感だけど、〈ゴブリンロード〉が振り向くまでの時間と、エーテルソードの取り出しに掛かる時間を比べてさ」


『まあ、気持ちは分かるわよ。なんたって、ボスへのトドメはゲームの華だし。あたしにトドメ刺されそうだったから、焦ったんでしょう?』

「うん、僕の気持ちを勝手に捏造しないで欲しいな」


『ごめんねー、でも早い者勝ちって事で。また次回があるわよ』

「しかも、何さりげなく自分がトドメ刺した感出してんだ」


『……何してるんですか、皆さん。早く逃げて行った奴らを地の底まで追い詰め、一体残らずスクラップに』

「そしてサラ。獲物を探し求めるよりもまず、君の本来の心を探し求めてくれ」


 みんながいつも通り過ぎる。


『……でも、手強い相手だった』

『ええ……ホントにね』


 流石は大型GE、と言ったところか。幸いにも全機健在でのミッションクリアだったけど、一歩間違えれば全滅の可能性だって十分にあり得た。


『だけど、勝てたわ。あたし達の腕前は、もう十分に成熟してるって証ね。これで我が『超最強絶対無敵団』は、また一歩テッペンに近付いたってもんよ』

「大袈裟な……」


 たかだか一つのミッション攻略した位で。


『ふっ、今のあたしは機嫌が良いわ。生意気な口を聞く事も許しましょう……』

 どこの悪の親玉だ。


『くっくっく……見ていなさい、MROの全オペレーターよ。いつかこのメイ様こそが、あなた達の頂点であると言う事を知らしめる日が――』

『あの〜』

『……何よう。今良い感じの雰囲気だったのに』


 順当に悪の道へと堕ちつつあった我らがマスター殿を、正気に戻ったサラの言葉が食い留める。


『帰りはどうしますか? みんな結構消耗してますけど……』

『…………あ〜……』


 全くもってその通りである。セレーネへと戻るためには、ポーターまでのあの長〜い道のりを、再び辿らなければならない。


 当然、現在の僕らは来た時に比べて大幅に消耗している。


 APも減ってはいるが、それに関してはリペアユニットがまだ少し残っているので、まあ大丈夫だ。ENの方も、ほとんど使用しない僕とカノンはほぼ関係なし。多用するメイも、回復用の『エネルギーチャージ』も一緒に用意して来ているからOK。割と消費していて、回復用アイテムを用意していないサラがやや注意、な位か。


 問題は弾薬の方だ。全員が全員、かなり消費しており、到底余裕のある状態とは言えない。〈フリューゲル〉及び〈モモちゃん〉のミサイルもほぼ、あるいは完全に弾切れだろう。一戦、二戦程度ならまだ耐えられるだろうけど、かと言って容易く切り抜けられる、などとは決して言えない。


『……ま、まあ大丈夫っしょ! 行きも戦闘避けて進んで来たんだし、帰りも同じ調子で行けば!』

「理屈の上ではそうだけどね……」


 心理的にはそうじゃない。行きは、弾薬を『なるべく使いたくない』だけであって、『使えない』と言う訳ではなかった。仮に戦闘に巻き込まれても、勝算そのものは十二分にあった。


 一方、消耗した状態での帰り道は、弾薬不足が思いっ切り響く事になるだろう。最悪弾薬不足でまともに戦えない状態に陥る可能性もある。って言うか〈叢雲〉のショットガンの弾倉、あと一つしか残ってないし。破壊されたショットガンそのものは『メンテナンスユニット』で直せるけど、弾はセレーネに帰らない限り、どうにもならない。


『……一応、この辺りを探索すれば、運良く帰還用の端末型ポーターが見付かる可能性も……』

「いや、探索は余裕のある状態でやった方が良い。今の状態では、流石にバクチが過ぎる」

『それ、ついさっき実戦でバクチ打ったコウが言うセリフなのかしら……』


 普段から『イチかバチか!』とか言ってる君に言われたくはない。


『まあ、気を付けて帰るしかないでしょ。どーせ取れる手段なんて、あんまりないんだし』

「そうだね……」

『そう言う訳でみんな。今の内に準備を済ませて、パパッと帰りましょうか』


 メイが言った。






『――んでもって、何でこうなるのかしらねぇっ!?』


 平原の緑の上で三体の〈リーゼ〉と一体の〈サギリ〉に追い掛け回されながら、僕はメイの悲鳴を聞く事となった。


「って言うか、どう考えても君のせいだろ!? 折角〈グリムリーパー〉のレーダーに反応あったのに、『だいじょぶだいじょぶ、このルートのままでも多分見付からないって!』……とか言って止める間もなく突っ込んだ結果、この通り見付かったんじゃないか!」


『って言うか、どう考えてもコウのせいでしょ!? あたしが折角ギリギリ見付からないルート選んで突っ込んでったのに、勝手に見付かったって早とちりして、援護と称して当たりもしない距離からショットガンをバカスカ撃った結果、周囲にいた奴まで引き寄せちゃったんじゃないの!』


「そもそも〈フリューゲル〉のステルス性なんてそんな高くないんだし、ギリギリのルートを選ぶ事自体に無理があるだろ!?」

『外から見ればね! あたしの愛機の事は、あたしが一番良く知ってるの! 全っ然、無理なんかじゃないって分かってたのよ! 敵に聞かれる可能性考えずに、ド派手に銃声響かせるようなどっかの誰かさんと違って!』

「そりゃあ悪かったね! 普通に考えれば分かりそうな事をまるっきり考えないで暴走する、どっかの誰かさんに対する理解が足りなくて!」


『何よぉっ!!』

「何だよっ!!」


『……二人共。『五十歩百歩』って言葉知ってる?』

『……お二人共。『目糞鼻糞を笑う』って言葉知ってますか?』


 聞くに堪えない言い訳に混ざって、呆れたような声色が通信チャットを通じて僕らの耳に入る。取りようによっては、まるで僕とメイが同レベルだと言ってる風にも聞こえるけど、きっと気のせいだろう。


『ぎゃーーっ!? 撃って来たーーっ!?』

「見りゃ分かるよ!! ああもうっ!!」

『……いっそ応戦する?』


 カノンが尋ねる。


 しかし、消耗している状態で中型GE四機を相手にするのは少々骨だ。よしんば勝てたとしても、今度こそ完全に弾切れとなってしまうだろう。


「いや、逃げよう! そう遠くまでは追って来ないはず――」


『そこの方々。援護が必要ですか?』

 僕の声に割り込むように、オープン通信チャットが入って来た。マップを見れば、味方機を表す青い光点が三つ、少し後ろに一つ。スクリーンを見れば、前方にMR三機の姿。


『……良いよね!?』

「異議なし!」


 議論の暇も余地もなく、即答する。


『お願いしまーす!』

『了解。みんな、頼むよ』


 直後、三機の背後方向から飛来した弾丸が、青白い尾を曳きながら僕のすぐ右脇を抜けて行った。反射的に背後を振り向くと、腹部を境に上半身と下半身が泣き別れとなった一機の〈リーゼ〉が、ゴロゴロと地面の上を転がるのが見えた。


 目を見張る僕らの脇を三機のMRがすり抜けて行き、敵機へと向かって行った。


 一機は紫色の機体だった。一つ目(モノアイ)でホバー脚の重量系MR、と言えば〈モモちゃん〉を彷彿とさせるが、パッと見た感じでは火器が見当たらない。|両腕部に中型のシールドが取り付けられている事から、防御重視の機体であろう事は予想出来るけど、目に見える装備はそれだけだ。〈リーゼ〉からの射撃を両腕のシールドで防ぎながら、ブーストダッシュで突進して行く。


『おらよっ!』


 荒っぽい叫びと共に、拳を――正確には、シールドのふち部分を――〈リーゼ〉の胸部へと叩き込む。重い打撃音から間を置かず、ガァンッ! と一際大きい音が重なる。シールドの裏側に取り付けられた鉄杭が、敵機の装甲を穿ち貫く音だった。


 あれはパイルバンカーだ。エーテルの力で射出した鉄杭で敵機を突き刺す近接武器の一種であり、癖は強いが非常に高い威力を持つ。紫のMRの動きは、あの極端ピーキーな武器の特性を把握し使いこなす、熟練者の動きだった。


 紫のMRの背後から、一機の〈サギリ〉が迫る――


『ほらセキト。後ろがお留守になってますわよ』


 女性の声と共に、黒いMRが六つのカメラアイを妖しく灯らせ、大型のサイズを両手で振りかぶる。刃音もなく、まるで空気と空気との隙間を通したように鋭く振り抜かれた一閃は、〈サギリ〉の頸部けいぶを正確に捉え、首を飛ばす。さながら生を刈り取る死神のような、冷徹さと鮮やかさを伴う一撃だった。


『後は一機か』

 最初に僕らに話し掛けて来た声の主が呟く。


 残った〈リーゼ〉に向かって、赤い二つ目(ツインアイ)の機体がブースト。敵機のライフルによる攻撃を、ほんの少し機体を横にずらして回避。当たるか否か、紙一重の差を完全に見極めているような動きだった。


 両手に持っている火器の内、右手の武器を構える。ブレードライフルと言う、銃と剣とを一体化させた武器だ。実体剣剣先の銃口からはしったエーテルの閃光が、

〈リーゼ〉を突き刺す。止まらずに接近。ブレードライフルを振るう。切り上げられた刃が敵機を両断、草原にまた一つ、鉄の屍が横たわった。


 無駄な動きを一切排したかのような、全く淀みのない手際だった。紛れもなく、達人級の腕前だ。


 ほんの短時間の内に、四機の敵GEを片付けてしまった。このチームが相当な実力者の集まりである事は、疑いのない事だった。


『あ……ありがとうございました!』

『いや、気にしないで良いよ。俺らはこれから帰りでね。そう難しいミッションじゃなかったし、弾薬は十分に余っているからな』


『そうだったんですか。いやー、あたし達もちょうど大型GM戦からの帰りでし

て。弾薬が足りなくって困ってたんですよー』

『そうだったのか。……何だったら、俺らと一緒に帰るかい?』


『え、良いんですか!?』

『構わないよ。……みんなも良いかな?』


 そう言って、赤い機体が仲間達の方を振り向く。どうやら、彼がチームのリーダーらしい。


『お前って、本当お人好しだよな……。まあ、別に良いけどよ』

 紫の機体のオペレーターが、どうでも良さそうに言う。


『良いですわよ』

 黒い機体のオペレーターが、丁寧な声で言う。


 三機の元に、ダークブルーのMRがホバー移動でやって来た。多分、最初に遠距離狙撃で〈リーゼ〉を撃破した機体だ。肩に担いだ、大型の火器。あれはレールガンだ。電磁力で弾体を加速させて撃ち出す武器で、扱いづらい代わりに威力、射程共に極めて高い実弾系の射撃武器である。


『私も構わないぞ、ジュリアス(・・・・・)

『ああ、ソニア(・・・)。相変わらずお見事だね』


 通信チャットの向こうから聞こえた名前に、思わず耳を疑った。


 最近――と言うか、ほんの数時間前に聞いた覚えのある名前だった。


 慌ててメニュー画面を開いて、相手のプレイヤーネームを確認してみる。僕の聞き間違いと言う事もなく、確かに二人は"ジュリアス"と"ソニア"だった。


『じゃあ、決まりだな。早速――』

「あの、ちょっと良いですか?」

『ああ、どうしたんだ?』


「あー……僕のプレイヤーネーム。コウって言います」

『ん? ……あれ、もしかして――』

「お二人共、YAMANA電気ではお世話になりました」 


 僕が言うと、通信チャットの向こうから二人が息を呑む気配が伝わて来た。


『……ああ! 君はコウ君か!』

 赤い機体――ジュリアスさんが、にわかに声を弾ませた。


『……驚いた。まさかコウ君とこんなにも早く再会出来るとは』

 ダークブルーの機体――ソニアさんが嬉しそうに言った。


『……あれ? コウ、知り合い?』

「ああうん。実は――」


 疑問符を浮かべる三人に、僕は説明をした。


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