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22 閑話 機体のお話

「ふふっ♪」


 いかにも幸せそうなニコニコ顔を満面に浮かべて、サラは一点を見つめていた。青々とした広い草原の中、じゃれ合っている子犬達を眺めている時のような、見ているこっちまで頬が緩むような笑顔だった。


 まあ実際には、殺風景な格納庫の中、戦闘用の巨大ロボットに装備された武装を眺めている時の笑顔なんだけど。


 先日、苦労の末に手に入れた四連装ミサイルランチャーが、余程気に入ったらしい。わざわざ駐機スペースに愛機である〈モモちゃん〉を出しっぱなしにして、僕らと共に優雅な午後(※夜九時)のティータイムを満喫していた。


「ご機嫌ねー」

「……頑張った甲斐があった」


 テーブル上のクッキーをかじりながら、メイとカノンが言った。


「そー言えばさ。サラはエーテル系の武器とか使わないの?」

「エーテル系……ですか?」

「そう。〈モモちゃん〉って、そこそこENエネルギーには余裕あるでしょ?」


 エーテル兵装――いわゆるビーム兵器は、弾薬の代わりに機体のENを消費して使用する。弾薬が要らないと言う事は、その分ストレージに余裕が生まれると言う意味であり、様々な装備を携行しやすくなると言う事だ。


 一方で、ENは全ての装備で共有している。エーテルソードとライフルで、それぞれ別個に管理、設定されている――と言う訳ではない。もしもENが空になった場合、即ち手持ちの全エーテル兵装が使用不能となってしまう。


「一つ位エーテル系武器持ってた方が良いんじゃない? 攻め方に幅が出るし」

「そうですね……」


〈モモちゃん〉の武装は、実弾のガトリング砲と(以前までは)ロケットランチャーだけだった。代わりに、ストレージには弾薬をたっぷり入れていた。お陰で継戦能力は高い――んだけど、彼女の場合弾薬の消費量も多いため、実際には僕らとそう大差ない。


「確かに。コウからもナックルガードを勧められましたし……この辺りで、装備を増やしてみるのも良いかもしれませんね」

「うんうん、サラもすっかり一人前ねー。……ついでに、コウとカノンもどう? エーテル系武器使わない?」


 メイが尋ねて来た。


「いや、僕は別に今のままで……」

「えー? コウも一緒にエーテル党入ろうよー?」

「党派あるのか……」


 そりゃあ確かに三千世界を見渡せば、"犬か猫か"、"塩コショウかタレか"、"きのこたけのこか"などなど様々な党派が存在し、互いにしのぎを削っているけれども。


「ほらほらー、エーテル良いわよー? 不思議パワーなんだよー?」

「肩揺らすな。別に僕は今のままで良いんだよ」


 MRは、ジェネレーターで発生させたエーテルを、機体の様々な部分に利用している。


 例えば防御。装甲の表面にエーテルを張り巡らせる事により、機体防御力を上げている。


 例えば機動。ブーストダッシュは、エーテルで発生させた推進力を利用して、機体を高速移動させている

(余談だけど、この時発生した推進ベクトルは、エーテルを使って曲げる事も可能である。『背中にスラスターが付いている機体で、何で背中側にブーストダッシュ出来るんだ』と言う疑問については、『発生した推力を前方に向かって曲げているから。ただし、伝達ロスがあるので、前に進む時よりも移動速度は落ちる』――との事らしい)。


 MRのカスタマイズとは、端的に言えば限られたエーテルをどのように配分するか、と言う事である。とは言っても、プレイヤーが自由に数値を調整出来る訳ではない。実際にやる事は、本体パーツ毎に設定されている装備コストの合計値が、ジェネレーターに設定されている出力値以内に収まるようにしてパーツを選んで行くだけだ(単純に高コスト=高性能、と言う訳でもない)。


 僕の〈叢雲〉は、機動力を重視した機体だ。そのために出力は控え目だけど軽量なジェネレーターを選んでいるし、APや装甲を犠牲にして軽いパーツを装備させている。ENも低く、例えエーテル系武装を装備したとしても、主力として使用していればすぐにガス欠を起こすだろう。必然的に、ENを消費しない実体系武器が主体となる。


 ついでに、ストレージ容量も割を食っている。多数の武器を携行して、状況に応じて使い分ける……と言う戦い方も得意ではない。総合的な火力は、そう高くはないのだ。〈叢雲〉の強みは、機動力を生かした近接戦闘能力の高さ(副次的に、ステルス性能もそこそこ高い)にある。


「そっかー。じゃあカノンは?」

「……場合によっては使うけど。私の機体も、ENそんなに高くない」


 カノンの〈グリムリーパー〉も、僕と同じく高機動力、低耐久力の機体だ。


 ただし僕と違って、彼女の場合は遠距離からの狙撃を主な戦法としている。そのために、僕の機体よりは機動力は控えめに、僕の機体以上にAP、装甲は低く。代わりに遠くの敵を探知出来るように索敵能力を、自機の居場所を悟られないようにステルス性能を強化している。


「む〜……。二人は実弾党か〜……」

「いやだから、そんな党派に入った覚えはないから」


「良いもーんだ。あたしはたっぷり時間掛けて、サラをエーテル党に染めて行くから。せいぜい実弾党同

士、二人仲良くイチャイチャしてれば良いじゃなーい」

「お願いだから僕をおかしな党派争いに巻き込まないでくれって、本来なら言うべきところなんだけど、それより今は、オーバーヒートで強制ログアウトしそうなカノンを落ち着かせてくれ!?」


『イチャイチャ』と言う単語は、カノンにとって刺激が強すぎたらしく、警告タグと「…………ぷしゅう」と言う呟きを残してテーブル上に崩れ落ちる。幸いにも素早く適切な処置(※深呼吸)により、事なきを得た。


「ごめんねー、大丈夫だった?」

「…………うん」


 僕の様子をチラチラと窺いながら、カノンは答える。


 まあ、かなりのはにかみ屋だし、異性との付き合いを想起する単語は苦手らし

い。僕も得意じゃないけど……気を付けておくに越した事はないだろう。


「そもそもメイは、何でエーテル系武器を好んで使ってるんだ?」

「ふふん、良くぞ聞いてくれました!」


『ガタッ!』と椅子を倒す勢いでわざわざ立ち上がり、メイは叫ぶ。


「何かこう、ガンガンやってバーって行こうと思って、それでそうなったの!」

「今までで一番酷い説明だね」


 話の輪郭すら掴めない。


「ええっと、つまりね? ガンガンやって、それでバーって行こうと思ってね? それで、」

「噛み砕いているつもりで、全く砕けてないから」


 まあお陰で、余程ガンガンやりたかったんだろうなぁ、とは理解出来た。


「う〜ん……だったらどう説明すれば良いのかしら……。攻撃能力を重視して、色んな武器を装備出来るようにセッティングしたら、結果的にEN量が多くなったから、取り敢えずエーテル系を主に使ってる? ……う〜ん、これじゃ上手く伝わらないかなぁ……」

「ありがとう良く分かったよ」


 心優しい僕は、何故最初からそう言わないんだ、て言うか力説した割にしょぼい理由だなオイ、などとは突っ込まず、ウンウン唸るメイをそのまま放置してあげておいた。


 メイの〈フリューゲル〉は、攻撃重視の機体だ。ストレージ容量の大きさを利用して、様々な武器を装備している。本人も言っている通り、ENが豊富にあるた

め、エーテル系の武器を主に使用している。機動力もそこそこ。


 代わりに、APと装甲は並程度、索敵とステルス性能は並以下。前述した機動力も、過信出来る程に高い訳でもないので、一旦守勢となると弱い部分もある。とにかく、攻撃万歳と言わんばかりの機体である。


「……で、サラはどうなの? エーテル党とやらに入る気あるの?」

「そうですね……」


 サラは顎に手を当てる。


「特にこだわりはありませんね。実体弾でもエーテル弾でも、敵をれる事に変わりはありませんから」

「そうですね。全くその通りですね。論理的に筋道の通った正しい考え方ですし、何ら不穏な単語も聞こえてはいませんからね」


 サラの〈モモちゃん〉は、重量級の機体だ。高いAPと装甲、低い機動力。その耐久力を生かして敵の攻撃に耐え、高火力の武器で敵機をねじ伏せる戦い方を得意とする。今のところストレージ内には、弾薬類しか入れていないけど、別の武器を入れて状況に合わせて武器の変更を行えば、より強力な機体になるだろう。


「まあ良いわよ。エーテル系武器の魅力は知る人ぞ知る、って事で。あたしは違いの分かる女なのよ」

「結果的に使い始めただけの人に通ぶられてもな……」

「うっさい。結果的だろうが何だろうが、違いが分かりゃそれで良いのよ」

「ちなみに、どんなところが良いんですか?」


 サラが尋ねると、『ガタンッ!』と椅子を倒す程の勢いでわざわざ立ち上がる。椅子戻せ。


「良い質問だ! メイちゃんが語ってあげるから、耳掃除してから良ーく聞きなさい!」

 左手を腰に、右手人差し指を僕らに突き付け、メイは叫んだ。


「何かこう、ビーム使うのって主役っぽいから!」


「カノン、コーヒーのお代わり頼めるかな?」

「……待っててー」


 ポットのお湯がカップに注がれ、中のコーヒー粉が溶け出して行く。黒く美しい液面から、白く香ばしい湯気が立ち昇る。甘いクッキーに苦いコーヒー。う〜ん、至福のひとときだなぁ……。


「……ってぇ、聞きなさいっ!!」

「ごめん。ちょうど今、耳掃除してたんだ」

「んなもんゲーム内でやっても意味ないでしょーがっ!」

「しろって言ったの君だろ」


 余談だが、耳アカは放っておいても勝手に耳の外へと押し出される仕組みになっているので、頻繁に行う必要はない(耳の形状による個人差はあるけど)。


「あたしが折角エーテルの魅力を語って聞かせてるってのに、そのドライアイスみたいに冷たく乾いた反応は何なのよ!?」

「聞いたの僕じゃなくてサラだろ。……って事でサラ、感想をどうぞ」


「残念な娘だなって思いました」

「うわーん! カノン、みんながいじめるー!」

「……よしよし」


 学習したのか椅子が倒れない様に気を付けつつ、わざわざ席を立ってカノンに泣き付く。


「て言うか、結局決め手は印象か」

「何よう、良いじゃないの別に」


「良いけどさ別に。ただ、妙なこだわりでもあるのかと思っていたら、実際には貧相なこだわりだったってだけで」

「うっさい。どーせコウだって、カタナっぽくて格好良い位の理由でブレード使ってる癖に」


「まず刀に謝れ。次に、格好良いと思ってるのは事実だけど、使ってる主な理由は性能面だ」

「……具体的には?」


 カノンが尋ねる。


片刃剣ブレードは、両刃剣ソードと比べて耐久値が低い代わりに、直撃判定時のダメージ補正及び耐久値消費量の減少補正の面で有利なんだ。つまり直撃させた時、同じ攻撃力のソードよりも多くダメージを与えられて、しかも耐久値があまり減らない。そこが気に入ったから選んだんだよ」


「……なるほど」

「要するに、主役っぽいとか適当な理由で使ってる訳じゃないんだ。どっかの誰かさんと違って」


「むぐ……。このイヤミ男め……」

「先にイヤミ言ったのはメイの方だろ」


 恨めしそうな視線を僕に送るメイだったけど、急に「ふっ……」と意味深な溜め息をく。


「……やれやれ、仕方ないわね。切り札を切るとしましょうか……」

「はあ?」


「あたしの言葉を前に、コウの精神が『ごめんなさいメイ様。僕が未熟者でした』と屈服する姿が目に浮かぶわ……」

「何だそりゃ? そんな事する訳がないだろ」


 僕の鋼鉄の精神が、メイの言葉程度で屈服? 随分と出来の悪い冗談である。


「言ってなさい。……良い? エーテルソードには、耐久値が存在しないわ。い

え、厳密には設定されていて、本体である柄部分に攻撃を受ければ破壊される事になるけど……使用そのものによって耐久値が削れる事はない」

「……」


「つまりそもそも、耐久値を気にする手間を省ける、な武器なのよ」

「…………ま……まあ、そう……だろうね……」

「……コウ? 声が凄く震えてるよ……?」


 楽。


 その甘美なる単語が、激しい嵐となって僕の鋼鉄の精神を揺さぶる。軋む土台。金切り声を上げる意思。


「…………だ、だからって、EN気にしなきゃいけない事には変わりないだろ。その程度で僕が屈服するとでも思っているのかい?」

「コウ? 汗が滝のように流れてますけど……?」


 それでも、僕の鋼鉄の精神は膝を折る事を良しとはしなかった。辛くても苦しくても、立つ事を選んだ。


 そうだ。鋼鉄は死なない。決して折れない。例え何があろうとも――


「更に。ブレードは直撃判定の時は確かにプラス補正が大きく掛かるわ。けど代わりに、カスリ判定時のダメージ及び耐久値の減少幅には、他の武器と比べて大きなマイナス補正が掛かる。『上手く刃筋が通らなかった』って扱いね。……つまり、カスリでは大したダメージが入らない割に耐久値は大きく削れてしまう事になる。迂闊うかつな攻撃を加えれば、無駄に消耗する武器でもあるのよ」

「…………」


「対してエーテルソードは、そう言う特別な補正はナシ。そりゃあ直撃とカスリとを比べれば直撃の方が大きなダメージを与えられるけど。カスリ判定でも、そう悪い事じゃない」

「………………」


「つまり、ブレードはそこそこ考える手間が入るけど、エーテルソードは割と適当に振ってても大丈夫――つまり、扱いがとっても楽(・・・・・)な武器なのよ」


「ごめんなさいメイ様。僕が未熟者でした」

「「コウ!?」」


 鋼鉄は死んだ。呆気なく折れた。今ここに転がっているのは、無知と道化を悟った愚かな自意識だけである。


「ふっ……。歓迎するわ、コウ。エーテル党にようこそ」

 そんな僕に、メイは聖母のような慈愛に満ちた瞳を向け、優しく手を差し伸べ

る。


「はい。ありがとうございますメイ様」

「……お、落ち着いて!? 〈叢雲〉のENじゃ、使いこなせないよ!?」


「止めないでくれカノン。過ちは正されなければならないんだ」

「確かにどの武器を選ぶかは好きずきですけれど! こんな光景、人として止めたくもなりますよ!?」


 カノンとサラが止めるのも聞かず、僕は差し出されたメイの手を取る。


「さあ、コウ。機体をカスタマイズしましょう。ENを強化しましょう」

「はい。分かりましたメイ様」

「……正気に戻って!?」

「て言うかコウ、あなたの精神の足腰弱過ぎやしませんか!?」


 己の愚を悟った今の僕に、二人の叫びはもはや届かない。


 メイの言葉に、僕は大きく頷いた――






 結局、『カスタマイズをやり直すのが面倒』『新しいパーツを買うために、わざわざ買い物に出掛けなければならない』『お金が掛かる』と言う数々の現実を前

に、僕は正気を取り戻す事が出来た。


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