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24 リアル世界でお買い物

※二階堂舞視点です。

「あー見た見たー。買ったー」

 両手に本日の成果物をぶら下げながら、あたし達は商店街歩道を歩いていた。


 あ、どもども、二階堂舞にかいどうまいです。ただ今帆乃香(ほのか)咲良(さくら)の三人で、駅前にある商店街にてお買い物中です。


 服とか靴とか。CDとかアクセとか。色々と見て回った。これぞ休日って感じ。いやー、良いよね休日。ビバ休日!


「……そろそろお昼にする?」

 帆乃香が言った。


 辻帆乃香。VRゲーム『望郷の|ムーンラビットオンライン《MRO》』をあたしと一緒に遊んでるお友達の一人。


 もちょっと言うと、『MRO』って言うのは、プレイヤーが巨大ロボットに乗ってドシャーンバキューンって戦う神ゲーの事で、あたしがマスターをやっているクラン『超最強絶対無敵団』のメンバーの一人。


 ちょっぴり無口でテレ屋さん。ちっこい身体と相まって小動物みたいな印象の娘なんだけど、いざMRロボットに乗ったら正確無比な狙撃で次々敵を倒して行く、凄腕スナイパーに早変わり。凄いね!


「そうですね。何処で食べます?」

 咲良が言った。


 吉見咲良。同じく『超最強絶対無敵団』のメンバーの一人。


 すっごいお金持ちのお嬢様で、あたしよりも一つ年上の先輩。普段はおっとりにこやかお姉さんなんだけど、いざMRに乗ったら情け無用のキリングマシーンに早変わり。凄いね! ……でもちょっと怖いのはご愛嬌って事で。


「じゃーそこの『アレグリア』で。良いよね?」


 二人から「……うん」「はい」とお返事を貰って、全国チェーンのファミレスへと入る。ウェイトレスさんに案内されて、テーブル席へ。


 テーブルに着くなり、各席に備え付けられているボタンを押して、ホログラムのメニュー表を表示させる。これ便利なのは良いけど、真っ先に季節限定メニューを表示させといて、しかもその間の数秒程操作を受け付けない……ってのは勘弁して欲しい。


「あ、お水ありがとー。……あー、おいしー」


 咲良がわざわざセルフサービスの水を三人分用意してくれたのでありがたく頂

く。こう言う細かい気配りが自然と出来るところが、ちょっと羨ましい。


 それぞれにメニューにタッチして、全員分の入力が終わったら『送信』を押す。これで注文完了だ。複数のテーブルを使用している団体客の注文ともなれば、流石に人力(店員さん)の出番となるけど、この人数なら機械だけでOK。凄いぞ科学!


「そう言えば先程のお店で何を買っていたのですか?」

 咲良があたしの横にあるビニールの袋を指さす。


「ああ、これ? ……じゃじゃん、新作のプラモー!」

 袋から取り出して言った。


「プラモデル……ですか」

「うん!」


 さっき、二人に断りを入れてプラモ屋さんに立ち寄った時に買ったものだ。


「これはねー、〈十六夜いざよい〉って機体なの。エース向けの機体で、全体的に高い水準でバランスの取れた性能なの。シンプルな中にもエッジの効いたデザインが秀逸

で、ファンからの人気が高いんだよ」


「そうなのですか。……すみません、私こう言うの良く分からなくて……。帆乃香は知ってます?」

「……ちょっとは。そんな詳しくないけど」


「オススメだよ『TETUーRO』。アニメ版の方が分かり易いかも」

「そうなのですか。私はMROを始めるまでロボットの事は詳しくありませんでしたから。良い機会ですから触れてみるのも良いかも知れませんね」

「やたー!」


 思わずガッツポーズ。これでまた一人視聴者が増えた! いや、直接あたしに利益が出る訳じゃないんだけど。でも、ロボファンが増えるのは嬉しい。


「舞はロボットアニメが好きなのですね」

「そりゃもう!」


 脊髄反射的に即答する。


「何故、そんなにロボットが好きなのですか?」

「……私も気になる」


 咲良の言葉に、帆乃香も食い付いて来た。


「何故って。そりゃロボのフォルムとか、メカのギミックとか、破壊の美学と

か……」

「そうじゃなくて。ロボが好きになったそもそもの切っ掛けって何かあるんです

か?」

「切っ掛けかあ……」


 あたしはうーん、と腕を組む。昔の話をするの、ちょっと苦手なんだよねぇ。


 ……まあ、何が何でも秘密って訳でもないし。親友二人に聞かれちゃ仕方ない。


「あるにはあるけど……。恥ずかしいから、他の人にはナイショにしてね?」

「はい」


「絶対だよ?」

「……うん」


 予防線だけは張っておく。舌を湿らせるために、コップの水をちびり、と口に流す。冷たい感触にちょっぴり気分が落ち着いた。


「……あたしねー。小っちゃい頃はあんまり友達居なかったんだよねー」


 あたしが言うと、さも意外そうに二人の目が大きく見開かれた。うう、その反応が恥ずかしいからあんま言いたくないのに。


 まあ、この期に及んでは仕方ない。


「親が共働きでね。兄弟とかもいないし、学校から家に帰っても、誰もいなくて。いわゆる鍵っ子って奴でさ」


 いくらAIによる自動化が進み、人間の労働時間が減っているとは言え、忙しい人は忙しい。あたしのパパとママ――もとい、両親がそうだった。


「あたし、元々大人しい性格だったって言うか。あんまり外に出ないで、家で一人で遊んでる子供だったんだよね」


 自分で言うのもアレだけど、今のあたしとはまるで別人って位に正反対の性格だった。


「TVとかも一人で見ててね。で、ある時に偶然、始まったばかりのロボットアニメを見たのよ。『蒼天そうてんのフライハイト』って、知らない?」

「……知ってる。続編いくつも出てるよね」

「ああ、それなら聞いた事あります」


 おお、流石はあおフラ(そうフラって呼ぶ派もいるけど)。大ヒットした有名作。知名度抜群だ。


「あたしが見たのは初代ね。……で、これがすっごく面白くって。毎週、夢中になって見るようになったの」


 内容的には圧政を強いるイグリア帝国を打倒するため、反乱軍が建造した新型兵器『フライハイト』と、数奇な運命によりパイロットに選ばれた主人公・エディの戦いを描く――って感じだ。


「まあ子供だったし、ストーリーとか理解してた訳じゃないんだけどね。でも、面白いって思ったの。戦いとかすっごい派手だし、絵もキレイだし」


 そこまで言った辺りで、ウェイトレスさんが「お待たせ致しました」とカルボラーナを持って来た。咲良が注文したものだ。最近では機械が持って来るところ増えているけど、ここのお店ではまだ導入されていない。


 カルボラーナを受け取っても、咲良は口を付けようとしない。全員分揃うのを待っているのか、それとも話の続きを待っているのか。そんなじっと耳を傾けられると、ちょっと落ち着かない。普段はそんな事ないのに。


「ある時学校の休み時間に、クラスの男子達が女子達にちょっかい掛けて。女子達に人気のアニメを『だせーよなー』って感じでからかい始めて、ケンカ……って程でもないけど、口論になったの。男子達の見てるアニメと、女子達が見てるアニメのどっちが凄いか、って感じの。あたしは、後ろからただ眺めていただけなんだけど……」


 ウェイトレスさんが帆乃香の注文したドリアと、あたしの注文したハンバーグステーキを持って来た。手早く受け取る。雰囲気的に話し終わるまで手を付けないぞって感じなので、続きを話す。


「……その内女子達が押され始めて、一方的に言い立てられて。そして、男子の一人が『お前らなんか、〈フライハイト〉で踏み潰してやるぜ!』って言って。それを聞いたあたしは、思わず叫んじゃったの。『〈フライハイト〉はそんな事しないもん!!』……って」


 悪い事に、その場面の記憶はハッキリと残っている。正直、黒歴史を暴露するような心地だった。


「あたしにとって、〈フライハイト〉はヒーローだったから。ヒーローが弱い者イジメに利用されてるみたいに感じて、我慢出来なかったのよ。普段大人しいあたしが、男子相手に食って掛かって、その上一歩も引かないもんだから、みんな驚い

て。……まあ結局、途中で休み時間が終わってそのままウヤムヤになっちゃったけど……」


 実際には大泣きしながら、と言う注釈付きなんだけど……まあ、この位の見栄を張ってもバチは当たらないはずだ。


「だけど、女子からは『舞ちゃん凄いね!』って褒めてくれて、男子からも後で謝って貰えて。それ以来クラスのみんなと話す機会が増えて、あたしも意識して明るく振る舞うようにして。……それで、気が付いたらこんな性格になっちゃったの。ロボ作品そのものにも興味を持つようになって、今ではもう肩までどっぷりハマっちゃってるの」


 あたしが話し終えると、若干の沈黙が流れる。(あたし的に)いたたまれない雰囲気を破るように、咲良が口を開いた。


「素敵なお話です」

「い、いやまあ、子供の頃の話だしね? 単に若気の至りって言うか……」


「……舞は凄いね。羨ましい」

「や、やだなあもう。あたしなんか大した事ないって。……そ、それより二人共、この話はナイショだからね! 特にこうには!」


「はいはい。分かりました」

「……(コクリ)」

「それより! ご飯冷めちゃうし、ぱぱっと食べちゃいましょうか! いただきまーす!」


 強引に話題を変える勢いで、あたしはハンバーグをほお張った。






 そんなこんなで昼食タイムも終了。あたし達はアレグリアを後にした。


 さて、これからどこへ行こうか、それとも今日はここでお開きか……って辺り

で、咲良が何かに気付いたように口を開いた。


「……あら? あそこにいるのは昂介じゃないですか?」

 咲良が指さす方向に、見覚えのある後ろ姿。確かに、あれは昂のものだ。


 成田昂介なりたこうすけ。『超最強絶対無敵団』のメンバーの一人。


 普段は面倒臭がりな性格で、いっつも机の上でぐだーっ、てしてる男の子なんだけど、いざMRに乗れば、敵をバッサバッサと斬り捨てる凄腕剣士に早変わり。素直じゃないけど、何だかんだで優しく頼れる、あたしの盟友だ。


 昨日、一緒に買い物に行かないかと誘ったんだけど、断られた――はずなのに、何故だか駅前にいる。


「……ほんとだ」

 帆乃香がちょっと落ち着かない感じで、ささっと服の乱れを整えている。どしたんだろ?


「用事でも出来たのかな? ま、聞きゃ分かるでしょ」


『おーい!』……と声を掛けようとした辺りで、駅から出て来た女の人の姿に気が付いた。


 すらっと背の高い、ショートボブの女の人。肩におっきな鞄を掛けて、何かを探すように、キョロキョロと周囲に首を巡らせている。何より目を引くのが、花が咲いたように鮮やかに映える、真っ赤な着物。街中では相当珍しい格好だけど、その女の人はぱしっと完璧に着こなしていた。


 昂がその女の人に向かって、軽く手を振るのが見える。


 ああ、知り合いなのかなーって思ってたら。


「昂介……っ!!」


 感極まったように、女の人が名前を叫びながら昂へと駆け寄り――彼を思いっ切り抱き締めていた。


 ええ、そりゃもうぎゅーっ、と。はぐー、っと。


 ……えーっと……。


 ……あれ? どゆこと?


 ……普通・・、人前で抱き付くなんて、恋人とかの特別な関係じゃない限りはしないよね?


 ……ええと。つまり。


 ……あの人、昂の彼女さん?


 ……いたんだ、彼女さん。


 そう思いつつ、ちらっと咲良を見る。


「あら〜……」って感じで、心底驚いたような顔をしていた。うん、そうだよね。あたしも驚いた。


 ちらっと帆乃香を見る。


「qあwせdrftgyふじこlp」


 すっごい動揺してた。そりゃもう、ちょっと動揺し過ぎなんじゃないかって思う位に動揺してた。手にした袋をその場に取り落とし、小刻みにプルプル震え、涙目で謎の呪文を口走っていた。


 ……にしても。


 昨日あたし達の誘いを断ったのは、つまりあの彼女さんと会うのを優先したって事なのかな? にしたって、別にあたし達にナイショにしなくってもなあ。


 ……はっ!!


 つまり、あたし達にも話せないようなナイショの関係って事!?


 あの女の人、見るからに年上だし……まさか人妻!?


 人妻にしてはちょっと若過ぎる気もするけど、そう考えれば辻褄つじつまがピッタリフィットするわ!


 つまり、禁断の関係! これから昂は、あの人と愛の逃避行に出るつもりなの

ね!


 あたし達に一言の挨拶もなしに出るなんて! ハクジョー者め!


「ちょっと待ったああああああっ!!」


 気が付けばあたしは、叫びながら昂の方へと走り出していた。


「え……っ!? ちょっ、舞っ!?」

「どうした、昂介? 知り合いかの?」


 首をひねってあたしの姿を確認した昂が、驚きの声を上げる。対する女の人は昂を抱き締めたまま、ごく穏やかな様子であたしの姿を眺めていた。


「昂っ!! あたし達に別れの挨拶一つ掛けずに出るなんて、水臭いじゃない

のっ!!」

「休日に出会ったクラスメイトの口から真っ先に飛び出した言葉の意味が、もう僕の理解の範疇を超えているんだけど!?」


「何処にいても、あたしは昂の友達だからね! 逃避先で落ち着いたら、ちゃんと手紙出してね!」

「お願いだから当事者である僕を置いてけぼりして、感動的雰囲気を形成しようとしないでくれ!? ……って言うか、良い加減離してくれよ、姉さん(・・・)!」


 ……………………姉さん?


「…………えっと。あの、昂? その人って……?」


「おや。もしや昂介のお友達かの? 初めまして――」


 昂を抱き締めたまま、女の人は一礼した。


「――わしは成田蓮華(れんげ)。昂介の姉じゃ」


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