41 包囲突破
〈レルム〉が呼び寄せたGEは、ざっと数えて十数体程。大半が小型GEだったけど、三体の中型GEも混ざっている。
『……ごめん、レーダーから目を離してた』
「それは言いっこなし。……それよりも、どうする? 相手する? それとも逃げる?」
諸悪の根元である〈レルム〉にショットガンでトドメを刺しつつ、僕は尋ねる。
『逃げるにしても、まずはこの包囲を突破しなきゃいけないわよ』
〈フリューゲル〉のカメラアイで、背後にちらりと視線を送りながらメイが言っ
た。既に僕らの後ろからも、敵機は姿を現していた。
『付近の敵が集まってるって事は、逆にここ以外は手薄になってるはずよ。……カノン、スモークグレネードは?』
『……一応持って来てるけど、この状況だと出す時間がない』
『時間稼ぎも難しそうだし……正面を突破しましょう。包囲の一ヶ所に穴を開ければ、そこから逃げられるわ』
メイが言った。
『この際、出し惜しみは無用よ。全力で押し通りましょう!』
『了解です!』
「後ろは僕が引き受けた! みんなは前を!」
『一人で大丈夫!?』
「注意を引くだけなら十分だ!」
『分かったわ、お願いね!』
叫ぶなり、〈フリューゲル〉が発砲する。フルオートで発射されたサブマシンガンの規則正しい銃声が、ビルの外壁に反響しながら辺りに広がって行った。
同時に、僕も背後の一団へと向かう。標的は〈リーゼ〉。〈ゴブリン〉程度の攻撃力であれば、仮に背後から撃たれたとしてもそうそう危険な事態には陥らないだろう。この場で一番食い止めなければならない相手は、中型GEだ。
〈リーゼ〉に狙いを定め、ショットガンを発砲。マズルフラッシュを背に飛び出した数多の散弾が空間を突き進み、敵機へと殺到する。
敵がカカシのように突っ立っているだけなら、見事に命中していたのだろうけど……生憎、照準を合わせた相手は、回避機動を取る人型兵器だ。サイドステップで避けられる。
〈リーゼ〉が火器を向ける。おそらく、ライトマシンガンだろう。
軽いとは言っても、地面に据え付けて使用する重マシンガンと比べての話であり、MRの標準的な火器であるアサルトライフルよりも大型の銃だ。取り回しでは劣る分、総弾数は多い。
敵機の発砲。牽制射撃を入れつつ回避。上手い事、こちらを攻撃対象としてくれたようだ。周囲の〈ゴブリン〉からの射撃も飛んで来る。ブーストも活用し、大きく動いて避ける。
移動したすぐ側に〈ゴブリン〉が一機。位置的に、側面を取った格好だ。〈リーゼ〉が最優先ではあるものの、好機とあれば見逃す理由はない。発砲。きっちり直撃判定を取り、一撃で撃破。
(正面はどうなってる……?)
動きながら、僕の背後を――目指すべき『正面方向』である、スタジアム方面を見る。
メイとサラが、それぞれ一体ずつの〈リーゼ〉と応戦している。苦戦……と言う程でもないけど、雑魚に囲まれて思うように戦えない様子だ。その上〈フリューゲル〉の方は、ここに来るまでの戦闘で主軸として戦って来た。予備弾薬もそう沢山用意している訳ではないし、そろそろサブマシンガンの残り弾薬数も心許なくなっているはずだ。
一方のカノンは、二人の援護を行おうとしているが、妨害のせいでままならない様子だ。間近に迫った〈ゴブリン〉から、鬱陶しそうに逃れている。〈グリムリーパー〉が現在装備しているスナイパーライフルは基本、後方からの射撃を想定している。威力と射程は優れているが、連射性能は低いし、取り回しも良くはない。こんな、周囲を囲まれた状態では十全に能力を発揮出来ない。近距離での戦闘用にハンドガンもストレージに入れているはずだけど、取り出すのに時間が掛かる都合
上、現在の戦況では入れ替える暇はないだろう。
余裕がある今の内に、援護をしておいた方が良い。
そう判断した僕は、カノン機を襲う二機の内、手前側にいる〈ゴブリン〉に照準を合わせ、発砲する。
全くの不意打ちを喰った〈ゴブリン〉が、大きく体勢を崩す。隙を逃さず、ライフルを構え直した〈グリムリーパー〉が発砲、撃破する。
『……助かった』
「こっちはまだ押し止めていられるから。二人を支援して……っと!?」
通信の間に、背後の〈リーゼ〉達からの射撃が僕に襲い掛かる。反射的に横っ飛びに跳ねたけど完全には避け切れず、数発のカスリと命中判定とが〈叢雲〉の駆体に穿たれる。
狙いを付けずに、反撃の三発。敵の攻撃を強引に中断させつつ、比較的安全なポジションに素早く移動。
僕に追いすがるように、なおも〈リーゼ〉と〈ゴブリン〉は接近を試みる。先行した一機の〈ゴブリン〉が、腰に懸架していた接近戦闘用の武器を左手に構える。有りものででっち上げたような、いびつに歪んだ棍棒だった。
鈍器を振りかぶって迫る〈ゴブリン〉の動きが、我ながら冷静に判断出来た。真に注視すべき対象も。奥で、ライトマシンガンを僕と無関係の方向へと向ける〈リーゼ〉の姿。三人の内、誰が狙われているかまでは分からないが、優先するべきはあいつの動きを止める事だ。
左手一本で振り下ろされた〈ゴブリン〉の棍棒を、ぎりぎりまで引き付けて避ける。砕け散ったアスファルトの破片が、ダメージ判定を発生させる事なく〈叢雲〉の装甲を叩く。
その間に〈リーゼ〉がフルオート射撃。こちらもショットガンを撃ちながらも、ちらり、と射線の先を目で追う。サラの〈モモちゃん〉だ。
直前に気付いたサラが、咄嗟の回避を行う。鈍重な機体が、道路上を滑るように動く。直後、ガガガンッ! と肩部装甲を叩く音が鳴り響く。
「大丈夫!?」
『はい、問題ありません!』
手早くサラに確認を取って、素早くメイの様子を見る。一体の〈リーゼ〉を、右手のエーテルソードで袈裟斬りにするところだった。APを空にされた敵機は、爆発エフェクトと共に鉄くずへと姿を変える。
『〈リーゼ〉一体倒したわ! 間から抜けられるわよ!』
メイが叫ぶ。すぐ側の横断歩道上にサブマシンガンが一丁転がっているのは、弾切れを起こしたものを放り投げたのだろうか。
「分かった! 先行ってくれ!」
『コウは!?』
「すぐ追い付く!」
叫んで、なおもサラを狙おうとする〈リーゼ〉へとブーストで接近する。こいつの動きを止めておいた方が良い。倒さなくても、要はこちらを追えなくすれば十分だ。
銃撃による数発のカスリ判定など意に介さず、僕はショットガンを〈リーゼ〉へと――やや砲口を下げて、脚部へと向ける。
十分に近付いて発砲。続けて、もう一発。
二発の射撃が、狙い通り〈リーゼ〉の右足を吹っ飛ばす。バランスを失った敵機が、前のめりに倒れ込む。
これで良し。
既に包囲を突破した三機を追い掛けるように、〈叢雲〉のブーストを掛ける。すれ違いざまに、〈ゴブリン〉一機に発砲。カスリ判定で、一瞬動きが止まる。そのまま振り返る事なく、全力で離脱。
背後から雨あられと飛んで来る射撃の一発が、腰部に命中する。構わず駆ける。
適当なビルの角を、垂直に近い角度で曲がる。背後で外壁が砕ける音を聞きながらも、僕らはそのまま走り去って行った。
『はぁぁ〜〜……』
目視とレーダーで周辺を注意深く確認し、逃げ切れた事を確信したメイは、深々と安堵の溜め息を吐いた。
『うっかりしてたわ……。〈レルム〉が配置されてる可能性位、考えとくべきだった……』
「……まあ、今更どうこう言っても仕方ないし……早いとこ回復しておこう」
メインストレージからリペアユニットを取り出しながら、僕は言った。ショットガンの弾倉にはまだ弾が数発残っているけれど、早めに交換しておいた方が良いだろう。
『……それで、どうする?』
『どうする……とは?』
『……そこそこ消耗してる。進む? 撤退する?』
カノンが、みんなの確認を取るように尋ねる。
つまり、一旦セレーネへと帰還して、体勢を立て直してから改めて挑戦するのはどうか……と言う提案をしているのだ。
少々消耗しているとは言っても、ここからトランスポーターまで戻るのに何ら不都合はない。むしろ来た時と違って、弾薬を惜しむ必要も隠れて進む必要もない
分、楽な位である。
もしくはその前に、ここらを探索して見るのも良い。地形を直接確認しておけ
ば、次回以降の進行も随分楽になるだろうし、もし帰還用の片道ポーターを見付けられれば最高だ。
いずれにせよ、沿岸都市前のポーターは既に登録してある。次にミッションに挑む際にはこれまでの道程を大幅に短縮出来る。出直すと言う選択にも、一考の余地は十分にある。
一方で本来の予定通り、このまま〈ゴブリンロード〉の元へと攻め込むのも良いだろう。少々アクシデントに見舞われたとは言っても、事前に相談しておいた許容範囲には、ぎりぎり収まっている。だったら、このまま本懐である大型GE討伐に向かうのはごく当然の判断であると言える。
なんとも微妙なラインだ。もしこれ以上の消耗しているのであれば、素直に撤退の判断が下せるし、今より余裕があれば、進軍の判断が揺らぐ事もない。こう言う"ボーダー付近"での選択が、一番迷う。
ここは、みんなの意見を聞いた方が良いだろう。
「どうする? このまま攻めるのと一度引くのと、どっちが良いと思う?」
『攻める!』
「まあ、君ならそう言うと思ってたよ……」
〈フリューゲル〉コクピットの奥で爛々《らんらん》と輝く瞳まで、鮮明に思い浮かぶようなメイの即答ぶりだった。
『体勢整えたって、どーせキツい戦いになるのは避けられないでしょ。それにあたしはねー、こう言うビミョーな判断は、全部前に進む系の選択肢選ぶって決めてるのよ。そっちの方が建設的だし、悩む時間も短縮出来るじゃん』
一理あるかも知れない。"時間短縮"って辺りが特に。
「なるほど……。サラは?」
『攻めましょう』
「食い気味に言い放ったね……」
具体的には、『サラ"は?"』と言い終わった辺りでの返答だった。
『そもそもここへ来た理由は、〈ゴブリンロード〉を倒すためです。戦う余裕があるのに、本懐を遂げる事なく撤退と言うのもおかしな話じゃないですか。それに何より、良い感じにエンジンが掛かって来たところですし』
ごく真っ当な理由だと思う。終盤を除いて。
「なるほど……。カノンは?」
『……私は引くのが良いと思う』
提案した本人だけに、何となく予想は出来ていた。
『……別にここで引いても、大した損をする訳じゃないし、一旦体勢を整えて再挑戦した方が、より勝率が上がるはず』
メイ、サラとは違う視点からの意見だ。慎重な彼女らしい。
「なるほど……」
『それで、コウは? 意見を聞かせて』
最後に、メイから尋ねられる。ならば、僕の答えを聞かせよう。
「このまま攻めよう」
『お、珍しくやる気じゃない。理由は?』
理由なんて、たった一つだ。
「そりゃあ、この状況で撤退に票入れても、二対二で決着付かないし。攻めるって言った方が、色々と面倒が少ないだろ?」
『『『………………』』』
何故か沈黙が流れた。解せない。
『……あたしの感心を返しなさい……』
『……唯一、戦略と関係ない理由ですね……』
『……しょぼい……』
「あれ、何で僕責められてるの?」
これ以上なく合理的な判断だと思うのに。
『……まあ、良いわ』
頭を振る気配と共に、通信からメイの声が聞こえた。
『このまま攻略続行。良いわね?』
『『「了解」』』
誰からの異論もなく、今後の方針が決定された。




