44 苦境
※途中、視点変更があります。
「ああ、くそ……」
撃破された〈叢雲〉のコクピット内で、誰にともなく吐き捨てる。
『待ってて、コウ! 今すぐに――』
通信から届いたメイの声も、すぐに中断される。スクリーンを見れば、〈ゴブリンロード〉からの射撃を回避している〈フリューゲル〉の姿が確認出来た。映像の縁部分が赤く明滅してこそいるが、映像そのものが消える訳ではないから、外の様子を確認する事は可能だ。
「焦らなくて良いから!」
そう答えておく。撃破されていても、通信を行う事は可能だ。
乗機のAPをゼロにされた今、僕に出来る事は三つ。
一つは、メニューウインドウを開き『回収』を選ぶ事。セレーネに救援要請を出す事により、回収班に機体とオペレーターを回収して貰う――と言う具合だ。その場合、後の事は残りの三人に任せ、僕一人だけでセレーネへと帰還する事となる。チームを抜けた扱いになるから、セレーネで三人の帰りを待つも良し、一人で別のミッションに挑むも良し。自由に行動する事が出来る。
ただし、仮に所属チームがミッションを成功させたとしても、僕だけは成功扱いにはならない。
一つは、同じくメニューから『回収』を選び、機体だけをセレーネに送り返す
事。オペレーターである僕は引き続き、チームと行動を共にする。『行動を共に』……とは言っても、もちろん生身のままでMRに乗った彼女らに同行するのは無理がある。だから実際には、『撃破者専用の空間に送られ、そこからチームメンバーの戦いを眺める』……と言う形式になる。
こちらの場合、仮にチームメンバーがミッションを成功させた時、僕も成功扱いになる。ただし、セレーネに帰還するまでほぼ何も出来なくなる。そして、上記いずれの場合でも、撃破ペナルティは受ける事となる。機体修理費を支払い、ミッション中に得た素材なんかもランダムで失う。
最後は『リヴァイブユニット』によって、味方に機体を復活させて貰う事。成功すれば、すぐに戦いに復帰出来る。撃破ペナルティも受けないし、三つの中で一番望ましい選択肢だ。ただし、リヴァイブユニットはそこそこ高価で、更に一機につき一つしかストレージに入れる事が出来ない。
当然、僕らはこの状況を想定して、みんなそれぞれに一つずつリヴァイブユニットを用意して来ている。僕としてはすぐにでも〈叢雲〉を復活させて貰って、戦線に復帰したいところだ。
けど、そう簡単には行かない。何よりも、撃破された場所が良くない。遮蔽物の存在しない道路の上なのだ。リヴァイブユニットは、取り出すにも使用するにも、小さくない隙が出来る。周囲の安全を確保せず無理に僕を復活させようとすれば、ミイラ取りがミイラに……なんて事になるだろう。
スクリーンに目を移す。撃破された場所から機体を動かす事は出来ないけど、カメラを操作して機体周囲の様子を見る事は出来る。
四人で均衡を保っていた戦況は、僕が抜けた事で不利に傾きつつある。〈フリューゲル〉と〈モモちゃん〉は、〈ゴブリン〉達の妨害に耐えながら、必死に〈ゴブリンロード〉の猛攻をかわしている。〈グリムリーパー〉は自機APを回復する暇も与えられず、ひたすら〈ゴブリン〉から逃げ回っている。
完全な守勢だ。このままヤスリで削られるように、じりじりと消耗して行って全滅……と言う未来が見える。
〈ゴブリンロード〉がズシン、ズシンと重々しい歩調で撃破された〈叢雲〉の元へとやって来た。先程投擲したナタを回収するためだろう。
深々と地面に突き刺さっていたナタを掴み、抜き取る。そのまま、〈フリューゲル〉へと向かって銃腕で射撃を開始する。よりにもよって、僕のすぐ側で戦わなくても。
もっとも、今の僕に出来る事はない。みんなが何とかしてくれるのを、ただ待つしかなかった。
撃破された〈叢雲〉のすぐ側に陣取って、〈ゴブリンロード〉があたしに向かって銃になってる左手で撃って来た。
慌てず騒がず、カッコ良く華麗に回避! ……と行きたかったところなんだけ
ど、ちょうど〈フリューゲル〉は〈ゴブリン〉達の攻撃を避け終えたところだったから、そこから更に動くのはちょっと無理があった。仕方ないから、左腕のエーテルシールドで防御する。まあ、ズビッ! と展開させたエーテルの盾で、間一髪防御! ってのも、それはそれでカッコ良いのでOKだ。
だけど相手は大口径の弾丸、シールドの性能的にダメージを完全には抑え切れ
ず、APが減らされる。少しとは言え、このジリ貧な状況ではあんま喜ばしい事じゃない。
すぐに別方向の〈ゴブリン〉達が、あたしに向かって撃って来た。頑張って避ける。反撃……と行きたいところなんだけど、あたしが今装備しているのはエーテルキャノンだ。でっかくて威力のある素敵武器なんだけど、重いし連射は利かないしで、こんな乱戦下ではその性能を発揮し辛い。あくまでドーッて感じに行く武器であって、ババッて行くのは苦手なのだ。
それでも、隙を見付けて射撃。流石は高出力ビーム兵器、直撃すれば〈ゴブリ
ン〉程度なら一発でKOだ。凄いぞエーテル。
調子に乗ってる場合じゃなかった。まずは、何とかしてコウを戦線に復帰させなきゃ。そのためには〈叢雲〉のすぐ側でふんぞり返っている〈ゴブリンロード〉を何とかして、安全に復活させられるようにしなきゃ。そのためには、〈ゴブリンロード〉の注意を引く囮役が必要だ。
サラの〈モモちゃん〉は、機動力的にちょっと無理。防御力は高いけど、〈ゴブリンロード〉の猛攻を凌げる程じゃない。カノンの〈グリムリーパー〉は、機動力が高いからそこそこ行けそうな感じだけど、攻撃喰らってAPがピンチな現状、回復を優先させたい。
となると消去法で、そこそこ機動力のある〈フリューゲル〉が囮役って事にな
る。
「あたしが〈ロード〉を引き付けるから、その隙にカノンはリヴァイブユニットの用意をしといて! 余裕があれば〈グリムリーパー〉の回復も!」
『……うんっ』
「サラは〈ゴブリン〉の相手! とにかく暴れて!」
『さあ来なさいっ!!』
早速暴れ始めた。元気そうで何よりだ。
さて、あたしも動こう。今まで四人で戦線を支えていたのを、三人で頑張んなきゃいけなくなる。正直かなーりしんどいけど、やるしかない。散って行ったコウの志を引き継ぎ、コウの復活大作戦を成功させなきゃ。
と言う事で、早速〈ゴブリンロード〉に向かってエーテルキャノンを一発。ビシューンと飛んで行ったビームが、頭部に命中した。
反撃が飛んで来た。ブーストを使って回避をする。落ち着いてから、追加のキャノンをもう一発。
どうも、〈ゴブリンロード〉はあんま積極的に動くタイプの敵じゃないらしい。遠くにいる相手には、その場から銃腕で撃つのが基本だ。……て事は、移動させるためには、近付いてからナタ攻撃を誘わなきゃいけないのだろう。
と言う訳で、接近してみる。念のため、腰のエーテルソードを空いてる左手に握らせておく。ホントはキャノンをストレージに仕舞っときたいけど、そんな時間はないから右手に持ちっぱなしにしておく。
「てやぁっ!」
エーテルソードの刀身を展開させ、〈ゴブリンロード〉の足を斬る。もう一回斬って、すぐさま後退。〈ゴブリンロード〉はあたしを追って、足を一歩前へと踏み出す。おお、やった。
右手で持っているナタを大きく振りかぶり、叩き付けるように振り下ろして来
る。けど、上手く回避出来た。早めに後退しといて良かった。
〈ゴブリンロード〉が地面に食い込んだままのナタを、そのままアスファルトを削るようにして後ろに引いた。更に一歩、あたしに向かって足を踏み出す。あたしはもっと後ろに下がる。
今度は足下からすくい上げるような軌道で、あたしから見て右側へと振り抜く。ギリギリで胸部装甲を掠めた。上手い事こっちを狙ってくれてるけど、こんな近くからでっかい奴に攻撃されるのって、かなりプレッシャー掛かる。あんな大質量の武器、仮にシールドで防御したって、かなりのダメージ喰らうんじゃないだろう
か。
こっちからの反撃も忘れちゃいられない。キャノンを構え――
「うぎゃっ!?」
――って辺りで、横合いから飛んで来た〈ゴブリン〉の攻撃をまともに喰らっ
た。まあ、そりゃそうだ。〈ゴブリン〉の相手を任せたとは言え、サラ一人だけで全部を引き付けられる訳がない。あたしを狙って来る奴だっているはずだ。
〈ゴブリン〉による二方向からの攻撃を頑張って回避&防御。そりゃ〈フリューゲル〉はそこそこ速く動ける機体だけど、〈叢雲〉みたいに超速く動けるって訳じゃない。ひょいひょい避けるって感じではなく、あらかじめ大丈夫そうな場所を見付けておいて、そこに逃げ込むって感じだ。当然、反撃する暇もない。
〈ゴブリンロード〉が、ぐるりとあたしに背を向けた。その先には、サラの〈モモちゃん〉。やば、狙いが変わった。
『さあ、どんどん掛かって来なさいっ!! さあっ!!』
当のサラは、楽しそうに〈ゴブリン〉の集団に向かって、ガトリング砲をぶっ放していた。あの様子だと、多分気付いていない。
「サラ、そっち狙ってるっ!!」
あたしが叫ぶと同時に〈ゴブリンロード〉が発砲。
『きゃあ……っ!? ……や……ってくれましたわねぇっ!!』
命中判定にも怯まず、〈モモちゃん〉のガトリング砲の矛先が〈ゴブリンロー
ド〉へと向く。頼もしい……と言いたいんだけど、今の攻撃でAPが三割切った事に気付いて欲しい。つまり、逃げて欲しい。
こう言う時にこそカノンからの援護射撃が欲しいところなんだけど……あたし達はカノンの安全を確保するために頑張ってる訳で、そのカノンに助けを求めては、かえって彼女を危険に晒す事になる。
当のカノンの様子を見る。未だに〈ゴブリン〉の攻撃から逃げ回っていて、回復もリヴァイブユニットの取り出しも行えていない。じゃあ援護を……と行こうに
も、まずあたし達に援護が欲しい状況であって、だからこう言う時にこそカノンからの援護射撃が欲しいところなんだけど――
……うん。状況最悪。チームの人数が減った事が、すっごい響いてる。
……い、いやいや! こんな事で折れてどうする、あたし!
大丈夫、諦めなければ何だって出来るって、こないだ見たスポ根ドラマでも言ってたし! 最後まで諦めたりするもんか!
それに多分、そろそろ《・・・・》のはずだ。それまで粘って状況を維持出来れば、必ず好機は生まれるはず。ここが正念場だ、頑張れあたし達!
……と、脳内であたし含むみんなへのエールを送っている最中にも、サラは〈ゴブリンロード〉へと向かおうとしている。取り敢えず、急いで止めないと。
「サラ、そいつの相手はあたしがするから! 下がって!」
『まだですっ!! まだ奴をブチのめしていませんっ!!』
「あいつを〈叢雲〉から引き剥がさなきゃ! サラは回復して!」
『しかし……っ!!』
「それにほら、〈ゴブリン〉まだブチのめしてないでしょ!? 回復してからブチのめさなきゃっ!!」
『そっちはお任せしますっ!!』
即答で従ってくれた。追撃しようとする〈ゴブリンロード〉の左肩に向かって、エーテルキャノンを撃ち込む。衝撃で照準がズレた射撃は、〈モモちゃん〉を掠めて地面に穴を開けた。
再びこちらへと向き直った〈ゴブリンロード〉へと向かって、更にキャノンを一発。まだしばらくは持つとは言え、そろそろEN残量がピンチな感じになってい
る。一応、EN回復用の『エーテルチャージ』を一個持って来てるけど、こんな状況では当然使う暇なんてありゃしない。
〈ゴブリンロード〉があたしへ向かって左足を踏み込み、右手を振り下ろす。回避成功。うん、だいぶ〈叢雲〉から引き剥がせたみたい。
『……リヴァイブユニット、出したよっ』
「ナイス、カノン!」
『……でも、回復までは出来てない』
「……仕方ない、ちょっと無理して! ……サラ、今から隙作るから、回復してカノンの援護に回って!」
叫んでから、残りのマイクロミサイルを発射準備。目標を補足、狙いは〈ゴブリン〉達。
ロックオン完了。全弾発射。
ズババババーッ! て感じで飛んで行ったミサイルが、〈ゴブリン〉達に次々と命中して行く。一発一発の威力はそんなに高くはないから、AP満タンの機体までは撃破する事は出来なかったけど、手負いの〈ゴブリン〉へのトドメには十分だ。何より、本命である足止めは出来た。
「今!」
『……うんっ』
『すぐ行きますから、頑張って下さい!』
さあ、踏ん張りどころだ。ブーストダッシュ。左手のエーテルソードを振るい、一機の〈ゴブリン〉の胴体をちょん切る。返す刀で、もう一体をバッサリ。素早く後ろへと引いて、〈ゴブリンロード〉へとキャノン。
〈ゴブリンロード〉左腕の銃口がこちらを向く。発砲される前に大きく左に動く。道路にバッカンバッカン穴を開けながら迫る射撃から、必死に逃げる。進路先――〈フリューゲル〉から見て左側にいた〈ゴブリン〉からの射撃。シールドで防御。そのまま接近し、ソードでズバッと切り捨て御免。
あたしから見て右側の〈ゴブリン〉が発砲。うわー、覚悟していたとは言え、あたし集中的に狙われてる。右手にはエーテルキャノンを持っているから、位置関係の都合でシールドが使いづらい。頑張ってブーストで避ける。
チラッとスクリーンを確認。おお、〈モモちゃん〉のAPが七割位まで回復してる。隙を作った甲斐があった。
残念ながら、絶賛集中砲火を喰らっている最中のあたしには、安心してる暇はない。〈ゴブリン〉からの攻撃を避け切れず、命中。〈フリューゲル〉のAPが、残り四割を切った。
あたしのピンチを気遣って、手加減してくれるGEではない。〈ゴブリンロー
ド〉と〈ゴブリン〉から、情け容赦なく攻撃が飛んで来る。命中の衝撃にガクガク揺さぶられるコクピット内で歯を食いしばって、ひたすら逃げ回る。もうブーストゲージが空になる寸前だ。
「こん……のぉっ!!」
意地と根性の反撃キャノンが、〈ゴブリンロード〉に命中。何だかんだで、あいつのAPだってかなり減っている。厳しい戦いとは言え、勝機はまだ残ってる!
「……にゅっ!?」
二方向からの〈ゴブリン〉の攻撃に、思わず変な声が出た。急いでブーストで退避。ごくわずか加速しただけで、ゲージを使い切ってしまった。
〈ゴブリンロード〉が、横に薙ぎ払うように射撃。慌てて退避するも、ブーストが使えない今の〈フリューゲル〉では、腕の旋回速度より速く動く事が出来ない。 必死の足掻きを飲み込むかのように、道路に刻まれる弾痕が〈フリューゲル〉の背後へと迫る。
〈フリューゲル〉のスラスターに、砕けたアスファルトの破片が跳ねる。至近距離に着弾した証拠だ。
もう駄目、逃げ切れない。残りのAPなんて、あいつの攻撃力の前にはあっと言う間に吹き飛んでしまうだろう。
思わず目をつむる。命中の衝撃が――
来なかった。〈ゴブリンロード〉は射撃を止めていた。砲口から一筋の煙を昇らせたまま、左の銃腕は沈黙していた。
「……みんな、今がチャンスよ!」
……かなーりきわどかったけど、狙い通りだ。銃撃の止まった理由を確信し、あたしは叫んだ。
「あいつ今、弾切れを起こしてる!」




