表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/67

43 親玉と子分

 駐車場に放置されていた赤い自動車の上に〈叢雲〉が着地する。派手な音を立ててグシャリと潰れた車体から、外れたタイヤがゴロゴロと転がって行った。かつての所有者は、これに乗り込む前にGEと化した機械達に襲われてしまったのか、それとも車はここに放置しただけで、本人は無事逃げおおせたのか――なんて言う、プレイヤーには確認しようのない過去に想いを馳せつつ、素早くスタジアム外壁上を見上げる。


 屋根の隙間から、間違いなくこちらを見据えている〈ゴブリンロード〉の姿を確認。――赤いカメラアイが下方に動くのが見えた。


『やっば……っ!?』

 泡を食ったようにメイの〈フリューゲル〉が横っ飛びに動く。直後、ジェネレーター出力を総動員したように瞬間的に身体を跳ね上げ、〈ゴブリンロード〉が跳躍する。僕も急いで退避。


 落下の勢いと自重を最大限利用して、右腕のナタが振り下ろされる。蒼天を駆け下りた霹靂へきれきが大地を打ち砕くような、凄まじい音が大気を震わせた。爆発、と言って良い程の破砕と共に、アスファルトが散乱する。大きめの破片が一つ、〈叢雲〉に命中し、APが削られる。どうやら単なる飛来物であっても、一定の大きさや速度があれば、ダメージ判定が生まれるらしい。


 何とか体勢を整えて、反撃。〈叢雲〉のショットガンと〈フリューゲル〉のエーテルキャノンが、巨体に向かって次々と突き刺さる。


 取り巻き〈ゴブリン〉達はまだスタジアムの中であり、現在この場にいるのは僕とメイ、そして〈ゴブリンロード〉だけだ。大型の機体だけあって機敏に動けない〈ゴブリンロード〉は、次の動作へと移るまでに間が空く。隙を突くのは容易だ。雑魚からの妨害がない今の内に、積極的な攻勢を仕掛けた方が良い。


 出し惜しみをせず、〈フリューゲル〉がマイクロミサイル一斉発射。小型弾頭のことごとくが敵機に着弾する。次々と爆ぜる炎に屈し〈ゴブリンロード〉は体勢を崩し、右膝を地面に着ける。好機を逃さず、〈叢雲〉がブレードで斬り掛かる。まず左膝を縦一文字、続けて大腿部を横一文字に斬る。


『……私達ももう外に出る』

 三撃目を加える前に、カノンからの通信チャット。同時に〈ゴブリンロード〉が身じろぎする。


 危険を察した僕は急いで退避。直後、鈍器よろしく左の銃腕が薙ぎ払われる。飛びすさる〈叢雲〉の胸部装甲を左腕がかすめて振り切られ、眼前で砂埃が渦を巻いた。もう少し判断が遅かったら、痛い目に遭っていたところだった。


 スタジアムの進入路――崩落した南東側外壁を見る。〈グリムリーパー〉と〈モモちゃん〉が出て来るのが見える。当然この後、二機を追う取り巻き〈ゴブリン〉達も進入路から姿を現すはずだ。脱出の援護を行う必要があると同時に、まとめて潰すチャンスでもある。


「サラ、肩のミサイル使える!?」

『はい!』

「援護するから準備してくれ! あいつらが出て来るところへ撃ち込むんだ! 

……メイ、〈ロード〉の方任せて大丈夫か!?」

『どんと来い!』


 僕は機体を反転させ、ブーストダッシュ。余裕を持って、ゲージを使い切る寸前で停止。スタジアムから出て来た〈ゴブリン〉一機に発砲、命中させる。APはまだ残っているけど、足止め出来れば十分だ。


 別の〈ゴブリン〉に向かって一発。スクリーンに表示されているショットガンの残り弾数を確認。そろそろ弾切れを起こしそうだ。メイに〈ゴブリンロード〉の足止めを任せた理由の一つは、僕が補給のために一旦下がっておきたかった、と言うのもある。


『……サラっ』

 カノンが至近距離の〈ゴブリン〉をゼロ距離で撃ち抜きながら、控えめな音量で叫んだ。


りますっ!!』


 直後、〈モモちゃん〉の肩部のランチャーから計八発のミサイルが発射される。後部から排気炎と排気煙とをき飛んで行く弾頭が、進入路へと集まっていた〈ゴブリン〉達を捉える。狭所に密集した小型GE達に回避する隙間も逃げ場もなく、そのまま紅蓮の炎に飲み込まれ、一掃された。


 これで取り巻きの大半を撃破した事になる。圧倒的な火力を持つ〈モモちゃん〉が上手くやってくれたお陰だ。それ以外に特別なニュアンスなどないはずだ。そうに決まってる。


「補給のために一旦離脱する! 後よろしく!」

『らじゃー!』


 そう言って素早く後退し、十階建て位のビルの影へと身を潜める。いかに〈ゴブリンロード〉の攻撃であろうと、鉄筋入りのビルの外壁を貫通させるのは難しいはずだ。


 ストレージから予備弾倉を取り出し、交換。ついでだからリペアユニットを取り出し、余裕のある内にAPも回復させておく。ブレードはそれ程使用していないので、耐久値回復のためにメンテナンスユニットを使う必要性はなさそうだ。


 作業しながらビルの影から頭部を覗かせ、前線の戦いを観察する。三機それぞれ"互いのフォローはしやすいが、固まり過ぎない"程度にバラけ、〈ゴブリンロード〉へと攻撃を集中させている。


〈ゴブリンロード〉の攻撃力、攻撃範囲は脅威であるとは言え、その動きは全体的に大振りだ。決して油断出来ないのは当然であるが、丁寧に動きを見切りさえすれば、問題なく対応出来る。三機共、敵機の攻撃を回避し、少しずつ着実にダメージを重ねて行く。開始当初から目に見えて減少している敵機APゲージに手応えを感じつつ、僕は〈叢雲〉のAP回復を完了させた。


〈フリューゲル〉へと銃撃を浴びせていた〈ゴブリンロード〉が、唐突にその動きを止めて天を仰ぐ。


 これは一気に攻めるチャンスだ――と思った瞬間、周囲に〈ゴブリンロード〉が発する電子音が響いた。何となく、獣の咆哮ような印象を受けた。


 聞いた瞬間、"一体何だ"――と言うよりも、"まあ、そうだろうな"と言う納得の方が先に来た。


 直後、僕の目の前に二機の〈ゴブリン〉が、『ガシャンッ!』と派手な音を立てて着地した。多分、僕が背にしているビルの屋上から飛び降りて来たのだろう。


〈ゴブリンロード〉が、手下達を呼び出したのだ。意表を突く行動、と言う訳ではない。先ほど戦った〈レルム〉も同じ事をしていたし、何より『〈ゴブリン〉達を統制する』のが特徴として挙げられるような敵だ。ごく妥当な行動、と言うべきだろう。


 とは言え、面倒な能力である事に変わりはない。


「みんな、増援だ!」

『見えてるわ! コウはそのまま周囲の雑魚の相手をして!』


 異論はない。補給を終えている僕は、すぐに先程ビルの上から降って来たばかりの、まだ攻撃動作を開始していない二機へと攻め掛かる。至近距離からのショットガンの一発で、片方の身体を千切り飛ばす。右手のブレードで突き刺し、もう片方を串刺しにする。


 ビルの影から飛び出し、ざっと周囲を確認。建物の影やら屋上やら、あちこちから〈ゴブリン〉達が姿を現していた。このまま放っておくと、親玉との戦いに支障をきたすだろう。


 僕から見て右方向、三機固まって行動している〈ゴブリン〉達に狙いを定める。発砲。適度に散らばって飛んだ散弾が、一機に命中、一機にカスリ判定を与える。もう一発撃って、残る一機にもカスリ判定。


 三機の〈ゴブリン〉が〈叢雲〉へと向き直り、手にした火器を発砲して来る。二機はサブマシンガンだけど、一機はグレネードランチャーだった。擲弾グレネード――要するに爆弾を発射する武器で、直撃時の威力は侮れない。雑魚の使う武器だからダメージにマイナス補正は掛かっているだろうけど、かと言って油断して良い代物ではない。


 主にグレネードを警戒して回避。数発のサブマシンガンの弾は、左手のガントレットで防御。放物線を描き地面に落ちたグレネードの着発信管が作動。道路に咲いた爆風が、〈叢雲〉を側面から煽った。


 右腕を懸架台代わりにしてショットガンを乗せ、射撃の安定を図る。二発発砲。両方とも命中し、まずはグレネードランチャー持ちを撃破。


『コウ、そちらを狙っていますっ!!』

 サラからの警告に、すぐ視線を〈ゴブリンロード〉へと向ける。カメラアイがこちらを見据えているのが見えた。


 直後、〈ゴブリンロード〉は発砲しながら銃腕をゆっくり下から上に向ける。射線軸上から即座に退避。地面をまるで一直線に切り裂くように、大口径の弾痕が次々と穿たれて言った。


 回避直後の一瞬を突いて、二機の〈ゴブリン〉の銃撃が僕を襲う。直撃判定。タイミングが良過ぎる。もしかしたら、〈ゴブリンロード〉との連携かも知れない。だとしたら、実に厄介だ。単に妨害される以上の脅威である。


 ブーストで一気に接近し、ブレードで斬る。まず一機を横に斬り、斬首よろしく頭部を斬り飛ばす。よたよた歩き回るだけの胴体部は捨て置いて、もう一機にはショットガンの射撃を浴びせる。二発撃って撃破。


 味方機の様子を見る。そこそこ機動力のある〈フリューゲル〉が周囲の雑魚を牽制し、〈モモちゃん〉のガトリング砲が〈ゴブリンロード〉へと弾丸を浴びせる。〈グリムリーパー〉の狙撃が与えたと思しき被弾エフェクトも、〈ロード〉の頭部で弾ける。


 ここは、メイの援護をした方が良いだろう。僕は〈フリューゲル〉を背後から狙おうとしていた〈ゴブリン〉へ発砲。攻撃を中断された〈ゴブリン〉が僕の方へ振り向く。


『ありがと!』

「どうも!」


 ちらりとだけ振り返って言うメイに、〈ゴブリン〉へトドメを刺しながら答え

る。


『……っと、やってくれましたねぇっ!!』

 薙ぎ払われたナタをカスリ判定で凌いだサラが、腹の底から吐き出すような叫びと共にミサイルランチャーを発射。全弾が〈ゴブリンロード〉へと命中する。元気そうで何よりである。


『……コウ、何とかして欲しいっ』

 カノンからの通信チャットに振り向くと、三機の〈ゴブリン〉に襲われる〈グリムリーパー〉の姿が映った。しまった。前衛を気にし過ぎて、後ろの〈グリムリーパー〉のフォローが疎かになっていた。


「すぐ行く!」

 慌ててブーストダッシュ。接近しながらショットガンを乱射、とにかく三機の注意を引く。振り向いた一機をブレードに掛け、撃破。


「ぐ……っ!」


 至近距離から、二機の反撃をまともに喰らってしまう。シートの振動に耐えて、〈叢雲〉のAPを確認。残り六割程。さっき念のため回復しておいて良かった――けど、ショットガンにも被弾して耐久値が大きく減らされてしまった。使用そのものは問題ないけど、これ以上被弾しては破壊されてしまう。


 一機に向かってショットガンを撃つ。焦っていたためか、近距離にも関わらず外した。構わず発砲。三発目でようやく直撃、撃破。


『……あいつこっち狙ってるっ』

 カノンの声に、〈ゴブリンロード〉が銃腕を向けているのに気付く。狙いは〈グリムリーパー〉――その射線付近の〈叢雲〉も例外ではない。


『……ぁう……っ』

 咄嗟に回避――するも間に合わず、〈グリムリーパー〉に命中。APが一気に削れ、残り二割弱。


 一方の〈叢雲〉は咄嗟のブーストが間に合って回避に成功。だけど、一息付く余裕などない。手負いの〈グリムリーパー〉へ向かって、撃破し損ねた一機の〈ゴブリン〉が攻撃を仕掛けようとしている。まずい事に、背後から別の〈ゴブリン〉も迫って来ている。


 ブースト。残りゲージを気にする余裕もない。カノンも反撃を試みているけど、追い詰められて動揺しているのか、その射撃はいつもの精密さを欠いている。地面を削ったり、ビルに穴を開けたりと、ことごとくが狙いを外している。


 とにかくショットガンを発砲。当たらない。もう一発。外れ。射撃は諦めて接

近。ブレードで一機を斬り付ける。まずは右上から左下。次に左から右。二度の斬撃が直撃し、四分割された〈ゴブリン〉の身体がアスファルト上に転がった。


 更にブースト。もう一機もブレードで両断し、撃破。


 素早く周囲を確認。すぐ近くに〈ゴブリン〉はいない。当座の危機は凌いだらしい。幸いにも〈グリムリーパー〉は健在だ。けど、損傷の度合いを考えれば、一旦後退させた方が賢明だろう。


 急いでメイ達の様子を見る。残った〈ゴブリン〉達からの攻撃を受け、回避に専念している。すぐ援護に回った方が良いだろう。ここを凌げば、だいぶ戦況が落ち着――


「……くそっ!」


〈ゴブリンロード〉がこっちを見ていた。まだ僕を狙っているのか。多分、メイ達が周囲の〈ゴブリン〉の相手に専念していて、狙い(ヘイト)を稼いでいないためだ。


 ナタを持った右手を、大きくゆっくりと、ジェネレーターの全出力を込めるように振りかぶる。それだけの動作で、何をするつもりなのか分かった。


 あれはヤバい。全身を駆け巡る悪寒に突き動かされるまま、僕はブーストでその場から飛び退く――


 出来なかった。実際の〈叢雲〉の動きは、じれったい程に緩慢だった。


 ブーストゲージが空なのだ。先程からずっと使い通しだったから、必然的とも言える。だけど、何もこんな時に。


〈ゴブリンロード〉が右手を振り下ろす。手の平から離れ、回転しながら飛んで来るナタが、嫌にはっきりと見えた。


 衝撃。まともな回避も出来ずにいた〈叢雲〉に直撃。


 APゲージゼロ。


 撃破。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ