45 逆転
※途中、視点変更があります。
敵機にだって、リロードって概念はある。〈ゴブリンロード〉銃腕の総弾数がいくら多くったって、無限って訳じゃない。普段の戦闘は比較的短時間で片が付くからあんまりないけど、長期戦となれば敵機が弾切れを起こす事だってある。戦闘開始からここまでずっと、補給もせずにバカスカ撃ち続けていたんだから、そりゃあ弾切れになって当然だ。
〈ゴブリンロード〉が弾倉交換を行う。銃腕にくっついてた、何かボトルみたいな奴――ええと、ドラムマガジンって言うんだっけ? とにかくそれを外して、新しいのを実体化させている。
もちろん、隙だらけ。物陰に隠れて、安全を確保してからリロード……なんて事すらしない。細菌兵器によって外部から無理矢理に操られているAIは、処理に対する負荷が常に掛かっていて、本来の性能を発揮出来ない。そのため、現実のAIなら行えるような柔軟な思考が行えない、って設定だ。
この大チャンスを見逃すあたしではない。〈フリューゲル〉の姿勢を整え、エーテルキャノンをしっかりと構える。狙いは雑魚の〈ゴブリン〉。どうせ後でまた呼び出されるんだろうけど、一時的にでも数を減らしておけば、その間に体勢を立て直しやすくなる。
まずはカノンの近くにいる一機。ここからだと結構距離が離れていて、当たるかどうかは分からないけど、邪魔が出来ればそれで十分だ。
射撃。ぶっといエーテルのビームがバビューンと飛んで、〈ゴブリン〉に上手い事命中してくれた。凄いぞあたし。明日からスナイパーに転向しようかな。
「急いで……てぇっ!?」
近くにいた〈ゴブリン〉が〈フリューゲル〉に向けて撃って来た。ブーストで避けたいところだけど、一度ブーストゲージが空になってしまったら、ゲージが完全回復するまで使用が不可能だ。サイドステップを使って、ギリで回避。
別の〈ゴブリン〉から射撃。エーテルシールドで防御。咄嗟の事だったから防御判定は小成功で、少々のダメージが入る。更に別方向の〈ゴブリン〉からも射撃が飛んで来る。回避も防御も手一杯で、対処が出来ずにそのまま命中。APもEN
も、本格的にヤバい水準になってる。
EN消費が少ないエーテルソードで蹴散らしたいところなんだけど、ちょっと距離が足りない。近付こうにも、まだブーストが使えない。やむを得ないから、キャノンで反撃。命中して一機撃破。うわ、もうキャノン一発分のENしか残ってないじゃない。
その間にも、敵の攻撃が続く。キャノン最後の一発をお見舞いして一機を片付ける。もう一機の〈ゴブリン〉の銃口が向く。
ヤバい。もう打つ手がない。回避する暇もない。
雑魚敵にやられるなんて嫌だ。いや、撃破される事自体が嫌なんだけど、散るならせめてボス敵と真っ正面からぶつかって、カッコ良く派手に散りたい。〈ゴブリン〉にジリジリ追い詰められた末に撃破なんて、微妙に締まらない。
辛うじて機体の左手を動かして、防御の姿勢を取らせる。エーテルシールドもEN切れで使えないし、ほとんど意味のない行動だけど、そうするのが精一杯だっ
た。
射撃――が来なかった。
あたしを撃とうとしていた〈ゴブリン〉の胸元から、ブレードの切っ先が突き出た。APが空になって、そのまま敵機は動かなくなった。
「もう……」
それだけで確信した。
「ほんっとギリギリだったわよ、コウ」
『そりゃどうも』
いつもの微妙に皮肉めいた口調が、最高に頼もしく思えた。
「そりゃどうも」
〈ゴブリン〉からブレードを引き抜き、僕は言った。まあ確かに〈フリューゲル〉は満身創痍と言って良い状態だ。折角〈叢雲〉の復活が間に合ったと言うのに、直後に〈フリューゲル〉が撃破されたんじゃ、戦況的にまるで意味がない。
取り敢えず、僕がやるべきは一つ。
「メイとカノンは下がって回復! サラは引き続き〈ゴブリン〉を叩いて!」
素早く〈ゴブリンロード〉を確認。ちょうどリロードを終えたところだった。
「〈ロード〉の足止めは僕がやる!」
『……お願いね! あたしもすぐ復帰するから!』
『……無理しないで』
『さあ次ぃっ!! ガンガン来なさいっ!!』
退避の指示に、二人からの返答。すっかりヒートアップしている一人は聞いているのかどうか判然としないけど、もう好きにやらせよう。
今の〈叢雲〉の状態は決して万全とは言い難い。APは五割だし、ブレードの耐久値も減って来ている。何よりもあの時の攻撃で、ショットガンが破壊されてしまった。つまり現在、遠距離への攻撃手段が全くない。メンテナンスユニットを使用すれば破壊された武器を直す事は出来るけど、生憎とそんな暇はなさそうだ。
なら、インファイトに徹するまでだ。
〈ゴブリンロード〉が動く前に、僕は一気にブーストダッシュ。背面へと駆け抜けながら、ブレードで右の足首を斬り付ける。
動きを止めず、即座に反転。今度は左のふくらはぎに斬撃。追い払うように振られた銃腕をバックステップで回避。避ける間際に加えた追撃で、カスリ判定を追
加。
ブーストゲージを確認。まだまだ余裕はあるけど、ここからしばらくはゲージ管理が重要になる。ブーストを使わず、ステップのみで一旦距離を取る。
〈ゴブリンロード〉右手のナタ攻撃。袈裟に振るうような軌道でアスファルトに叩き付けられた刃は、事前に十分な距離を取っていた僕の元には届かなかった。
普段なら、次の動作へと移る前段階である今こそが好機……と攻め掛かるところだけど、味方が立て直すための時間稼ぎが僕の役目だ。無理攻めはせず、ゲージ回復に努める。
付かず離れずの距離を保ったまま動き続け、敵機の様子を窺う。左の銃腕が動
く。射線を掻い潜り、素早く懐に飛び込む。〈叢雲〉の右横で発砲音とマズルフラッシュ。捨て置いて突進、右足を斬る。返す刃でもう一撃。そのまま背後へと抜ける。
抜けた先には、背中を晒す〈ゴブリン〉が一体。迷う事なく斬り捨てる。サラが盛大に暴れた結果だろうか、もう随分と取り巻きの数が減っていた。
『鈍いわねっ!!』
当のサラは、回復のついでに取り出しておいたらしいエーテルバズーカを構え、一体の〈ゴブリン〉へと発砲していた。球状に形成されたエーテルの塊が着弾、凝縮されていたエネルギーが開放される。爆発のように広がるエーテルの奔流が、直撃判定の〈ゴブリン〉を跡形もなく消し飛ばした。
エーテルバズーカは、エーテルキャノンに比べると弾速が遅く、若干当てづらい武器だけど、その分威力は高い。ガトリング砲の残弾も少なくなっていたし、用意していた武器に切り替えたのだろう。
〈モモちゃん〉がナックルガードを装着した左の拳を〈ゴブリン〉の胴体にえぐり込ませるを見届けて、僕は〈ゴブリンロード〉へと向き直る。右肩を内側に――胴体側に向けて大きく捻る背中が見える。
攻撃の予兆と勘付いた僕は、ゲージを惜しまず、ブーストで大きく距離を取る。次の瞬間、捻った力を利用した振り向きざまの半回転斬り。大気を引き裂く荒々しい太刀筋が、間一髪で〈叢雲〉をかすめる。
銃腕での追撃が来る。回避直後に受けた近距離射撃を、かなりきわどいタイミングで横に飛んで避ける。普段なら、下がりつつ牽制射撃……と行くところだけど、今の〈叢雲〉では不可能だ。
銃撃は止まらない。APが減った影響か、〈ゴブリンロード〉の行動パターンもより攻撃的になっている。ビルの影に入って、銃弾を遮蔽。砕けたコンクリートがバラバラと飛び散る。
銃撃が止む。〈ゴブリンロード〉の咆哮が響く。"仲間呼び"だ。あちこちの建物の影や屋上から、追加の〈ゴブリン〉がわらわらと姿を現す。仲間を呼ぶのは一回きり、なんて思ってはいなかったし、むしろ数が減った今こそが使い時だろうと理解は出来る。が、分かっていても顔をしかめたくなる。面倒な事この上ない。
動き出す前の〈ゴブリン〉を一体片付ける。素早くビルの影から飛び出す。僕とサラの二人でこの数を捌き切るのはキツい。早い内になるべく減らしておかない
と――
そう思った直後、一体の〈ゴブリン〉がどこからともなく飛来した弾丸に、頭部を吹き飛ばされた。
『……お待たせ』
カノンからの通信。スクリーンの表示を見れば、〈グリムリーパー〉のAPはほぼ全快している。良かった、回復し終えたようだ。
「助かったよ!」
『あたしも復活!』
メイからの通信も続く。
『さあ、反撃開始よ! みんな、やっちゃいましょう!』
返事を待たず、〈フリューゲル〉のエーテルキャノンが砲口を瞬かせる。鋭い光条が、〈ゴブリンロード〉に直撃。畳み掛けるように、〈モモちゃん〉のエーテルバズーカと〈グリムリーパー〉のスナイパーライフルが唸りを上げる。三機による集中砲火に耐え切れず、〈ゴブリンロード〉が大きく姿勢を崩す。これまでに、僕らが蓄積させて来たダメージが響いているのだろう。一度は傾いた形勢が、持ち直すどころか今や完全に逆転している。
なら僕のするべきは、周囲の〈ゴブリン〉退治だ。三機が攻撃に集中出来るように、数を減らしておこう。
僕らを取り囲むように迫る〈ゴブリン〉の一角へと、〈叢雲〉を突っ込ませる。射撃は来なかった。この〈ゴブリン〉達は、親玉からの指示で連携を取るが、親玉の体勢が崩れ、指示を出す余裕のない現在ではそれをしない。むしろ、普段よりも動きが鈍い位だ。要するに、"指示待ち"状態なのだろう。遠慮なく付け入らせて貰おう。
ほとんど棒立ちの〈ゴブリン〉相手に、逡巡なくブレードを打ち振るう。一機を真っ向から唐竹に割り、一機を胴体の真ん中を筒に斬り、一機を逆袈裟に斬り上げる。いずれも直撃判定。撃破エフェクトを確認する事もなく、次の獲物を見定め
る。思い出したかのようにサブマシンガンを構える一機へと、地を這うような軌道で接近。まずは足を払うように斬る。倒れ込んだところで、ブレードを胸の真ん中へと突き立てた。
『……来るよ』
カノンからの通信に、〈ゴブリンロード〉が体勢を立て直さんとしている事に気付く。
「周りに注意して!」
叫びつつもう一機を片付け、ブースト。〈ゴブリンロード〉の脇を抜け、メイ達の周辺にいる〈ゴブリン〉へと斬り掛かった。
二機の〈ゴブリン〉を倒した辺りで、別の二機が僕に銃口を向ける。親玉が体勢を立て直したお陰で、動きも元通りになったらしい。今から回避は難しい。ガントレットを構え、防御姿勢。
〈ゴブリン〉達が発砲――する前に、横合いから計四発のミサイルが突き刺さっ
た。着弾点を中心に噴き出す炎が敵機を完全に包み込み、内部フレームも余さず焼き尽くす。
射線を辿る。〈モモちゃん〉からの攻撃だ。
「助かった!」
『あはははははははっ!! 本っ当に愉しいですねぇっ!!』
あ、これ多分僕を助けようとした訳じゃないな。
この戦いが終わったら、どうかいつもの優しいサラが戻って来ますように……と心の短冊に記しつつ、周囲を見渡す。〈ゴブリン〉の密度もちょっとは減って来ている。もちろん、離れた場所にまだ少なくない数が残っているけど、しばらくは無視して大丈夫そうだ。
ならばそろそろ、〈ゴブリンロード〉への攻撃に参加しよう。ブレードの耐久値も危ないから、これ以上雑魚相手にあまり使いたくないし、何より遠距離攻撃の手段を失っている今の〈叢雲〉で、これ以上〈ゴブリンロード〉から離れる事は避けておきたかった。
そう思って、〈ゴブリンロード〉を見据える。
(……っ!)
〈ゴブリンロード〉が遠方の〈グリムリーパー〉を睨み付け、ナタを持った右手を大きく振りかぶる動作をする。
見覚えのある動き。間違いない、投擲だ。悪い事に〈グリムリーパー〉は狙撃体勢を取っていて、すぐには動けそうにない。直撃すれば、一撃即死があり得るだろう。
させるか。
全ゲージを使い切るつもりで、〈叢雲〉をブーストダッシュさせる。狙うは〈ゴブリンロード〉の踏み込み足――即ち、左足。
左足に体重を乗せ、今まさに得物を投げ付けようとする――瞬間、機体ごと叩き付ける勢いで、敵機左足にブレードを突き立てる。
衝撃と衝突音。〈ゴブリンロード〉の体勢が崩れる。強引な使い方に、遂にブレードが耐久値の限界を越え、切っ先を深々と装甲に食い込ませたまま、真っ二つにへし折れる。
投擲。バランスの崩れた状態で放たれたナタは、〈グリムリーパー〉の遥か手前で地面に突き刺さる。アスファルトを激しく砕きながら進んだナタは、途中で跳ね上がり、耳障りな金属音をかき鳴らしながらバウンド、〈グリムリーパー〉の側面を通過して行き、そのまま道路の上に転がっていった。
丸腰状態となった〈叢雲〉は、敵機の股下を潜って背中側へと抜ける。本来ならば一旦物陰に隠れて、破壊されたショットガンなりブレードなりをメンテナンスユニットで修理するのだろうけど――
スクリーンに映る〈ゴブリンロード〉のAPが目に入る。もう一割もない。あとほんの一押しで仕留められる。
行ける。
ほとんど無意識に、僕の手が動いていた。メニューからメインストレージ画面を開く。エーテルブレードを選択。
道路上を滑りながら、〈叢雲〉の手元で武器の実体化エフェクトが灯る。摩擦で止まった機体が、戦場のど真ん中に取り残される。
武器を取り出している最中のMRは、動く事が出来ない。一機の〈ゴブリン〉からの攻撃。避けようもなく命中。一切構わなかった。今の状態でも、雑魚の攻撃なら少しは耐えられる。
〈ゴブリンロード〉が振り向く。〈叢雲〉を標的に定めている。背後から浴びる
〈フリューゲル〉と〈グリムリーパー〉による攻撃にも、怯む様子はない。
〈叢雲に〉銃腕が向けられるのと、エーテルソードの取り出しが間に合うのは同時だった。
エーテルの刀身を展開。ブースト。弾けるように〈ゴブリンロード〉の胸元へと飛び込む。
斬撃。同時に敵機の発砲音。
砲口から飛び出した直後の弾丸とマズルフラッシュを割って、エーテル刃が砲身に接触。そのまま、銃腕を二つに裂きながら前進。肘関節に当たる部分を抜け、
〈ゴブリンロード〉の胸部へと先端部が突き立てられる。
APゲージ、ゼロ。
断末魔の咆哮。〈ゴブリンロード〉の各所から火花が吹き出し、膝から崩れ落ちる。〈叢雲〉を離脱させる。
轟音を上げ砂埃を上げ、巨体が地に倒れ伏す。
ミッション完了。




