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39 大型GE討伐ミッション

 "大型ジェネレーター搭載型GE(ギアエネミー)"。その名の通り、動力源に大型・高出力のエーテルジェネレーターを搭載したGEである。


 僕らが乗るMRとは比べものにならない程に高いジェネレーター出力に支えられたその機体は、一撃死すらあり得る攻撃力と、生半可な攻撃を受け付けない防御力とを兼ね備えている。大型ジェネレーターの搭載に伴い、巨大化した機体サイズも相まって、まさしく"ボスキャラ"的立ち位置のGEなのである。


 今までコツコツとゲームをプレイし続けたおかげで、僕ら四人はオペレーターレベル二〇を越える事が出来た。晴れてミッションの受注に必要なレベル制限をクリアしたため、この度大型ジェネレーター搭載型GE――通称"大型GE"討伐ミッションに挑戦する事が可能となったのである


 ターゲットとなるのは、〈ゴブリンロード〉なる相手。MROの雑魚敵の代名詞でもある〈ゴブリン〉の親玉のような存在で、多数の手下を率いて襲って来る……との事らしい。ゲーム内で得られる情報では、精々その程度の事しか分からない。


 攻略サイトを覗けば、もっと具体的な情報を知る事も出来るのだろうけど……我らがマスターの方針により、攻略サイトに頼るのはあくまで"最後の手段"となっている。僕を含め、特に異論はない。実際、強敵と初めて対峙する時の緊張感なんかも、このゲームの醍醐味の一つだし。中には、とにかく早く先に進みたいから、初っ端から攻略サイトで情報を得てから効率良くプレイする……って人もいるらしいけど、まあそこは人それぞれって事で。


 と言う訳で、現在僕らは北米大陸ポーター前に立っている。正確には、各々の乗り込んだMRが立っている、か。僕ら自身はコクピット内のシーツに座って、スクリーンを眺めている。眼前には、MROをプレイし始めて以来何度も何度も訪れている、すっかりお馴染みの平原の風景が広がっている。


 とは言え、今回はこれまで立ち入る事のなかった北東の沿岸都市方面が目標地点だ。情報によると、くだんの〈ゴブリンロード〉はそこの多目的スタジアムを根城にしているらしい。


 地上に残り、GE達への反抗活動を行っているレジスタンスの前線基地が、多数の〈ゴブリン〉達による襲撃を受け、現在壊滅の危機に陥っている。レジスタンス隊員による決死の潜入調査により、〈ゴブリンロード〉が沿岸都市内にある多目的スタジアムを拠点とし、彼らへの攻撃を指示している事が判明。月面都市セレーネのオペレーターはレジスタンス基地の救援のため、直ちに〈ゴブリンロード〉を討伐すべし――と言うのが、今回のミッションのあらましである。


『じゃあみんな、準備は良いわね?』

『『「OK」』』


 メイの言葉に、僕らは揃って同意を返す。


「改めて確認するけど、今回はとにかく戦闘を避けて進むって事で良いんだよ

ね?」

『そうね。完全には無理でしょうけど……それでも、極力温存するに越した事はないわ』

『……私も周囲の警戒頑張るけど、みんなも周りに注意しておいてね』


 何しろ、初の大型GE戦だ。万全の状態で挑むためにも、道中での消耗は極力抑えておきたい。


『それにしても……随分と遠いですね。今回のミッション地点……』


 確かに、マップに表示されている目標地点は、ここからかなり離れている。例えスムーズに移動出来たとしても、辿り着くだけで数十分以上、現実的には周囲の警戒や万一の戦闘などに時間を取られるだろうから、一時間位は掛かるんじゃないのか。偉大なる先人の説いた『ゲームは一日一時間』と言う言葉は、到底守れそうにない。まあ、そこは時代の変化と言う事で見逃してもらうとしよう。


『そうね。みんな、トイレとか早めに言ってね』


 VRゲームプレイ中は、現実の"身体"に起こっている出来事と、"脳"が受ける感覚とは切り離される。例えば、VRゲーム中の人間の頬をつねったとしても、ゲーム内の本人は痛みを一切感じる事はない。代わりに、『現在、外部からの刺激を受けている』と言う旨のアラートタグによって、現実の身体に起きている異変を知る事となる。


 種類を挙げれば"空腹"や"水分不足"、そして"便意"。最初は注意、次に警告。そして、Cosmosのモニタリング機能が"危険"と判断した時点で、強制的にログアウトされる仕組みになっている。


 つまり、今回のように長期戦が予想されるミッションでは、割と真面目に"便意"が敵となる可能性がある。息も詰まるような激戦の最中、トイレが原因で仲間が一人離脱……なんて言う、締まらないけど深刻な危機が現実的に起こり得る。


 幸いにもMROを初め、大抵のVRゲームには『簡易ログアウト機能』が備わっている。急用など、少しの間席を離れる時に使う機能で、Cosmosの電源を落とす事なく即座にログアウト、用が済めば即座に復帰……と言った事が出来る。ただし、長時間放置していると(オプション設定により、最大で二時間)自動的に電源が切れてしまうので、その辺りは注意しなければならない。


『じゃあ、いよいよ出発よ! みんな、気を引き締めて行きましょう!』

『『「おー!」』』


 メイの激に、僕らは揃って声を上げた。






 事前に立てた方針通り、僕らは極力戦闘を避けて進んだ。


 普段なら何ら脅威となり得ない、単独で行動する〈ゴブリン〉すら、可能であれば迂回して進む。とにかく、弾薬の一発、ENゲージの一ミリすら惜しむ。先行するカノンの〈グリムリーパー〉から得た索敵情報を、しっかりと確認しつつ進行。


 十分じゅっぷん程東に向かって進んで行くと、やがて遠方に見えていた海が間近に迫って来る。


 緑の芝生の少し向こうに、白い砂浜、青い海。空を見上げれば、抜けるような青空の中に輝く、白い太陽。


 絵に描いたように美しい、アメリカ東海岸の風景だ。少々、道路のアスファルトや歩道のレンガがひび割れ、そこらに破壊された機械の残骸が散乱している点にさえ目をつむれば、バカンスに最適なロケーションであろう。


 目的の沿岸都市は、ここの道路沿いに更に北へと進んで行く。見晴らしが良い地形ではある――つまり、敵に見付かりやすそうなルートではあるけど、同時にこちらも敵の存在に気付きやすい地形でもある。〈グリムリーパー〉の索敵能力ならば敵に先んじて探知出来るだろうから、僕らの方が有利だ。


 それに、道沿いのルートは総じて"迷いにくい"と言う利点がある。例えば森の中は、障害物が多く姿を隠しやすいけど、代わりにどこを進めば良いのか分かりづらい。マップ情報では一見進めるように思えて、実際には進めない……なんて事もあり得る。結果、予想外の大回りを強いられたり、地形の影に潜んでいた敵に奇襲を受ける事もある。大抵の場合、こう言ったところでは高いステルス能力を持った敵が配置されていたりするものだ。


 総合的に考え、今回は堅実に道沿いルートを選ぶ事にした。


 道路や砂浜に敵機を発見した場合、西に広がる平原方面へと迂回する。それなりに起伏はあるし、敵機の視界から逃れる事は十分出来る。


 空の警戒も忘れない。〈ニュクテリス〉と言う、小型の飛行型GEが飛んでいる事もあるので、レーダーだけでなく、目視での確認も怠らない。


「――気付かれた! 〈ウルフ〉が三体!」

『あたしとコウで叩くわ! カノンは周囲の警戒、サラは念のために支援の準備だけしといて!』


 もっとも、いくら警戒していても敵機に発見される事はある。そんな時は、主にメイが主軸となって撃退する。今回の〈フリューゲル〉が実弾式のサブマシンガンを装備しているのは、雑魚敵との戦いを想定しての事だ。通常戦闘用の武器を主軸とする事によって、自機のEN及び味方機の戦力を温存する。特に、ボス戦での重要なダメージ源となるであろうサラの〈モモちゃん〉は、余程の事がない限り雑魚との戦闘には参加させない(本人は『…………仕方ないです』と、いかにも不承不承な様子だったけど)。


 何とも精神的に疲れる時間が続く。


 普段のミッションでも、戦力温存のため敵を避けて進む事はあるけど、今回程極端に隠れ進む事はない。数が少なければ、普通に正面から倒して進む。初の大型GE戦に対する緊張感もあって、気分がどっしりと重くなる。


 ミッションの中には『○○と言う敵を×体倒せ!』……なんて種類のものもあるけど、何だか無性に恋しくなる。そっちの場合、隠れる事など一切考えず、発見次第手当たり次第に攻撃する……と言うやり方で済むから、気分的には随分と楽だ。まあ、そっちはそっちで『肝心の標的が、どこ探しても見付からない』なんて苦労があるけど……。


 ポーターを出発して、一時間程経過しただろうか。僕らは外壁がひび割れ色あ

せ、窓という窓が割れ、ツタがへばり付くように絡んだ、ボロボロのビル群の根本にまで――今回の目的地が存在する沿岸都市にまで、辿り着いた。






『あ〜……ようやく着いたわ……』

 僕らの気持ちを代弁するような、重い溜め息混じりのメイの声が、通信チャットを通じてコクピット内に響く。


「でもまだ道半ばと言うか、これからが本番と言うか……」

『そーなのよねー……』

『……みんな、あれ見て』


 カノンの〈グリムリーパー〉が指さした方向には、白い円柱状のオブジェクトが地面からニョッキリ生えるように存在していた。周囲のズタボロ具合から露骨な程に浮いている、汚れの一つも付着していない物体。高さはMRの全長よりも少し低く、側面をぐるり全周したライン状のランプが、てっぺん付近で赤く光っている。


『何ですか、あれは?』

『ああ、あれは片道用の端末型ポーターね。赤って事は、ここが出口ね』


 ミッションの舞台となる地球上の各地には、片道用ポーターが設置されている事がある。だだっ広いフィールドのあちこちを、徒歩だけで移動していては流石に時間が掛かり過ぎるから、こう言った"ワープ地点"がところどころ存在しているのである。


 種類は緑と赤の二つ。

 緑は入口――端末から地域毎のポーターへと戻る事が出来るタイプ。

 赤は出口――地域毎のポーターから端末へと移動出来るタイプ。


 ここにある端末型ポーターは赤だから、つまり北米トランスポーター側からここまで瞬間的に移動出来る……と言う事である。


「登録しておこう。仮にこのミッションに失敗したとしても、次はいきなりここから始められるようになる」

『弱気ねぇ、コウは。やる前から失敗した時の事考えるなんて、自分を信じてない証拠だって、こないだチラッと見たスポ根ドラマで言ってたわよ』

「チラ見ドラマのセリフを元にケチ付けられても」


『……メイは登録しないの?』

『する』

「しかも結局、するんじゃないか」


 ちなみに僕は、仮に人様から自分を信じていないと判定されようが、一切関係なく登録する。実利とは、美徳に勝るものなのである。


 MRの マニピュレーター で端末型ポーターに触れると、『登録しますか?』の問い。即答で『YES』。


『良ーし、みんな登録したわね? じゃあ、一旦休憩を入れましょう』

『『「さんせーい」』』

『取り敢えず、今の内にトイレとか済ませといてね。全員いっぺんに簡易ログアウトするのもまずいから、半々で分かれましょう』


 簡易ログアウト中のプレイヤー(あるいはMR)は、その場に棒立ち状態で取り残される。この状態のプレイヤーは、他者から触れる事も動かす事も出来ない――んだけど、"攻撃の当たり判定"だけは残されている。敵機の攻撃に対して完全なる無防備状態な訳で、下手な場所で簡易ログアウトした結果、復帰した時には撃破されてました……なんて悲劇も起こるかも知れない。


 まあ、端末型を含めポーター周辺は一種の安全地帯となっていて、基本的にGEは配置されていない。けど、全く近付けない訳ではないし、例えば良からぬ事を考える他のプレイヤーが、わざとポーター周辺まで敵機をおびき寄せて、簡易ログアウト中のプレイヤーを襲わせる……なんて事もあり得る。念のため、監視役を残しておいた方が良い。


「そうだね。カノンともう一人、僕ともう一人……で分かれた方が良いだろ。索敵能力的に」


 何気に僕の〈叢雲〉は、クランで二番目の索敵能力を持っている。……とは言っても、他の二機よりはマシ程度の話であり、あくまで平均レベルの能力でしかな

い。


『そこまで気にする必要もないと思うけどね。まあ、一応そうしておきましょう

か。んじゃ、お先ー』


 返事を待たずに、メイはさっさとログアウトしてしまった。後に残された〈フリューゲル〉の周囲を『Logout……』のタグが回る。


『……どうしよう?』

「……あー、じゃあカノンが先で良いよ」

『……うん』


 そう言って、カノンも後を追うようにログアウトした。


 後には、僕とサラが残された。


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