31 作戦会議
※途中、視点変更があります。
『作戦って、具体的には?』
「その前に……まずは敵戦力をまとめておこう」
一度交戦した事で、それなりに姉さん達の機体の特徴を知る事が出来た。勝利のためにもまずは情報を整理した方が良い。
「あそこまで周到に罠の準備が出来たのは、僕らの進路をかなりの遠距離から察知していたからだろう。ニーさんの〈イーグルアイ〉の索敵能力は、僕らの予想以上だったって事になる」
『……それに、ステルス性も高いはず』
カノンの指摘に頷く。〈グリムリーパー〉も索敵能力は相応に高い。にも関わらず、ギリギリまで発見出来なかったって事は、〈イーグルアイ〉のステルス性はかなり高いと見て良いだろう。
『なるほどね。……って事はつまり』
「うん。その他の性能はかなり犠牲になっているはずだ」
MROでは、どう頑張っても全能力が高い機体を作る事が出来ない。そう言うゲームバランスになっている。何かが突出して強いと言う事は、別の部分に弱点を抱えていると言う証拠になる。僕の〈叢雲〉が、機動力が高い代わりに防御力が低いように。
『……使っていたライフルも、SSW系統だった。そんな強い武器じゃない』
SSW系統と言えば、癖がなくて扱いやすい種類の武器だ。必要ストレージ容量も低いから"持ち運びも楽"――つまり、ストレージを圧迫しなくて済む。代わりに威力や射程等は控えめな、悪く言えばちょっと物足りない性能の武器でもある。
恐らく、〈イーグルアイ〉は味方の支援に特化した機体性能をしているのだろ
う。直接的な戦闘能力そのものはあまり高くはないはずだ。
『アースさんの〈ヘラクレス〉は大体見たままって感じでした』
見たままと言うのはつまり、『防御高い、当たれば痛い、動き遅い』と言う事
だ。実に分かりやすくて助かる。
『で、レンさんの〈フェイ〉。透明化出来るんだから、ステルス性が高いのは確
定。動きも早い。……つまり、装甲は薄いんでしょうね』
基本的に、AP・装甲と機動力とは相反する傾向にある。片方が高ければ片方が低い、と見るのはごく妥当な判断だ。恐らく、高いステルス性を活かした奇襲戦法を得意とする機体なのだろう。
「最後にエリーの〈ワスプ〉。これが良く分からないな……」
装甲と同じく、火力と機動力は相反する傾向にある。主に脚部パーツが影響を与える要素であり、機体積載量――一度に装備出来る武装の総重量が多ければ、機動力が下がるのが普通だ。
簡単にまとめれば、火力を優先して重い武器を沢山持てるようにすると、あまり素早く動けなくなる、と言う事だ。にも関わらず、〈ワスプ〉は高い水準で高火力と高機動力とを両立させていた。
「あんな大型のマシンガンを二丁持っていて、何で動きが鈍らないんだ……」
『あー、あれは特殊な脚部パーツ使ってんでしょ』
疑問を口にする僕に、メイがアッサリと答えて見せた。
「特殊?」
『そ。Xeno系統の、|尖った性能なパーツ。装甲用のエーテルを強引に機動用エーテルに充てがう事で、重いものを持っていても素早く動ける位の推力を得る事が出来るって設定の。その代わり、これを装備しているだけで、装甲に大幅なマイナス補正が掛かるわ』
メイの口からスラスラと、相手の装備パーツの特徴が出て来る。世界史の授業
で、教師からユリウス・カエサルについて質問され、『はい! ローマの凄い偉い人です!』……と、胸を張って答えた人物とは到底思えない程だ。
『つまり、〈ワスプ〉は紙装甲って言って良い位に、防御を犠牲にした機体と見て間違いないわ』
「なるほど……」
情報を整理してみたお陰で、完全ではなくとも相手の機体性能を把握する事が出来た。
なら、どうするか。
「特に厄介なのが二機。こちらの動きを察知する〈イーグルアイ〉と、チーム随一の火力を持つ〈ワスプ〉。この二機の内、どちらかを優先的に撃破出来れば……」
『そうですね。でも、どうするつもりですか? 全員で集中攻撃するんですか?』
サラが言った。
「いや、普通に近付いても〈イーグルアイ〉に察知される。今度は別の罠を仕掛けられるかも知れない」
『……じゃあ、どうするの?』
カノンの問いに、
「……だったら、〈イーグルアイ〉の索敵範囲外から〈グリムリーパー〉の狙撃を試みよう」
僕は作戦の方針を伝えた。
『なるほど……。確かに〈グリムリーパー〉のステルス性は高いし、何なら透明化も使える。いくら〈イーグルアイ〉の索敵能力が高くても、簡単には見付からないって事ね』
「ああ。……とは言え、全員で固まって行動しても意味がない。何しろ〈フリューゲル〉と〈モモちゃん〉のステルス性はお世辞にも高くはないからね。この二機は流石に隠れながら進むのは無理だ」
『おっしゃる通りです……』
高出力のジェネレーターを搭載している機体は、その分レーダー反応も大きく、探知されやすい――つまり、ステルス性が低くなる傾向にある。まあ、どんな機体にも得手不得手はあるし、これはもう仕方ない。
ならば結論。
「チームを分けて行動しよう。まず――」
僕の提案した作戦は、チーム全員からの賛同を得る事が出来た。
『……レン。レーダーに敵機を探知しましたよ』
『うむ、マップに出ておるな。……うん? 二機だけか?』
『って事はあいつら、二手に分かれたって事っすね』
『三手かもよ? この距離で発見出来たって事は、多分〈フリューゲル〉と〈モモちゃん〉じゃないかな?』
『ふーむ……。これは恐らく、遠距離から〈グリムリーパー〉の狙撃を狙っておるのじゃろうな。囮で気を引いておいて、その隙を突いて〈イーグルアイ〉の探知範囲外から……と言ったところかの』
『んじゃ、どーすんっすか? 先に〈グリムリーパー〉探し出して叩きます?』
『いや、まずあの二機を迎撃じゃ。そもそも〈叢雲〉の位置も分からんしの』
『僕達の背後、岩石砂漠から狙って来る可能性は?』
『恐らくないじゃろう。それでは時間が掛かり過ぎる。しかも相手は〈イーグルアイ〉の正確な探知範囲までは分からんじゃろうから、余裕を持ってかなりの大回りをせねばならんから、なおさらじゃ。撤退してから今まで、そこまで時間は経っておらんし、既に回り込まれてる可能性もない』
『なるほど〜。つまり……』
『来るなら、わしらの正面に広がる砂砂漠のどこからか……と言う事じゃな。取り敢えず、あの二機はアースとエリーに任せる。ニーは周囲の警戒、わしは〈イーグルアイ〉の護衛じゃ』
「あの様子、気付かれたみたいね」
スクリーンの遙か向こう、砂煙を上げながらこちらへと向かって来る二機のMRを見て、あたしは呟いた。潜んでいる〈グリムリーパー〉のレーダーで探知出来た辺り、相手は〈ヘラクレス〉と〈ワスプ〉だろう。
「二人共、頼んだわよ」
別行動中のコウとカノンへと、通信を飛ばす。
「じゃあサラ、そっちは〈ヘラクレス〉の足止めを頼むわね。あたしは〈ワスプ〉の相手をするから」
『はい!』
「まずは挨拶代わりの、同時攻撃。派手に行きましょう」
そう言ってあたしは、〈フリューゲル〉にエーテルキャノンを構えさせる。さっきまで使ってたライフルに比べて大型の射撃武器で、威力と射程に優れる代わり
に、燃費と取り回しで劣る。
「先手必勝! 喰らいなさーいっ!」
『行きますっ!』
敵機が有効射程内に入るなり、二機による一斉発射。〈フリューゲル〉エーテルキャノンとマイクロミサイル、〈モモちゃん〉のガトリング砲と四連装ミサイルランチャーがド派手に火を噴く。
放たれた砲撃の数々が、遠方の敵機へと向かって行く。白煙を曳き飛んで行くミサイル群が次々着弾、砂の大地の上に盛大な炎を上げた。実にロマン溢れる、壮観な光景だ。MROやってて良かった。
とは言え、相手方も素直に爆散してくれるはずがなかった。あたし達の攻撃を回避と防御で切り抜けた二機が、爆炎を突き破りこっちに迫って来る。スクリーンに表示されている敵APゲージを見るに、それなりのダメージを与えはしたものの、撃破にはまだまだ遠い。
『やってくれたなぁっ! おらぁっ!』
『ちょーっと驚いたよ。……じゃあお返しターイムッ!』
二機からの反撃が飛んで来る。〈ヘラクレス〉からは肩のキャノン砲。そして
〈ワスプ〉からは両手の大型マシンガン――と、背中からびみょーんって感じで飛んで来た、青白いエーテルの光。
『うげ……っ! "ホーミングレーザー"だ……っ!』
ホーミングレーザーとは、こっちを追い掛けながら飛んで来るエーテル武器である。一発一発の威力こそ低いけど、回避が難しい。その上、見た目が派手でカッコ良い素敵武器だ。あたしの〈フリューゲル〉に、是非とも装備させたかった武器なんだけど……機体構成の関係で断念せざるを得なかった。
全力で回避&左手のエーテルシールドで防御。それでも完全に防ぎ切るのは難しい。〈フリューゲル〉に三発命中判定、〈モモちゃん〉にも四発命中、二発直撃判定。それでも一発の威力が低いのが幸いして、まだAPには余裕がある。
「サラは〈ヘラクレス〉をお願い! 〈ワスプ〉の相手はあたしがするから!」
『了解です!』
お互い示し合わせて、バッと左右に分かれる。動きながら、あたしはエーテルキャノンを一発発射。〈ワスプ〉に回避される。
『お……っとっと。なるほどー、威力高そうな武器に変えて来たんだね』
エリーが言った。
エーテルキャノンの威力は、〈ワスプ〉の薄い(多分)装甲にとって脅威だろ
う。直撃を喰らえばタダでは済まないはずだ。
「ふっふっふ。〈フリューゲル〉は伊達じゃないわ!」
『お、往年の名作のセリフだね?』
「あ、知ってたんだ」
『中学時代、懐かしアニメ映画特集で。最後に隕石押し返すアレでしょ?』
素晴らしい。名作はこうして語り継がれて行くのだ。
『でもそれ、照準の動きは鈍いでしょ? ボクの〈ワスプ〉相手じゃ不利なんじゃないかな?』
「だけど万が一直撃したら、即撃墜もあり得る。だから無視も出来ない……んじゃない?」
『ありゃ、〈ワスプ〉の装甲薄いのバレちゃってる。……なるほど、メイも考えてるって事だね』
「そゆ事」
考えたのはコウだけど。あたしがエーテルキャノンを使う理由の一つは、要するに三振覚悟の一発長打狙いみたいなものだ。『当たったら』『命中すれば』な仮定の話であっても、相手に脅威と認識させて対処させる。あたし達を無視して、先に潜んでいる二機を探し出そう……と言う行動を防ぐのが目的だ。
『ふふふ、だからってそうそう上手く行くもんじゃないよ! さあ、大人しく落とされてボクにコスプレ写真取られなよ!』
「お断り!」
正直、コスプレする事そのものは良い。て言うか、割と面白そう。
写真撮られてみんなに配られるのも――ちょっと恥ずかしいけど、まだOK。
だけど、肝心の衣装を用意するのがアース。普段から学校で『なあ……ミニスカナースって、どんな怪我すれば会えるんだ……?』とかのたまってるバカチンだ。どんな衣装を着せられるか分かったもんじゃない。
『おおおおおっ!』
『きゃ……っ!』
そのバカの操る〈ヘラクレス〉が、視界の片隅で〈モモちゃん〉にキャノン砲を命中させるのが見えた。もしも〈フリューゲル〉が〈ヘラクレス〉と戦ったら――パイロットの腕前は無視して――機動力の差でこっちが有利に戦える。
その代わり、〈モモちゃん〉は機動力と火力に優れる〈ワスプ〉相手に戦う事になる。機体性能の相性の問題で、かなり不利な戦いを強いられてしまう。高火力と言う点では〈ワスプ〉の脅威足り得るとは言え、〈モモちゃん〉からの攻撃は中々当てられない上、相手からの攻撃は回避が難しい。いくら〈モモちゃん〉の装甲が厚いとは言え、〈ワスプ〉の火力に長時間耐えるのは厳しいだろう。
だからあたしの〈フリューゲル〉が〈ワスプ〉と、サラの〈モモちゃん〉が〈ヘラクレス〉と戦っている。これなら、互角に渡り合える。
『まだまだぁっ!』
『……ぅうっ』
とは言え、アースの腕前も中々のものらしい。形勢はじりじりと〈モモちゃん〉不利に傾きつつある。
『はっはーっ! どうしましたサラさん、動きが鈍ってますよっ!』
『くうぅっ……!』
サラも必死に耐えているとは言え、このまま長引くとまずいかも。
『俺の〈ヘラクレス〉の防御の前じゃ、その高火力も形なしってところっすかねぇっ!』
『……あら。それは私と〈モモちゃん〉への挑戦状と言う事かしら?』
……あ。
……地雷、踏んだっぽい。
『……え? ……いやあの、サラさん……?』
『上等よ。あなたの盾、真っ正面から粉々に砕いてやるわ』
底冷えするようなサラの声と共に、〈モモちゃん〉が猛牛のような荒々しい動きで敵機へと迫る。
〈ヘラクレス〉がキャノン砲を放つ。〈モモちゃん〉はほんのちょっと機体を横に滑らせただけの、ごく最低限度の動きだけで回避。被弾をまるで恐れていないような、神業級の回避だった。多分、ハイになった精神がもたらした神業なんだと思
う。
『さあ、覚悟しなさいっ!!』
『いやあのっ!? サラさんっ!? サラさーーーーんっ!?』
急激なまでに攻撃的となった〈モモちゃん〉の動きに、端から見ても露骨な位に〈ヘラクレス〉はうろたえていた。必死になって後ろ向きにブーストして距離を取り、ドッカンバッカンとキャノン砲を乱射していた。
……うん。あれなら多分大丈夫。あたしは〈ワスプ〉との戦いに集中しよう。
などと思った辺りで、スクリーンの遥か向こうに、MRの機影が二つ見えた。
〈フェイ〉と〈イーグルアイ〉だろう。距離が離れているから細かい動きは分からないけど――どうも、南東方面へと向かっている様子だ。
多分、気付かれたんだと思う。それなりにステルス性能が高めとは言え、〈イーグルアイ〉の索敵能力の前にはこれが限界なのだろう。
だけど、十分に時間は稼いだ。
「コウッ!」
『分かってるっ!』
南東へと進む二機へ向かって、コウの操る〈叢雲〉がブーストダッシュで突撃して行った。




